間話 アストラーゼ家とメイド
「ねぇ、知ってる?」
「何が?」
アストラーゼ家の屋敷の中で、二人の
「今朝、また『魔の森』でAランク級のモンスターが見つかったんだって」
「え? それじゃあ、フォード様はまた討伐軍に?」
「そうみたい。でも、今回はメリッサ様も同行されるんですって」
「は?」
片方のメイドの発言にもう片方のメイドは間の抜けた声を漏らす。
「え? メリッサ様って、昨日ルード様をお産みになられてたわよね?」
「えぇ、そうね」
「え? それでも討伐軍に?」
「そうだって、聞いてるわよ?」
「え? ……ってさっきから私、驚いてばっかりなんだけど……。じゃあ……ルード様はどうされるの?」
「シャルル様が面倒を見られるんですって」
「ヴィアルリィ家の?」
「そう」
「それでも、あの人じゃ流石にお乳は出ないわよね?」
「あぁ、その件なら既に乳母を雇い入れてるらしいわ。丁度今、シャルル様が詳しい仕事の話をしている所じゃないかしら?」
「メリッサ様もいらっしゃらないのに?」
「メリッサ様とは、昨日ルード様がお産まれになった時に一度お会いになってるって話よ」
「へぇー」
そんな話をしながらも、片方のメイドの表情には陰りが見える。
「それでも、産まれたばかりの子供を置いていくほどの事なの?」
「そうね。でも、私は偶々メリッサ様のお言葉を聞く機会があったんだけど、自分の手の届かない所で仲間が死んで行く事が耐えられそうにない。そう言っておられたわ」
「それでも……ねぇ」
そんな会話をしながら掃除をしていると、ルードの側仕えにして近衛メイド長のシャルルと、もう一人、金髪の女性が顔を見せた。
「貴方達、この人を貴方達が使ってる別棟まで案内しておいてくれますか?」
「あっ……はい」
「この方は?」
メイドが問いかける。
「ルード様の乳母の方です。メリッサ様のご判断で今日よりこの家に住み込みで働き、今後は朝昼晩2回ずつ、この人にルード様へお乳をあげてもらう事になりました」
「この度、ルード様の乳母を勤めることになりましたメリーナと言います。以後よろしくお願いします」
そう言って、金髪のほんわかした雰囲気を纏った女性が豊かな双丘を揺らしながら頭を下げる。
「あっ、はい。よろしくお願いします」
「こちらこそお願いします」
三人がそれぞれ、お辞儀をする。
「それでは、よろしく頼みます」
「分かりました。お任せ下さい」
「その人を部屋に連れて行った後はまた戻ってきて下さい。近衛メイドも連れて行ってもらうので」
「分かりました」
「それでは」
そう言ってシャルルが出て行くと、元からいた2人のメイドは息を吐き出す。
「ふぅ……少しピリピリしておられたわね」
「雰囲気が違うものね」
「とりあえず、言われた事をこなしてしまいましょう」
「そうね、メリーナさんこちらに来て頂けますか?」
「はい」
そう言って、その部屋から三人の女性が出て行く。
メリーナと呼ばれる女性を部屋に連れて行くまでの間で、この家の事やルールなど様々な事をメイド達は彼女に教える。
共に働く仲間として。
何より、未来の英雄を育てる栄誉を与えられた友として。
◆ ◆ ◆
扉を開けて一人のメイドが出てきた。
「どうだったの?」
そのメイドの知り合いであろう別のメイドが話し掛ける。
「う〜ん、わかんない。模擬戦と面接、知識や礼節のテスト、とにかくたくさんやらされたからさ」
「そっか……」
「でも、そんなに気負う必要もないと思うよ」
部屋から出て来た方のメイドがそう言う。
「でも、やっぱりなるとしたら側仕えの方が覚えも良いかもしれないじゃん」
「確かにそうだろうけどさ。その分、危険も大きいって説明されたよ?」
「そうだろけど……だからこその戦闘スキル持ちのみの募集なんでしょ?」
「まぁ、そうだろうね。なんたって名前が近衛メイドだもんね」
「私、そこまで優れたスキルを持ってるわけじゃないし……。不安だなぁ……」
二人が小さな声で雑談していると、小さな音を立てて扉が開き、シャルルが顔を出した。
「次の人、入って下さい」
「は、はい!」
その指示を受けて扉近くで待機していたメイドが中に入る。
「あの子、大丈夫かな? 能力はあるんだけど、あがり症だからなぁ」
そんな事を言いながら、面接の終わったメイドは他にも試験を受け終えて待機をしているメイド達の下へと向かった。
◆ ◆ ◆
面接部屋──
「今この場にいる貴方達は、今回の第1期近衛メイド選抜試験を見事合格したもの達になります」
シャルルの前には五人のメイドが並んでいる。
その中には、あの二人のメイドも存在していた。
「貴方達はこれから私の部下となり、私とルード様の命にのみ従ってもらいます」
そこで一人のメイドが手を挙げた。
「そこの貴方、なにか質問?」
「私達の主な仕事は何かお聞きしても宜しいでしょうか?」
「ルード様の護衛、教育、支援、伽。その他ルード様に関する様々な出来事の処理や雑務が仕事です」
別のメイドが手を挙げる。
「はい、貴方は?」
「ヴィアルリィ家はメイドとして主君の前に赴く時、幾人かの部下を持つと聞きました。その方々とは何が違うのでしょうか?」
「あれは、完成してしまってる道具。ヴィアルリィ家は総じて欠陥品を表に出さない家です。今いる部下は優秀な事には変わりないですが、あれ以上の成長を見込む事は出来ない。だから新たに人を雇い、私が教える事で様々な分野に対抗できる部隊を作るつもりです。これで答えとして大丈夫ですか?」
「はい、ありがとうございます」
そう言いメイドは頭を下げた。
「他には何もないですね?」
他には誰も手を挙げなかった。
「それじゃあ、最後に──」
その言葉と共にシャルルから突然放たれた殺気は、メイド達が反射的に臨戦態勢を取っても仕方のないものだった。
「ルード様を裏切ったらコロス」
部屋に耐えがたい空気が流れ始める。
「ルード様を謀ってもコロス」
立っているのがやっとの状況で、それでもメイド達はシャルルの目を見つめ続けた。
「ルード様の為に死になさい。私達の
「「「「「はっ!」」」」」
「分かったのならば、今日は戻って良いです。
「「「「「失礼します!」」」」」
そう言って、五人のメイドは出て行った。
こうして、ルードの預かり知らぬところでルードを慕う者は増えていく事になる。
一体どれ程増えるのだろうか──。
それは、シャルル自身にも答えの出せる事ではなかった………。
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