両親

 さて、異世界に転生してから早9日?

 初めて魔法らしい魔法を使って失敗してから5日程が立ったわけだけど、遂に今日、両親が討伐遠征から帰ってくるらしい。

 それもこれも、事ある毎に俺の側で両親の事や、アストラーゼ家という俺の生まれた家の事を話すシャルルさんのお陰で知れた訳だが。

 ちなみにあの人、それ以外でも延々と国政や世界情勢なんかを子守唄にするから、大部分は覚えきれなかったけど置かれている状況を把握するには十分だった。


 そんなシャルルさんからの話によると。

 今、俺がいる国は、エリュシャン王家が統治を行い『鉄壁国家』の異名を持つ事で知られる、エリュシャン王国という所だそうだ。

 そして、俺が住んでいる場所はその中でも魔王が統治する魔王領に1番近い領地であり。なおかつ、「魔の森」と呼ばれるSランク級の魔物が蔓延る森が北に広がっているアストラーゼ辺境伯領と言うらしい。


 まぁつまり、魔王軍が進軍してきたら最初にぶち当たる人類の盾が俺の住んでいる地域な訳だ。


 さらに、ここまで言えば分かる人もいるだろうけど、俺の名前はルード・フォン・アストラーゼ。すなわち、この地を任された辺境伯家のお貴族様の子供。

 因みに、この世界の貴族の名前は妙に長ったらしくて、その理由がどうのこうのとシャルルさんが話していたけどほとんど覚えちゃいない。

 うん、赤ん坊の記憶力をなめちゃいかんな。

 でも、一応世襲貴族に当たるのだということだけはしっかりと聞いておいた。

 まぁ、両親共に成り上がり貴族らしくて、領地には信頼のおける代官がいるんだとか。

 貴族なんてものは教養がないと出来ないし、これで、ますます両親が武一辺倒で平民からの成り上がりだというのに説得力が出る。


 それと、これは驚き半分納得半分で聞いた事。

 俺の両親の名前はフォード・フォン・アストラーゼとメリッサ・フォン・アストラーゼ。

 この名は、世界にたった2人しかいない冒険者ランクSSS──すなわち人類最高峰の英雄、らしい。


 なるほど、だから俺のステータスがあんな馬鹿げてるのか。

 と、納得したのは懐かしい思い出になる。


 両親は1年前、魔王直轄の四天王を討ったことで、人類の救世主、最強の人族、とまで称えられ、国王陛下から直々にこの地を守ってくれないかと願い請われたらしい。

 で、両親は根無し草生活にも飽きてきており、そろそろ落ち着きたいと考えていたから丁度いいとその頼みを引き受け、この地にやって来てからは魔物の進行や魔王軍の侵略から領地の人々を守っているみたい。


 それで、つい最近ルードこと俺が産まれた、と。


 まぁ、シャルルさんが話していたことを要約するとこんな感じになる。

 まだまだ分からない事は数多くあるが、それはおいおい知識を付けていけば良い。

 この感じだとシャルルさんは高度な教育を受けてきた知恵者みたいだし、所々でシャルルさんの語り掛けに口を挟む精霊の方も、思った以上に知識があるんじゃないか?

 行動するにしても、この二人から聞けるだけの話を聞いてから動いた方がポカをやらかさなくて済みそうだ。


 既に穴が空くほど見つめた天井を眺めながら、『魔眼』を部屋中に配置して俯瞰的に俺の状況を見てみる。


 今は二人が部屋から出てるから『魔眼』なんかは使えるけど、少し部屋に近づいただけで直ぐにバレるから遣り難いしな。

 最初にヘマをした所為で二人共過保護になっちゃったし、少し魔力が漏れたら一瞬で飛んでくるから、余り魔力が漏れない『魔眼』や隠蔽系の技術ばかりが上達して『鑑定』なんかが出遅れ始めてるから、出来ればどうにかしたいんだけどなぁ。


 そんな風に色々と案を出してみるが、結局はある程度成長してから両親に学んだ方が良い、という所に落ち着く。


 「貴族の責務ノブレス・オブリージュ」って言う程高尚なものじゃないけど、貴族からでも平民からでも、英雄のお貴族様の息子が堕落した嫌な奴とか、もうそれだけで付け入る隙だらけで問題だし……。

 ある程度恵まれた位置からスタート出来たなら、それを他者に還元した方が生活しやすいのも世の不条理。

 生憎と話に聞く両親は、剣技の達人と魔法の達人。これだけで学ぶ環境には事欠かない。

 さらにはシャルルさんは王宮にも勤めていたことがあり、礼儀・作法にも問題が無いときた。


 転生前に『不思議ちゃん』に何か大事を成すって言われたからじゃないが、下地としては十分過ぎるほどあるんだよなぁ……。

 シリアスがあって魔王を倒しに行くとか、勘弁して欲しいんだが……。


 『魔眼』で見る自分の顔は、未だ一歳にすらなっていないと言うのに、何処か憂いを帯びた哀しそうな表情をしていた。


 まぁ、俺の将来や環境の話はこの辺にして、この5日間でどれ程魔法が上達したか……。


 1日目。

 自分の魔法で自爆してから目が覚めて、まず最初に思ったのは「攻撃魔法は危ない」だった。

 ならばと思い、体内循環と隠密系のスキルを伸ばそうと思い訓練をしてたら、シャルルさんがけたたましく音を立てながら扉を開けて入ってきて、俺が寝てるベットを覗き込み、俺がいると心底安心した様な表情をしたもんだから、数時間で訓練を止めた。


 2日目。

 体内循環の訓練ばかりで、あまりの退屈さに前世のファンタジー映画を思い浮かべてたら、天井に向かって火炎放射を吐いていた。

 何故そうなったのかは自分でも分かってない。

 ちなみに、シャルルさんは絶句してた。


 3日目。

 シャルルさんと精霊さんが俺の側から離れなくなった。


 4日目。

 シャルルさんと精霊さんが少しの間席を外したもんだから、この隙に何か魔法を! って調子に乗ったら放電した。

 シャルルさんが泣きながら資料を集めて何かを調べてた。

 物凄く悪い事をしたと、心の中でひたすら土下座をした。


 5日目。

 今に至る。


 ………。

 思い返せば……迷惑しか掛けてない……。

 だが、ステータス的には順調に成長してるんだよな、これが。


 心の中で一言念じるだけで、目の前にディスプレイのような物が浮かび上がる。


────────


ルード・フォン・アストラーゼ 人?族 男 0歳

職業「バンブツヲスベルモノ」

HP 2569

MP 14552

力 765

防御 345

素早さ 658

器用さ 6352

魔力 9870

運 580

カリスマ 1011


称号

英雄の子・剣聖の素質・賢者の血筋・シャルルの主・精霊を生みだしし者・神に愛された子


隠しスキル

 特典スキル

『無詠唱』『完全再生』『MP超回復』『経験値3倍』『熟練値4倍』


スキル

 Uスキル

『***』『皇帝の覇気』

 Rスキル

『業火魔法Lv.3』『聖魔法Lv.2』『暗黒魔法Lv.2』『隠密Lv.3』『気配遮断Lv.4』『魔力感知Lv.2』『激流魔法Lv.1』『時空魔法Lv.4』『魔眼Lv.4』『偽装Lv.3』『氷結魔法Lv.1』『魔力遮断Lv.1』『気配察知Lv.2』『万物鑑定Lv.3』『雷鳴魔法Lv.2』

 スキル

『忍び足Lv./』『投擲術Lv.6』『交渉術Lv.8』『火魔法Lv.7』『魔力制御Lv./』『気配把握Lv./』『鑑定Lv./』『剣術Lv.8』『弓術Lv.4』『拳術Lv.3』『遠見Lv.6』『土魔法Lv.6』『召喚魔法Lv.8』『精霊会話Lv.2』『魔物制御Lv.7』『精霊召喚Lv.5』『魔物会話Lv.3』『風魔法Lv.8』『精霊魔法Lv.3』『精霊制御Lv.9』『時魔法Lv.1』『氷魔法Lv.10』『麻痺減衰Lv.9』『雷魔法Lv.8』『状態異常減衰Lv.9』『空間魔法Lv.8』『言語理解Lv.4』


残りポイント:86,426pt


────────


 俺、生後1週間ほどで人であるかすらも疑わしくなったみたい。

 まさか疑問形が付くとは思ってもみなかった。

 あぁ、そう言えば。これは、魔力を捏ね回してて分かったんだけど、MPは総魔力量、魔力は最大出力っていうのが今の所考えられる点だ。

 それ以上はどう引き出そうとしても出て来なかったし。おかげで、『魔眼』を作りすぎて部屋中目ん玉だらけになって慌てた。


 自分のステータスを確認しながら魔力をコネコネしていると、シャルルさんの魔力が部屋に近づいて来るのが分かった。

 部屋中に浮かぶ『魔眼』を全て消してベットの上で待っていると、部屋の扉を静かに開けてシャルルさんが入って来た。


「ルード様、もう直ぐ御二方が帰ってこられるようです。門の前まで迎えに行かれますか?」


 俺の異常状態にも臆することなく、むしろ今まで以上に甲斐甲斐しく世話をしてくれるシャルルさん、ほんっとうに感謝してます。


「うぅ〜、あっ、あぁ〜う〜」


 とりあえず、じたばたしながら手を伸ばす。


「わかりました。では、私が運ばさせて頂きますね」


 微笑みながら俺を抱き上げてくれるシャルルさん。


 ……山田。長谷部。倉好。

 その他諸々の前世の同士よ。

 女性のおっぱいには夢と希望が入っている、なんて言っていた事を馬鹿にしてごめん。

 これには、夢と希望と浪漫が詰まっているぞ。


 シャルルさんの胸部に圧死させられそうになりながら、そんな事実に悶々とする俺。

 そして、そのまま家を出る準備を始めた。






 準備が終わり次第家を出て、門に向かって抱かれたまま運ばれていると、シャルルさんが静かに語り掛けて来た。


「ルード様。私は、例えルード様がどの様になられようとも何処まででも付いて行きますからね?」


 俺を運びながら、尋ねるように、それでいて拒否を許さないような声音でシャルルさんが言う。


 もう、何度も聞きましたよシャルルさん。貴方がそれで良いなら俺は何も言いませんって。


「あぁ〜う」


 俺が魔法を暴発させるようになってから何度も聞くその言葉に、了承の意味を込めて返す。


「ふふ、ありがとうございます。ルード様」


 そんな会話をしながら、2人で門の所まで行くと。


「「「「わあぁぁぁ!!!」」」」


 人々の大声援が聞こえた。


「どうやら、帰ってこられたようです。この場で待ちますか?」


 シャルルさんが俺に問いかける。


「あぅ」


 勿論、と言ったつもりだ。


「ふふっ」


 そんな風にシャルルさんと見つめ合って待っていると、軽快な蹄の音が聞こえて来た。

 シャルルさんを促してそちらの方に顔を向けると、二頭の馬を先頭に歴戦の猛者の様な雰囲気を持つ一つの団体が門を潜るところだった。


 そして、先頭の馬に乗っていた2人が俺たちに気づくと、即座に馬上から身を翻し華麗な体捌きで人の波をすり抜けて来た。


「「ルード!!!」」


 ここに来て、俺は両親と2度目の対面を果たした。


 しかし────。






 うぇっぷ……。

 やばい、獣の匂いと蒸せ返る様な汗臭さと死臭で、いしきが……とび……そ…う。


 生後1週間程の赤ん坊に戦場の匂いが耐えれるはずもなく、両親の頭上に特大の水球ウォーターボールを出現させてから意識を手放した。


 くそっ………ゆだん…した………。






 いつになったら俺は安眠できるようになるのだろうか。

 そんな思いを胸に、シャルルさんの胸の中で今日も夢へと旅立つ。

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