ステータス

 ……ぅん……?

 あぁ、転生……したんだっけ。

 色んなことがあり過ぎてイマイチ実感なかったけど、俺、一回死んだんだよな。


 そう思いながら目を覚ますと、まず視界に入ってきたのは天井の木目だった。


 木……木かぁ。

 綺麗だけどそれも最初だけだろうなぁ。

 「知らない天井だ……」なんて、使い切りの一発ネタだし……。


 そんな事を考えながら周りを見ようとするも、全く体を動かす事が出来ない。


 赤ん坊って泣くのが仕事らしいけど、確かにこれなら何をするにもそうした方が早いな。

 不審がられない程度に泣いた方が良いんだろうけど、周りに人がいないし、どうするべきか……。

 ていうか、想像以上に動揺してないのに驚きだな。

 俺ってこんなに達観してるようなヤレヤレ君だったっけ?

 もっとこう……何処にでもいそうな、普通の大学生だったと思うんだけど。

 スキルでも無さそうだし、何か変わっちゃったのか?

 だとしても、頭はスッキリしてるし損は無さそうだしで別に良いけど。


 天井の染みを眺めながらそんなことをぼんやりと考えていると、静かな音をたてながら部屋の扉が開き、意識を失う前に見た黒髪黒眼のメイドが入って来た。


 おぉ、やっぱり美人だ。

 というか、見ようによっては日本人にも見えなくないか?


 そんな疑問を呈していると、こちらを見たメイドさんの顔に笑みが浮かんだ。


「お目覚めになられましたか? ルード様」


 成る程……。

 これは、かなり恥ずかしい。

 3歳ぐらいまで記憶があやふやなのも良く分かる。

 中身は成人してるんだから、シモのお世話をされてるとか誰にも言えない………。


「お目覚めになられたようでなによりです。早くあなた様にご挨拶できる日を心よりお待ちしております……」


 そんな事を言いながら、俺のオムツを優しい手つきでテキパキと取り替えるメイドさん。


 なんかいきなり好感度が高くないか?

 子供好きのメイドさんなのかな?


 そんな疑問が浮かぶも、動くことのできない現状では気にしても仕方のないことなので、とりあえず置いておくことにする。


「フォード様とメリッサ様は今、魔族及び魔物の討伐に赴いておられます。いつかルード様も戦場に立たれることになられるのでしょう、その時は私めがお側でお手伝いさせていただきたく思います」


 あの白い空間で聞いた時から覚悟はしてたけど、魔物……かぁ。なんとも殺伐とした世界だな。

 それに、子供ほっぽって両親共に魔物退治とは……。

 考えられる事としては、「魔物の出現で休む暇がない」「上からの要請に断らず扱き使われている」「両親が実力者であり、それで家が保たれている」「俺が兄弟姉妹の末っ子であり、あまり気にかけられていない」って所かな?

 多分、最初と三番目ってのがあり得そう。

 だって、なんか凄い二つ名とか持ってるみたいだし。


「いずれ、物心ついてからになりますが、御二方から様々なことを学ばれることでしょう。ですが私がお側に控えておりますゆえ……」


 そんな事をつらつらと話すメイドさん。


 この人は0歳児が理解できると思って喋ってるのだろうか?

 いや、まぁ……俺としては、色々と情報が手に入るから嬉しい限りなんだけどさ。


「それでは、家事の方をしてきます。今しばらくお待ちくださいね」


 そう言いながらメイドさんが出て行く。


 しまった……『鑑定』使って名前だけでも見ておけば良かった。

 でも、雰囲気がヤバそうな人だったし、実力者っぽい両親が留守の間に俺に付いてるんだから、あの人も相当な使い手かも……。

 だとすると、無闇矢鱈と魔法を使う訳にはいかないか。悪魔の子だの何だのと、教会関係者に目を付けられるのも嫌だし……。

 状況がはっきりするまでは赤ん坊のフリをしておくのは、物語で読んだことがある事とはいえ、そう大きくズレてる事でもない気がするな。

 ひとまず、自分の能力を確認してこれから何をするか考えていかないと。情報がなきゃ何をしていいかもわからないし………。


 そう思いながら、自分で自分に『鑑定』を使ってみる。


 ──しかし、何も起こらなかった。


 あれ? レベル的には丁度真ん中だし、レベルが低いって事はないよな?

 じゃあなんだ?


 そうは考えるも答えが出なかったので、もう一度『鑑定』を使ってみる。


 あぁ? もしかして、『鑑定』の方がおかしいのか?


 さっきと同じように何も起こらなかったので、俺は頭の下に置かれたふわふわの枕に頭を埋めながら、天井の木目を眺める。


 試しにアレにやってみるか。


 そう思い、天井の木目に向かって『鑑定』を発動してみた。


────────


 シシゴケラの木目

 全国各地に生息し、繁殖力が高い割に環境適応力は弱い。木目に沿って割ってから乾燥させると、高級木材になるとされている。


────────


 はぁ……成る程。高級木材なのか……あの天井……って、違う!

 いや、でも『鑑定』に問題がないのは分かった。

 つまり、『鑑定』で自身の状態を見る事は出来ないのか……。『鑑定』の有効判定範囲を知っとかないと無駄に力だけを消費したり、相手に気取られたりしそうだな。今の所、無機物は確定っぽいけど。

 となると、ステータスを知る方法で鉄板なのは……やっぱり一つだけだろうから。


 そう考えて定番中の定番であるあの一言を心の中で叫ぶ。


 【ステータスオープン】!


 ぶぉんっ、と音を立てて眼前に何かが現れた。


────────


ルード・フォン・アストラーゼ 人族 男 0歳

職業ジョブ 「スベルモノ」

HP 2569

MP 1255

力 765

防御 345

素早さ 658

器用さ 566

魔力 1635

運 580

カリスマ 1011


称号

英雄の子・剣聖の素質・賢者の血筋・シャルルの主


隠しスキル

 特典スキル

『無詠唱』『完全再生』『MP超回復』『経験値3倍』『熟練値4倍』


スキル

 Uスキル

『***』『皇帝の覇気』

 Rスキル

『業火魔法Lv.3』『聖魔法Lv.2』『暗黒魔法Lv.2』『隠密Lv.1』『気配遮断Lv.1』『魔力感知Lv.2』『激流魔法Lv.1』『時空魔法Lv.4』『魔眼Lv.4』

 スキル

『忍び足Lv./』『投擲術Lv.6』『交渉術Lv.8』『火魔法Lv.7』『魔力制御Lv.6』『気配把握Lv.9』『鑑定Lv.5』『剣術Lv.8』『弓術Lv.4』『拳術Lv.3』『遠見Lv.6』『土魔法Lv.6』『召喚魔法Lv.8』『精霊会話Lv.2』『魔物制御Lv.7』『精霊召喚Lv.5』『魔物会話Lv.3』『風魔法Lv.8』『精霊魔法Lv.3』『精霊制御Lv.1』『時魔法Lv.1』『氷魔法Lv.8』『麻痺減衰Lv.9』『雷魔法Lv.6』『状態異常減衰Lv.9』『空間魔法Lv.8』『言語理解Lv.1』


残りポイント:86,426pt


────────


 やっぱり!

 でも……て言うか……いや…色々と聞きたいことが……まず『スベルモノ』って何? 統べる者? 滑る者?

 いやこの際なんでもいいけど……。


 全然よくない気がしないでもないが、ひとまず面倒ごとになりそうな気配を漂わせているものは放置しておいて、他のを見ていくことにした。


 まず……職業レベルが、無い。経験値倍化が無駄になったのか?

 ステータスは………いや、なんか……もう、絶対普通じゃない………な。

 まぁ、ね? スキルを取ってる時から薄々気付いてたよ。でもさ、こう、楽しいじゃん? 俺も日本のサブカルチャーに侵された身としては、スキルが沢山あるって憧れる訳よ。それが自衛に繋がるわけだしさ。

 一先ず、その事自体は色々と分かってた事だから置いておこう。

 でも! ステータスよ! これは絶対に普通じゃない!!

 称号とかユニークスキルとか色々聞きたいこともあるけど、今のレベルの鑑定じゃそこまで詳しい事はわからないんだよ。だからひとまずは横に置いて置くとして。

 でも、これは……もうこの世界はこれが普通だと思っていいのだろうか?

 『不思議ちゃん』が言うには、ユニークスキルは滅多に発現しないらしいが、俺の場合伏せ字含めて既に二つあるぞ。それに、赤ん坊がステ3桁とか見てて頭が痛くなるんだが。

 ドラクエでも初期値は二桁なのに……。

 これで成長したら恐ろしい事になりそうだな……。

 だが、ここまで来ると寧ろ何をしたら良いんだ? 下手に独学で足掻こうとするより英雄らしい両親に教えを受けた方が良くないか?


 そう思った俺は、抑えが利かず汚れてしまったオムツに辟易としながらこれからの事を考える。


 取り敢えず、『魔力感知』と『気配把握』を完璧に使えるようにするべきか?

 となると、魔力ってのを一通り扱えるようにしておいた方が良いかもな。

 一番問題なのは、魔力とは使えば増えるのか、それとも、使わなければ増えるのかって事なんだけど……。


 そんな事を考えていると、ふと冷や汗が出てきた。


 …………偽装系……どうしよう?






《ルードはスキル『疑惑Lv.1』を手に入れた!》


 ……あっ、はい。………もう、何も言う事はありません。

 ……ご都合主義万歳!!


 因みに、手に入ったスキルは『鑑定』が有効だったので、詳しく表示すると──。


────────


 スキル『疑惑』

 相手に違和感を与える程度の能力。レベルが低いほど気づかれやすくなり、高いほど違和感程度に収まる。

 『看破』系のスキルには軒並みバレる。


────────


 だったので、速攻で450pt使ってLv.10にした。

 そしたら、100pt消費して上位スキルらしき物に変化した。


《『疑惑Lv.10→偽装Lv.1』になった!》


 はぁ……。これでひとまずはどうにかなるだろ。それに、赤ん坊の体じゃもう限界みたいだし、続きは明日にしよう……。

 次は…親に……会えると…いいけど……。


 こうして、俺はこの後二日目を寝て過ごした。

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