第一章 誕生

神の子

「/#_&_gjurtmmv_g&_*〆35:」


「vw_itds23々4:×5」


「jmjvjjl÷÷5々・7|」


 ………んっ、あれ?


 耳に聞こえてくる全く知らない別言語に、本当に転生したのか、と半分驚きながら目を開こうとするが中々上手く開く事ができない。


 ……あ、あれ……?


 それでも無理やり見開いてやろうと頑張ってみると──。


 ……ぁ、ってぇぇぇぇ!


 カッ、と強烈な光──恐らく電灯などの光りであろうが、網膜が焼き切れるかと思うくらいのダメージを負った。


 なんで!? 電灯で!!?


《スキル『完全再生』が発動しました》


 そうやって全く動けない状態の中、意識だけで悶えていると、何故かスキルが発動した。


 ……あ、あぁ。初めてのスキルが……初めてのダメージが……で、電灯だとは思わなかった……。


 再生が問題なく発動した事に喜べば良いのか。

 それとも、再生が必要な程のダメージを負った事に驚いた方が良いのか。


 兎に角、無理はダメだ……。


 転生初日で体の脆弱さを知れた事だけは本当に良かったと思う。


「aj(gasm2…・〆24」


「かatlam×904€€3」


 それはそれとして。


 ふわふわとした布の感覚をほんの微かに感じながら、周りの状況がどうなっているのか考えてみる。


 さっきから聞こるこの声は、恐らく俺の父親か母親の声なのだろう。てっきり『不思議ちゃん』がサービスで言語系チートをつけてくれてるもんだとばかり思っていたが、これはまた苦労しそうな展開だな。

 最後に言っていたサービスがそれだと思っていたばかりに、また一から勉強しなきゃならないのか。


 あの時、言語系のスキルが出るまで粘らなかったことを少しばかり後悔した。


 ま、あいにくと物覚えのいい子供からやり直せるんだし、高望みする程の事でもないか。


 そう思って、再度周りに意識を向けようとした時、頭の中に機械音が鳴り響いた。

 

《ルードはスキル『言語理解Lv.1』を手に入れた!》


 おぉ、もう何も言うまい。それで………えぇっと、これは翻訳機能? と、捉えていいのか? 

 ……ん? ルード? これは俺の名前か?


 そう思いながら、話し声のする方へ意識を向けてみる。


「おぉ、これはまさしく英雄の子に相応しきお姿」


「ありがとうございます、クレーベン大司教様」


「『剣狼』と『大賢者』のお子ともなれば、将来は引く手数多になりますな。はっはっはっ、羨ましい限りです」


「その様な事は、この子が選んだ相手を優先させてあげたいと思ってますので……」


「おっと。いやなに、そのようなつもりではないのですぞ。ただ一人の男としての嫉妬ですかな、いやぁお恥ずかしい」


 さっきから聞こえてくるのは、凛としながらもどこか慈愛に満ちた女性の声と、声に迫力がありながらも優しさを纏った男性の声。その他にも様々な人の声が聞こえる。


 片方は母親の声……なんだろう。でも、もう片方は誰だ? 大司教? 教会の権力者か?

 それに『剣狼』と『大賢者』とは、これまた大層な二つ名だな。


 電灯のダメージから立ち直り、徐々に視界に光が入ってくるようになって来たところで、周りのざわめきが聞こえてきた。


「それよりも、私には妻子がいないのでわからないのですが、子供とは生まれてすぐに泣くものだ、と聞いたのですがどうですかな?」


「え、えぇ……その通りでございます。大司教様」


 ここでまた別の人の声が聞こえてきた。


 それにしても、ぜっんぜん周りが見えない。親の顔も周りの状況もわからないというのは、なんというか不安になるな。


「では、なぜ泣かないのですかな?」


「わ、わかりません………」


「ん? 分からないとは。確か、あなたは出産助手の経験が豊富だときいたのだが」


「はい……それなりの経験を積んでいます。で、ですが泣かない時の子供は、その……ぁ、あの……」


「あの、何か問題があるのですか?」


「早く言いたまえ、メリッサ殿が不安そうにしておられるではないか」


 ほぉ、母親の名前はメリッサっていうのか。


 早口過ぎて今の赤ん坊の体じゃ殆ど聞き取れないけど、その名前だけは何故かすんなりと耳に入って来た。


 それを知れたのは良かったけど、それよりも早く周りが見たい! なんっにも見えない!!


 産まれたての子供の視力というのはほぼ無いって聞いた事があったけど、この場合はそれが恨めしい。


「……な………す」


「ん? なに? 聞こえるように言いたまえ」


「…し、しばらくして……な、亡くなることが多いのです……」


 周りが急に静かになったのがわかった。


 少しして、男の怒声が響く。


「なに!? 早く治療をしたまえ!!」


 もっとゆっくりと話してくれると助かるのに……。


 俺がそんなことを思ってる間にも、どんどんと周りは慌ただしくなっていく。


「っ! ……な………す」


「ど、どうしたら良いんですか!?」


「急ぎなさい!!」


「ないのです!!」


「「……は?」」


「治療方法がないのです!」


 母親であろう人が息を飲み、俺を強く抱きしめたのを感じた。


「なんだと!? いや、それよりも、フォード殿だ! 『剣狼』殿はどこに行かれたのだ!!」


「さ、さきほどの『亡くなることが多い』との言葉を聞き、メイドを一人連れて飛び出していかれました」


「は……? いや、そうか。なら良い。恐らく医者を探しに行かれたのだろう。それよりも、この中で『回復ヒール』を使える者はいないのか!!」


「ルード、ルード……。私達の愛しい子。どうか、どうか死なないで……ルード」


 母親の嘆き声と大司教だという人の怒鳴り声が頭に響く。


 おぉ、ようやく目が見えるようになって来た。


 そんな周りの騒動とは別に、俺の方はさっきまでぼんやりとしか感じられなかった光をハッキリと感じれる様になってきた。


 相変わらず視力が弱過ぎて何も見えないけどな。

 それでも、ピントのずれた眼鏡を掛けた時のような視界があるのは何でだ?

 スキルの効果か何かか?


 その時、『魔力感知』と『気配把握』の二つのスキル名が突然頭に浮かんだ。


 おぉ──?

 これは……。無意識に使ってるのか? それとも、能動型パッシブスキルだから勝手に発動してるのか?


 どちらにせよ、このスキルのお陰で、俺は視界が効かなくても周りの状況をある程度把握できるようになった。

 そのおかげで、漸く周りが俺の事に注目しながら行動している事に気が付いた。


 うーん……。このフォンフォン渦巻いてるのが魔力だよな?

 とすると、部屋のあちこちから俺に向かって暖かみのある魔力が飛んで来てるのが分かるんだけど、もしかして何か問題でもあるのか……?


 そんな風に少しばかり不安に思っていると──。


 ドゴォッ、とデカイ音が鳴って研ぎ澄まされた刃の様な魔力存在が部屋に入ってきた。


「メリーッ!! ルードは!!!」


 入ってきたのは、焦げ茶色の髪をした赤い眼を持つ中々のイケメンな男だった。


 あれ? 何で髪の色や眼の色まで分かるんだ?


 そんな疑問を抱くと、次は『魔眼』という文字が頭の中に浮かぶ。


 なるほど、『第三の目』宜しくそれで見えてるって事か……。

 スキルが万能すぎるな、これは。


 そんな事を考えていると……。


「わからない、わからないの。生まれたばかりの子は泣くらしいのだけど、ルードは、ルードは何故か泣かないのよ」


「大丈夫、大丈夫だからな。俺達の子だ。そう簡単にくたばったりしねぇって」


 あぁ〜、なるほど。なんか騒がしいと思ってたら、俺が泣いてなかったのか。

 それならきっと騒ぐよ、誰でも。


 やっと周りで何が起こっていたのか理解できた。


 なら、さっさと泣いて安心させないとね。


 そうと決まればそれなりに大声を出さなきゃいけないと思い、いざ泣こうと思ったタイミングで扉の方から人が二人入ってくるのが分かった。


「フォード様! メリッサ様! ただいま医者の方を連れてまいりました!」


 そう言って若干慌てながら入って来たのは、黒髪黒眼のメイドドレスを身に纏った美しい女の人だった。


 もう十分異世界っぽさは感じてたけど、ここまで様になってるのを見たら、あぁ転生したんだなぁ、って感じざるを得ないか……。


 そんな事を考えていると、俺を抱いていた母親が180度回転させて俺の顔を覗き込むように見た。


「ルード、ルード……お願い」


 そう言った母親は金髪碧眼の超絶美人だった。


 薄々そうだろうとは思ってたけど、顔立ち良すぎて逆に心配だよ。

 何か美形しか生き残れない法則でもあるのかね……この世界には………。


 そう思っていると、医者であろう婆さんに手渡されそうになったので慌てて叫んだ。


「うぁ! ぁあ、あぁぁぁぁ!!」


 これでどうだ!?


 そんな風に結構力みながら泣き喚いた瞬間、頭の中で幾つかのスキル名が勝手に現れた。

 それと同時に、室内に風が吹き荒れ、光が瞬き、極め付けは魔力が意思を持ったかのように俺を宙へと持ち上げた。


 おーおー、これ魔法の暴発だよな、多分。

 ……どうしよう?


 空中にプカプカ浮かびながら『魔眼』とやらを下に向けようと努力してみると。

 真下では母親が涙を流しながら胸のまえで手を組み、祈るように俯いており。

 父親は目を見開きながらこちらを凝視し。

 大司教やシスターと思われる人たちに至っては平伏するありさま。

 更に、メイド服の女性はなんでか片膝をついてこうべを垂れながら、仰々しい言葉を並べていた。


 こうなっちゃうと、目立ちたく無いとか言えないよなぁ……。いや、そもそもあれだけスキルを取った時点で目立たないで済むとは思ってなかったし、ある意味良かったのかも知れない。

 英雄がどうたら、って言ってたような気もするし、宗教関係者が平伏してるから当面は大丈夫だろう……。

 それよりも、もう……意識、が………持たない…のが……やばい………。


「!? ……………! ……!」


 ふっ、と何かが切れるような感触と共に、俺は空中から落下した。


 ははっ。次起きた時、白い空間じゃないことだけ…いの……って…い……よ…う。


 地面に落ちる直前で誰かに優しく抱きとめられた俺は、その手の中で静かに意識を手放した。


 こうして俺の異世界生活初日は、何が何だかわからないまま『異常』という言葉がこれほどまでに似合うスタートとなってしまった。

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