白い匣
………ん?
感じられなくなったはずの眩い光を受けて、俺は意識を取り戻した。
どこだ……ここ?
意識を取り戻した俺がまず最初に感じたのは、目が眩むほどの純白だった。
白、白、白、白、白、白、白、白、白、白、白、白白白白白………。
前後左右上下全てが『白い』空間に、ポツンと意識だけがある。
自分がどこにいるのかも、何故意識があるのかも不明なこの状況で、意外と冷静にこんな事を考えられている自分に驚きながらも轢かれた瞬間の事を思い出す。
轢かれたんだよなぁ……絶対。
あれは助からないだろうと思ってはいたんだけど……。
改めて、20年とちょっと生きてきた中で、この様な環境が存在したかどうかを考えてみる。
聞いた事も無いよな、こんな場所。
地獄か? それとも天国か?
そんな事を考えながら、ふと、もう一度周りを見回してみる。
白、白、白、白、白、白。
唯ひたすらに白、前後左右上下全てが白。
はぁ……。
真っ白過ぎて逆に清々しいな。
俺のそんな感想は、一瞬の内に白い視界に飲み込まれていった。
幾ばくか時間が経った。
相変わらず俺が見えている景色は、真っ白から変わらない。
『視覚』というものがあるのかどうかも分からないこの状況で、確かに『白』という色だけは認識できている。
更に、ふよふよと漂うようにして存在している俺の意識は、どうにも小さな部屋程度の空間に存在しているという事が分かった。
何故そんな事が認識できるのかと聞かれても、分かるんだから分かる、としか答えようがない。
逆に言うと、それ以外は全く分からないのが現状だ。
さて、俺はどうなってるのか。
いや、この場合はどうなるのか、とかを考える方が良いのか?
そんなことを思いながら、俺は変わることのない目の前の空間をぼんやりと眺めていた。
更に、それからどの位過ぎただろうか、ふと思うことがあった。
よく意識が保ててるよな。
学生の頃、人は暗闇の中で数日も過ごせば精神に異常が見られる、という話を友達か誰かに聞いた事があったのを思い出した。
白い空間であってもそれは変わらない気がするんだけどなぁ……。
俺は答えてくれるもののいないこの場で、悶々とした思いを抱いていた。
様々な事を考え、そして飽きてから、もう数えるのも億劫なほど時が流れた。
まぁ、時間なんて分からないけど。
眠ることもできず、かといって何かが起きるわけでもなく、このままだとこの空間に溶けてなくなってしまうようなそんな微睡みの中で、俺は静かに
さて、何でもいいからそろそろ誰かと会話したい。
物語で山奥に住んでる人が多く出てくる話があるけど、あれ絶対に話しかけ方とか忘れてるんじゃないか?
どれだけたっても全く変わらない景色に話しかけるのも、いい加減限界だな……。
付き合いの長い白い空間に俺は一人ぶつくさと愚痴を溢すが、当たり前のように返事が返ってくる事は無かった。
更に、体感で数億時間近くが過ぎたころ。
あぁ、もうそんなに経ったのかぁ……。
俺は、時間という概念はもはやはるか昔に失っていた。
それから少しして、ふと生きてた頃を思い出す事が多くなった。
あぁ、もう無理だ……。もし次があるとするならば、早くして欲しいかった……。神様でも閻魔様でもいいからとっとと俺の前に現れてくれってんだ、くそったれ………。
前回、意識が戻った時から始めたジャンケンも、もうそろそろ消えそうになる俺の意識をつなぎ留めておくには限界だったらしい。
あぁ、死んだと思ったら変なところにいるし、ここでも消えたとしたらどうなるんだ……?
無いはずの背筋が、ぶるっ、と震えた気がした。
《………は…う……た!》
……ん? 今何か聞こえた様な………。
軽快なポップ音が耳に響いたその瞬間、俺は微かに繋ぎ止めていた意識を失った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます