生まれた先は英雄の子

序章 死からの転生

プロローグ

「あぁー、暑ちぃ……」


 そんな事を言いながら、俺は燦々さんさんと太陽が照りつける中、まるで歪んでしまったかのような視界を前に、ただ1人黙々とアスファルトの道路の上を家に向かって歩いていた。


「はぁ〜、来年には卒業出来てるかなぁ……」


 大学生活も3年目になると気が抜けるというかダレてくるというか、バイトにサークルにと、楽しみで仕方がなかったようなことも、今を思うと「あぁ、そんなこともあったな」程度にしか思わなくなってきてしまう。


 そんな俺の心の内とは正反対に、子供というのはいつでも元気で過ごしているらしい。


「しっかし、子供っていうのはいつ見ても元気の塊というかなんというか」


 家からほど近くの公園に差し掛かった時、公園の中ではしゃぎまわる子供たちの姿を目にしてか思わずそんな言葉が出てしまう。


 そんな光景を横目に家路を急ぐこと数十分。時刻は昼の1時を少し過ぎた頃、授業が午前中で終わり、後は家に帰っていつものようにゴロゴロしようかなぁ、なんて考えていたその時。


「おいっ!!!」


 男の馬鹿デカイ声が辺りに響き渡った。


 バカでかく、自分も含めた辺り一帯に響き渡るような声音だったその声に、俺は思わず辺りを見回した。


 誰に言ったんだ?


 そう思いながら改めて前を見ると、少し先に見える車道に、1人の子供とそれに覆い被さるようにして蹲る女子高生位の女の子が見えた。


 おいおい……、何して……?


 ふとした疑問の言葉は口から出てくる事は無かった。

 自分から見て前方、覆い被さっている女の子から見ると横合いから、結構なスピードで一台の黒塗りの高級車が走って来ていた。


 ちっ──!!


 その時の俺は多分何も考えていなかった。

 最高のスタートダッシュをきった俺は、すぐに女の子の元まで駆け寄り、真横から回転投げの要領で歩道側に投げ飛ばした。


 そうすると必然的に俺が道路側に出るわけで……。


「ごっ────ガッッ!!!」


 声にならない声を腹の底から出しながら、黒塗りの高級車に吹き飛ばされるままに地面を転がった。


「ぐぅッ……! げほォッ!」


 吹き飛ばされ、転がるに身を任せたままだった俺は、どこかの壁に勢いそのままにぶつかり、今まで見たことも無いような血の量を、どこか自分ではない他人事のような感覚の中で吐いていた。


 ……これは完璧助からないな。


 助からないことが明確になったからだろうか、妙に意識がしっかりとし始めた辺りで、まどろみの中に沈み始めた瞼を最後の気力を振り絞って開いた。


「………! ……ゅう…! ……ぃ…!」


 開いた瞼の先には、先ほど助けた子かそれとも他の人なのかは分からないが、誰かが助けようとしてくれてるのか、なんて分かるくらいには朧げながら人影を認識することができた。

 その上、自分の死に際だというのに、さっきの子は助かったかな、なんて何の得にもならないことも考えることが出来るぐらいだ。


 それでも、徐々に意識はなくなっていくわけで、


 まぁ結構楽しい人生だったよな。

 まさかこんな形で死ぬなんて思っちゃいなかったけど。

 それなりに友達は出来たし彼女も作れたし。あぁ、でも親不孝者になったのだけは申し訳ないよなぁ……。


 そんな、謝罪とも感謝ともならないような言葉を喋れない中ぼんやりと思い、限界に達してしまった瞼をゆっくりと閉じて、俺の意識は闇の中に溶けていった。


 最後に、聞こえるはずのない『良兄さん!!』という言葉を、何のいたずらかはっきりと耳にしながら………。

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