第2話 動く森と不死身の戦士

 森が揺れていた

 いや、動いている。

 じわじわと動く先には、丘の上にそびえる城がある。

 その城から、黒い騎影が駆けだしてきた。

 一気に押しつぶしにかかった森の木々は、一瞬で吹き飛んだ。

 木ではない。無数の人・人・人……。

 捨て身の突撃を試みた何人かが馬を仕留めたが、彼らの胴から上は大剣の一閃でまとめて消し飛んだ。

 馬を捨てて、男が歩み寄ってくる。 

「……消えろ、消えろ、束の間のともし火」

 大剣を担いだ巨漢が、一行の前にゆらりゆらりと現れる。

 エクスを見て、はたと足を止めた。

「子供? マルカムか? いや、違うな」

 自嘲気味に鼻で笑う。

「去れ。あの若造にそそのかされて頭に血が上ったのだろうが、この俺に敵うわけがない」

 夕暮れの風がびょうびょうと吹き付ける。

 いや、この男のオーラが、風を起こしているのかもしれない。

 その威圧感に、一同は思わずあとじさる。

 ただ一人を除いて。

「おもしれえこと言ってくれるじゃねえか」

 タオだった。

 ただでさえ身の丈のある若者が、同じくらいの高さのある棍棒を地面に突き立てる。

「男のロマンのわかるおっさんだぜ」

 ほお、と男が楽し気な溜息をついた。

「俺と戦うか……死ぬぞ」

 レイナが、いつになく真面目な声で制した。

「だめ。この人、ただものじゃないわ」

 それは、調律の巫女ならではのカンによるものだったろう。

 エイダも同意した。

「ここは引け、タオ」

 クロヴィスが重々しい声で割って入る。

「なんなら助太刀しよう」

「いらねえ」

 ムキになるタオを見て、男は高らかに笑った。

「俺は何人でも構わんぞ」 

 義兄妹は冷ややかに言った。

「シェインは遠慮しておくのです。タオ兄の何とかに感染したくはないのです」

「ごもっともだね、シェインちゃん」

とファム。

 ものも言わずにさっさと逃げようとするのはクラリス・サードだ。

 それを見た、男はシェインよりもなお冷ややかに挑発する。

「心配するな、腰抜けは最初から勘定に入れておらん」

 クラリスの足がぴたりと止まった。

「……ハア?」

 振り向く顔は、眉が「ハ」の字に寄って口が非対称に歪んでいる。

「下品ですよ、クラリスさん」 

 レイナはたしなめるが、その声は震えている。怒りを理性が無理やり抑え込んでいるようだ。それを察したのか、エクスが深く息をついた。

「逃げよう、レイナ。ここで死んでもつまらない」

 だが、戦う男のロマンに燃えているタオの耳には入らない。

「邪魔すんなクロヴィス!」

「おぬしにだけいい格好はさせん!」

 棍棒と矛の一撃を、男は軽く受け流す。

 地面に勢いよく転がった2人を見下ろして、男は退屈そうにつぶやいた。

「マクベスを殺せるものはいない……生きた女の腹から生まれた者にはな」

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