2ページ
「大掃除はしたの?」
「当たり前だろ」
ほどほどに、ね。だって店も自宅もってなると掃除する箇所がほぼほぼ二倍になる訳だし。
店は今日、ここへ来る前に終わらせてきたし、自宅は少しずつ進めていたからまぁ大丈夫だ。掃除機もかけて来たし。
「そういうとこ、あんたは器用だったからね」
「母さんは、掃除できたの」
「主婦何年してると思ってるのよ、当たり前でしょ。父さんと半分こしてやったわ」
「半分こかよ、いいな」
「だって母さん背が小さいし、手の届かない所とか重い物とか、外回りくらいはやっぱりしてもらわないとね」
「へぇ」
父親と言えば仕事のイメージが強くあって、家の事は母親が全部していると思っていたけど、余裕があるのかな、父親も随分丸くなった気がする。
「父さんは無口だけど、優しい人だからね」
子供のころはそれを理解するのはなかなか難しかったけどな。でもそれも大人になるにつれて分かる訳で。
「父さんは昔からあんな性格だったの」
「そうねぇ、若い頃とあんまり変わっていないわね。昔から無口でね、出会った頃は何考えてるか分からなくて困ったもんよ」
あっはっはっ、と母親は盛大に笑ってから、ずずっと茶を飲んだ。
「はぁ、でもまぁ、こうやって長く一緒に居られたのも、父さんのおかげかなって」
「どうして」
「無口だけど、大切なことはちゃんと言う人だったから。転勤が決まる度、お前と想太には辛い思いをさせるけど、付いて来て欲しい。絶対に不幸にはさせないって言ってたんだよね」
あ、これ父さんには内緒ね、と母さんは悪戯顔で笑う。
正直、今まで苦労も大変な思いもして沢山して来たけど、それは両親の方がもっと多くて。二人に大切に守られて来たんだなぁと改めて実感する。
きっと俺は両親のようにはなれないと思う。なりたいとは思うけど。
「そっか、父さん格好いいな」
「えー、今更知ったの? 母さんは昔から知ってたわよ。だから今まで付いて来たの」
父さんだったから。
そう続けた母親の表情は穏やかで、一層茶が美味しく思える。
「あぁ、美味い」
「あんたもおっさんになったわね」
「うっさい」
あーっ、良い大晦日になりそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます