第31話:一騒動あり
シャンデリアの直撃を受けて意識を失ったシャホルを捨て置き、アルトは結界で守っていた参加者たちを振り返った。
だが、不思議なことにスケルトンやグールたちは結界の中の人間には見向きもせず、オークションの司会席の方へ群がっていた。
そこにはオークションで司会をしていた身なりの良い男が一人。
「あれは、テレスディア卿!?」
参加者の誰かが言ったのがアルトの耳を打つ。アルトは舌打ちをしながら細剣を構え、音の振動を乗せた斬撃を放ち、スケルトンたちを粉々に砕く。
「ひいぃいいぃっ!!!」
「何をしている!早く逃げろ!」
今にも襲いかかられそうで腰を抜かしていたテレスディアにアルトが怒号を放つ。
どうやらテレスディアは魔法を無効化できる魔法具を持っているらしく、アルトが音魔法を発動してもなにも問題はなかったようだ。どうしてあんなところにいるのか知らないが、スケルトンたちがテレスディアを狙っていることは明白だった。
新たに生み出されたスケルトンたちがテレスディアに向かっていく。アルトは再び音の斬撃でそれらを吹き飛ばした。魔法を使っている姿を見られているが、もう今さらどうでもいい。
さらに生み出される。
アルトが忌々しそうに舌打ちをしたところだった。
「 ≪招かれざれし地の民よ、お帰りませ、潜りませ。蓋閉じるその前に、お帰りませ、潜りませ、地の国へとお帰りませ…≫ 」
澄んだ声が会場に響き、会場中の魔法陣が赤く塗り替えられていく。そしてすぐにパキンと音を立てて消えたと思うと、スケルトンやグールたちはたちまち灰となって崩れ落ちていった。
「こんなに隠されてるのに気がつかなかったなんて…。うぅ、とんでもない失態だ、アルト許して…」
会場に現れたレインが少し震えた声でおそるおそる言う。アルトはホゥと息をつくと首を左右に振って笑って見せた。
「助かったぞ、レイン。絶妙のタイミングだ」
「…ほんと?」
レインがそう訊ねてきたのでアルトは頷いて優しく頭を撫でてやった。
雰囲気が少し和みかけたその時、
「た、助けてくれーっ!!」
突然の叫び声。アルトとレインが声のした方向を振り返ると、オークションにかけられていた鳥の妖怪二匹が爪を振り上げてテレスディアに襲いかかろうとしているところだった。
何故テレスディアを攻撃するのか。その疑問は一先ず置いといて、アルトは喉に手を触れながら音の衝撃波を声と共に吐き出した。鳥の妖怪二匹はたちまち吹き飛ばされて気を失う。
「…おい、大丈夫…」
アルトが震えるテレスディアに声をかける。しかし、テレスディアはたちまちその表情を恐怖から怒りのそれに変えて唸るように言った。
「何故だっ!私はお前らの命の恩人だぞ!?レナウンに亡命するための道を作ったんだぞ!?なのに、何故だっ!何故攻撃を!?」
この恩知らずめ!誰のおかげでレナウンに入国できたと思っているのだ!この亜人の分際で!
突然、テレスディアは気を失って倒れている鳥の妖怪二匹に歩み寄り、あろうことかその身を蹴飛ばしたのだ。それを見たアルトが何かを言う前にレインが手にした鎌でテレスディアを殴打した。
いきなり吹っ飛んだテレスディアは何が起こったのかわからずきょとんとしていた。が、レインが武器を持ったままテレスディアを睨んでいるのを見て途端に声をあらげた。
「何をする貴様!」
「あー、ムカツク…」
レインはアルトの制止も聞かずテレスディアを壁に叩きつけると、突然鎌を投げつけてテレスディアの腹部スレスレに突き立てた。
声を失うテレスディアにレインは近づいていくと、刃に足をかけて怯える彼の顔を覗きこんだ。
「僕嫌いなんだよね…。権力だけで戦う力もないくせに態度でかくて、人の尊厳踏み躙る奴」
死んじゃえよ、バーカ。
言うや否や、レインは鎌を抜いてテレスディアを切り裂こうとする。
が、
「レイン、やめろ!」
アルトが怒号を放つ。レインはそれを受けてビクッと肩を震わせると、不満そうな顔をしながらも鎌を下ろした。テレスディアはというとそのままその場に座り込み、失禁をしていた。
「お前が殺す価値もない、放っておけ」
「…わかったよ。命拾いしたね、おじさん」
「さっさと、ずらがるぞ。仕事どころではなくなりそうだ」
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