第30話:蜘蛛の追撃②


魔法陣を潰せる術をかけてる暇もおしい。ジズは背後から追いかけてくるグールたちに何度もメスを投じて消し去っていく。


そうして舞台裏に続く扉を開けた瞬間、内側から溢れ出してきたスケルトンを魔力を込めた手刀で薙ぎ払って粉々に破壊した。


「レインの奴、どこほっつき歩いてるんだ。さっさと魔法陣を消せっての」


魔法陣を消すことは簡単なことではない。これだけ多くの魔法陣を操るラバンは相当な魔力量だ。それこそギルドの魔導師たちの平均的魔力量と同等。


そんな魔法陣を制することができるのはそれよりも魔力を持つもの。アルトとジズでは同等か少し多いぐらいだが、魔力量が平均以上のレインなら確実に制することができる。現にレインは何度かラバンの魔法陣を消し去った実績がある。


いつまでも襲いかかってくる雑魚を払い、悪態つきながらジズは舞台裏へと身を投じる。すると、ちょうどラバンが姉らしき雪白の髪の女を抱き上げて奥へと走っていくところだった。


「待ちなよ!診てやるって言ってるのに!」


ジズが追いかけようとすると、突然目の前で火の手が上がった。毛先を焦がすぐらいのところでぎりぎりかわすと、目の前に立つ妖狐の美女と目が合う。


「行かせませんわよ」


「…へぇ、≪隷属の首輪≫は保険ってわけ」


奴隷の首にはめ、主となる者の血を宝玉にたらすことで契約を結ぶ≪隷属の首輪≫。この契約で奴隷となった者は主人の命令に背けないのだ。


アルトからの報告で≪隷属の首輪≫はラバンたちによって作られたと聞く。恐らくその時から契約していたのだろう。


「君もあの鳥の子達も、もうあの白い子と契約したんだね。弱ったなぁ、戦闘は専門じゃないんだけど」


「ええ、だから、私を倒してから…」


「悪いけど、時間ないからすぐに終わらせるよ」


ジズは手袋を外すと、指先から青白い糸のようなものを舞台裏へ張り巡らせた。

それは、まるで蜘蛛の作る巣のようで…。


刹那、ジズはその真ん中に立つ妖狐に糸を蹴り勢いをつけながら飛びかかった。彼女がかわすと、その後ろの糸を蹴ってさらに加速。縦横無尽に飛び回りながら、ジズはメスで妖狐を切り裂いていく。


妖狐が膝をつくのも無理はなかった。ジズのスピードは目で追うのもやっと。避ける暇も魔法を使う暇もなかった。


「傷物にしてごめんよ。後でちゃんと治したげるから勘弁ね」


ジズは倒れた妖狐に申し訳なさそうに言い置いてラバンを追った。

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