第3章:オークション襲撃

第25話:突然の襲撃①


ジズの言にアルトは息を飲んだ。おかしい、それだけ魔法陣が刻まれていたらレインが感知できないはずがない。レインが感知できないということは魔力を最小限に抑えて巧妙に隠蔽しているか、あるいは感知阻害の香を使うかしか手だてはなかった。


「…っまずい、発動する」


「さて、本日出品の従者も残り一人になりました!最後の一人はなんと、不死族のワイトキングとハイエルフの混血!」


それではどうぞ!と司会者から声がかかった、その瞬間だった。


会場に漆黒の光の渦が巻き起こる。会場の客が何事かとざわめく最中、会場中に刻まれた魔法陣からスケルトンとグールが大量に現れた。


人々が出口に殺到するが、扉は何故かうんともすんとも言わない。阿鼻叫喚するなかスケルトンとグールは人々に襲いかかった。


「…ぬかった、これが狙いか」


アルトは舌打ちをすると、腰にさげていたサーベルを引き抜いて、魔法陣から湧き出る魔物たちを見据えた。


「ああもうっ!せっかく許可もらったのに邪魔しやがって!おい、こいつら叩き潰すよ」


不機嫌さ丸出しでジズが叫ぶ。アルトは頷くと、右手で喉に触れ魔力を引き出した。彼の属性は≪音≫、音波、震動などといった音に関するものを全て操れる。


狙うはスケルトンやグールたちの体に刻まれた魔法陣。急所である。


アルトは冷静にそれらを突き刺し、切り払っていく。無駄のない精練された動きで。


何も武器を持たない彼らは主に噛みつくことで攻撃してくるため、攻撃パターンを読むことは容易だ。


一気に襲いかかってきたスケルトンやグールたちにアルトは手を向けて無詠唱で音の衝撃波を放つ。細かい振動を誘発するその魔法により、スケルトンやグールたちは粉々に砕かれながら吹き飛ばされる。その攻撃を逃れたモノたちはサーベルで一刀両断。


次々と砕かれながらも、次々と魔法陣から生み出されるモノたち。


「キリがないな…」


「術者か魔法陣、どっちかを潰さないとダメだね」


「こいつらはお前に任せた。俺は、あいつだ」


アルトは床を蹴ると凄まじい速さで会場の隅へと駆け出した。その目線の先には仮面を外して手に持った体格のよい男がいる。男がアルトに気がついた時、アルトはすでにサーベルを振り抜いていた。


男の胴が深く切り裂かれる、が、血は一滴も流れない。


「ほう?シャホルとか言ったな、お前も不死族か?」


切り裂かれた肉が凄まじい勢いで再生し、傷を塞いでいく。その男の風体をアルトはきちんと記憶していた。


そう、オークションが始まる前に話しかけてきた男シャホル。彼の体から立ち上る気配と魔法陣の気配がほぼ一致する。


「よりによっててめぇが今日ここに来るなんて…。俺は本当に運がない。そう思うだろう?なぁ、ラバン?」


礼儀正しい男の仮面ごと脱ぎ去ったシャホルがニヤリと笑いながら言う。その瞬間、彼の背後の影から音もなく真っ白な肌と髪の少年が現れ、アルトとジズを睨んできた。


「本当にね。でもやることは変わらない、お前は奴らを確実に始末するんだ」


「言われなくともそのつもりだ。俺は一度こいつと本気でやり合ってみたかったのさ、【騎士】アルフォルト」


言うや否やシャホルはどこからともなく大剣を取り出した。そして、一瞬のうちにラバンとの距離をつめてサーベルを振るったアルトの一撃をその剣で防ぐ。アルトは舌打ちをすると、シャホルと距離をとるためにすぐさま後ろに飛び退いた。その過程でアルトの残像をシャホルの大剣が容赦なく両断する。


「へぇ、良い反応するじゃねぇか。だが、やらせねぇよ」


「では、力ずくにでも退いてもらう。…≪ヴィブラ・サウト(音振)≫」


アルトはサーベルに魔力を込めた。視認できないほどの細かな振動を刃にのせて破壊力を高める技である。アルトは持ち前の身軽さであっという間に自分のサーベルの間合いまで距離をつめると、思い切り刀身を振り抜いた。


フォンと空を切る音がした。シャホルが意外にも身軽な動きでかわしたのだ。アルトの放った一撃は相手を見失い、衝撃波となって壁を無惨にえぐりとった。


「えげつない破壊力だな、おい。破壊神みてぇな力を振るうのは弟の方じゃなかったか?」


「言ったろ、シャホル。それは弟の方が被害がでかすぎるだけだって」


ラバンの言にシャホルは納得したように頷いた。


「なるほど、兄の方も相当ってことか」


「そういうこと…。じゃあ、あとは任せたぞ」


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