第24話:合流

アルトはため息をつくと、改めて会場をみまわした。


数百に近い仮面をつけた人々がひしめき合う会場はあらゆる音に満ちている。音に鋭い感覚を持つアルトは、会場内に変わった音が存在していないか神経を研ぎ澄ませていた。


しゃべる声、食器を動かす音、呼吸、鼓動…。


その中に一つ、やけに呼吸と鼓動が荒くなっている気配を感じる。


アルトは目を細めると、そっと移動しながら気配の主の正体を見極めようとした。


しかし、近づく前に気がついた。

遠目に見えるその人物は灰白の髪をもった青年だったからだ。念のためさらに近づいて仮面の下に隠れた金色の目を見る。


「…お前か」


「ん?その声は…」


どうやら青年も気がついたようだ。名前を言うと素性が明らかになってしまうので、アルトはそのまま続けた。


「許可、おりたんだな」


「診察のためって言ってね、ふふふ…」


この少し姿勢の悪い青年、彼こそが≪白烏≫随一の医療魔法の遣い手であるジズ。呼吸と鼓動が乱れているのは間違いなく…。


「もうね、楽しみすぎてねぇ?食べ物も飲み物も喉を通らないのさ…」


「…あー、そうだな、呼吸と心音の乱れで何となくわかる」


「だろう?だから早く本命の競りが始まらないかと心待ちにしてるんだけどさぁ…」


ジズはそこで一旦会話を止めて舞台を見た。


「さて、次はお待ちかね、従者として有能な存在たちです。たっくさんご用意してありますので、ご希望の者たちに入札をしてくださいね」


従者、とは言うが、その実態は奴隷だ。


「ようやく人身取引、そのなかでも彼女は一番最後なんだよ。それ以外は眼中にないから、つまらないものだよ」


だから、ねぇ?それまでは手伝ってあげる。


仮面に隠されていないジズの口許が三日月型に歪む。何を、とアルトが言う前にジズの手に青白く発光する小さな蜘蛛が現れた。光は会場の薄暗さに良い具合に溶け込み、誰にも気づかれない。


「俺の子蜘蛛を会場に放った。怪しい動きをするやつがいたら、こいつが教えてくれるよ」


そう言うジズの袖口から現れたのは先ほどの蜘蛛より一回り大きなそれ。残念ながら、嗅覚はあんまりないらしいが、広い視界をいかして会場全てを把握することができる。


「それは助かる。俺は感知が苦手でな」


「ふふ、お前はどちらかと言うと音の方に敏感だものね。弟と合わせたら非の打ち所がない感知能力だ」


「…馬鹿にしているのか?」


「どうしてそうひねくれた考え方するのかな。褒めてるんだよ、素直に受け取れ」


クスクス楽しそうに笑うジズ。アルトは彼をにらみつけてから一度舞台に視線を戻す。すると、それとほぼ同時にわあっ、と会場中で歓声が上がり、舞台には一人の女性が上がってきた。どうやら最後の稀少な五人の競売が始まったようだ。


「さあ、一人目は見目麗しい傾国の美女!妖狐の女性です。では入札は200万から!」


相当な力を感じる。確かに彼女の価値は200万以上だろう。均整のとれた肢体にスッと色っぽく細められた目、なるほど、傾国の美女か、さもありなん。結局彼女は500万で買われた。


次は如何にも力強そうな強面の男。オーガという鬼人らしい。彼も500万で買われた。


三人目は小柄な少女、側頭部から小さな羽根のはえた鳥の妖怪だろう。愛玩動物系、彼女は650万で買われた。


四人目は小柄な少年で先ほどの少女と同じく側頭部から羽根がはえていた。顔立ちも似ていることから兄妹だろうか、彼は600万で買われた。


「…ん?」


そこで突然、浮かれきっていたジズの声が真面目なものになる。


「何かあったのか?」


「まずいなぁ、召喚系の魔法陣だ」


「…対処する、場所を教えろ」


「それが一つじゃないんだ…。この数、二十はくだらない」

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