第20話:潜入
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太陽が次第に西に傾き始め、カフェが賑やかになる頃、三人は宿を出て商業区画内にある貴族街を目指して出発した。
アルトたちがとっていた宿はナーズを観光する者向けの所であるため、貴族街から比較的離れた場所にある。アルトの魔法を使えば昨日のように一瞬で着くのだが、人気の多い場所でやれば騒ぎになるに違いなかった。まあ、離れていると言っても半刻ほど歩くぐらいだ、大したことはない。
昨日のレインの野良魔導師騒ぎがあったので、道中警戒しながら歩いていたが、特に襲撃などはなかった。怪しげな影も仕掛けもない、逆に怪しい。
結局、貴族街入口まで来ても何もなく、料亭カヤバに着いても何事も起こらなかった。
「このまま何もないと良いのだが」
「それはないでしょ」
アルトの言をあっさりと否定するレイン。アルトは深々とため息をつくと、例の合い言葉をカヤバの店主に伝えた。
「青いランタンの光に誘われた」
「…マスケラをつけてこちらへ」
店主は慣れた様子で案内をする。どうやらここの地下施設はよくこういったことをしているらしい。重要報告事項だな、とアルトは密かに思う。
店のカウンターの裏から貯蔵庫へと向かう手前を右に曲がると不自然に飾られた壁の絵画が飾られていた。店主がそれを回すと、壁がゆっくりと動き出し、その向こうに青いランタンに照らされた地下へと続く階段が現れる。
「どうぞ…。今日はどうぞお楽しみくださいませ」
アルトたちはそれを受け、その階段をくだり地下へと進んだ。頬を撫でていた生暖かい風が止まり、入口が閉ざされたと知る。
「…タテハ」
「はい、五感共有はしてますのでご安心を」
「助かる」
ここはいわば敵地、誰がどこで見ているかわからない以上、通信の魔法具を使って外と連絡をとることは避けたい。その点、タテハは少し特殊で彼自身が見たもの聞いたものを全て彼の主と共有することができるのだ。
恐らくヤカクの所にいるであろうタテハの主が、今アルトたちが闇オークションに潜入したぞ、と言ってくれている頃だろう。
さて、長い階段が終わると、そこには真っ赤なベルベットの絨毯が敷かれた広い空間に出た。
点々と置かれた丸テーブルの上には豪華な料理や酒がたくさんあり、その周りでマスケラをつけた参加者たちが談笑をしていた。
アルトたちが降りてきた階段の向かいにはちょうどステージがあり、その両隣には控え室に続くとおぼしき小さな扉が一つずつあった。会場への出入口は階段とあの扉を含めた三ヶ所であることを三人は即座に確認する。
「レイン、慎重に探知を」
「わかった」
レインは極力魔力を抑えて放出、今のところ変わった気配はないが…。
「あの扉の向こう、オークション主催者とかの控え室だよね、多分」
「だろうな」
「じゃあ、その関係かな。何か強い魔力感じるんだよね。色は…黒いけど透き通った不思議な感じがする」
レインの言にアルトは僅かに目を細める。
「アイツの気配は?」
「ないね。気配隠す結界とかも特に…」
すると、そこで黙って辺りを見回していたタテハが口を開いた。
「…稀に、魔力を隠す香が流通していると主殿が言っておりました。微量ながら、その香りがします」
蝶さながらの敏感な嗅覚でタテハは香りを感じていた。しかし、どこから流れてくるのかはつかみあぐねているようだ。
しかし、確信が生まれた。
恐らく、ラバンもここにいる。
「わからないものを探すよりも、まずはこのオークションの情報を集めるぞ。主催者、規模、開催状況、なるべく詳しくな」
「了解」
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