第19話:潜入準備②
タテハの報告によると、ラバンという少年についてはほとんど情報がないのだという。いつの間にか工場区画に住み着いており、知らぬ間にあの工場で働いていたという。
「でも、主殿が何やら引っ掛かりを覚えましてね、ちょっと裏社会に首突っ込んでみたんです。そしたら、≪藍白(あいじろ)≫ってコードネームの暗殺者の噂を耳にしましてね…」
曰く、暗殺対象を文字通り消してしまう凄腕の暗殺者であるということだ。からくりは不明だが、殺しの痕跡すら残さないという。
≪藍白≫の容姿は血色のない肌に真っ白の髪、目はエメラルドで見た目は年端もいかない少年の姿をしているという。どうも実年齢と体の年齢とが一致していないようだった、と情報提供者は言っていたという。
ラバンというあの少年の特徴にも合致する点が多い。
「種族は聞き出せなかったけど、ひょっとしたら人以外の血が混ざってるかもしれない、との御見立てでした」
「うわぁ、それまたジズが興奮しそうな…」
混血の娘を欲しているジズのことだ、混血の少年でも珍しい種族なら欲しがるに決まっている。
「ええ、ですから主殿はジズ殿にはこの情報を伝えておりません」
「英断だな。…情報はそれだけか?」
「はい、現在≪藍白≫の行方は不明です。仕事を請け負っていない時の足取りはつかめないと。…すみません、これ以上は残念ながら」
申し訳なさそうにするタテハに、十分だ、とアルトは言う。
わかったことはたくさんある。
≪藍白≫という凄腕の暗殺者の特徴はラバンに合致しており、ラバンが主犯の可能性は極めて高い。
魔法はスケルトン召喚や闇魔法を使うことはレインによって確認済み。さらにレインの言う魔力の色が赤黒い系統の場合は多く死霊魔法といった地の国の者が得意とする魔法の遣い手であることが多い。油断できない相手だ。
「あ、お伝え忘れていました。主殿からの言伝です。『何かあれば助けてやるから、せいぜい頑張れ』だそうです」
「…最高の支援、だな」
アルトは苦笑しながら言う。タテハもはい、と困ったような表情で笑うのだった。
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