第2章:オークション潜入

第18話:潜入準備①



ナーズの闇オークションは本日、日没と同時に始まる。


場所は貴族邸が並ぶ商業区画奥、料亭カヤバの地下施設。店の店主に「青いランタンの光に誘われた」と伝えると通してもらえる。

ドレスコードはダークスーツに緑のタイ、マスケラ着用。同じ格好で身分の上下がわからないようにするためだと言う。


素性など関係ない。金さえあれば…。









闇オークション開催の日の朝。アルトとレインは部屋で支度をしていた。


普段使っている黒のロングコートでも良いのではないかとレインは言うが、こういう場でのドレスコードは非常に重要なのだと言い聞かせる。

あんまり変わんないじゃん、と文句が聞こえるが黙殺する。


仕方なくスーツの袖を通すが…。


「落ち着かないなぁ、ギリギリまでいつものでいい?」


「昼頃までに着替えておけばいいよ」


やっぱり落ち着かないレインにアルトは苦笑混じりに言った。改まった服装がレインは非常に苦手で、タイをピシッと締めることなど稀である。

アルトは少し事情が違ってある程度慣れているので問題はなく、すでに着替えを済ませていた。しかし、レインはそれを聞いていそいそといつもの服に着替える。


「ところで、なんで三着もあるの?」


一着余分なスーツとマスケラのセットを見て訝しげなレイン。


「ああ、それは私的にオークション行きたいと駄々をこねたジズのものだ」


「…え?それヤカクに知れたらまずいんじゃないの?」


「まずいだろうな。『手を出すな』と言われていることは話したのだが、ヤカクに直談判中らしい。来られるならこれを着るということだ」


呆れたことにあの医者はどうしても例の混血の娘が欲しいらしい。人体実験のような血生臭いことをする奴ではないが、何のために買うのかは疑問である。


「あ、じゃあ何かあったら手伝ってくれそうだね!」


「ヤカクへの直談判が通ればな」


レインの言にアルトはそう返事をした。


「多分通るでしょ!条件付きで」


楽しそうにレインが続けていると、部屋の扉がノックされた。レインはノックされた瞬間に魔力を放出して扉の外の人物を探る。すぐにレインはアルトを見て頷いたので、アルトは扉を開けて外の人物を部屋に招き入れた。


「おはようございます、アルトさん、レインさん」


「やぁ、タテハ。昨日は報告ありがとう」


「いーえ、お二方の頼みだと主殿より仰せつかりましたからね」


訪問者はタテハだった。昨日は店に定員として潜入していたためウェイターのなりであったが、今日はダークスーツに緑のタイをしている。アルトたちのドレスコードと同じコーディネートにレインが首を傾げた。


「あれ?それ…」


「ええ、主殿はジズ殿についてるので、僕が伝令と護衛を兼ねて参りました。ご同行いたします」


どこか嬉しそうな声で言うタテハ。手伝ってもらえるのならありがたい限りだ。


「それと、僕の主殿から預かった調査報告です。―例の少年について」


「つかめたの!?」


レインが身を乗り出す。


「…いえ、それがあまりはっきりしないのです。―まず、ラバンという名前ですが、真名か偽名かわかりませんでした。野良魔導師であることには違いないのですが…」


対するタテハは残念そうな表情をつくりながら応えた。


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