第17話:定時連絡
アルトは優しく笑いながら言うと、鞄の中から魔法具を取り出した。いつもはそれほど通信の必要はないのだが、今回は大活躍である。
≪よー、お二人さん今回は大変だな。で?なんかつかんだのか?≫
魔法具の向こうから聞こえてくるのはヤカクの声。最初はおどけていたがあっという間に雲隠れ、すぐに冷静な口調へと切り替わる。
アルトは早速レインのつかんだ情報を伝えた。
≪ほう…。つまり、今回の魔物襲来の原因はラバンとかいう坊やの仕業って言うことか≫
アルトは、ああ、と頷きながら応える。
≪ふーん、そいつも野良魔導師だろうな。国に飼われてる魔導師にそんな名前の奴はいない。一応、偽名の線も辿らせておく≫
「頼んだ。…で、どうする?オークションは実態調査が主だから俺たちが直接何かをすることはないが、野良魔導師となると…」
≪うーん、できたら捕縛だな。いざというとき憲兵につきだすことも視野にいれて≫
やはり、そうするべきだよな。アルトもレインも納得する。
≪まあ、魔物出現の為の調査の必要はなくなったし、ジズとロコにラバンとかいう坊やの情報を明日の早朝までに集めさせるよ。お疲れ様≫
さらっと過剰労働発言をしてきたヤカク。これは後でジズとロコに恨まれるかもしれない。
「ああ、わかった。じゃあ、明日は予定通りオークションに潜入する」
≪おう、頼んだぜ≫
ヤカクとの通信を切った後、二人は早めの夕食を摂ることにした。今日は商業区画の比較的良い店にしようと決めていた。美味しいものが食べたいのもあるが、そういった店ならばレインを探しているであろう工場区画の人物はまず入れまい。また個室をとればしばらくこもれる。
「貴族街の調査は済んだみたいだな」
個室に入ってすぐアルトは店の小姓から手紙を受け取った。そのなかには今朝の貴族街の調査報告書が入っており、『魔物出現の兆しなし、魔法陣もなし、完全制圧ご苦労様』と書かれていた。
驚いて小姓を見ると、見知った顔だった。隠密として≪白烏≫に所属する中性的な顔立ちの子。耳の辺りに蝶の羽飾りをつけているので、タテハと呼ばれている人物だ。
『ここに来るだろうって、御見立てがございましたのでね。確かに渡しましたよ、それでは…』
少しだけ訛りのある口調で言うと、タテハは微笑み一つお辞儀をしてから去っていった。礼儀が良くできた子である。主の不遜さとは大違いだ。
アルトはその後、報告書に目を通し、レインに手渡した。
「うん、同じ魔法陣が書かれなければもう出現しないってね!良かったー」
先ほどの意気消沈としたレインはどこへやら。彼は嬉しそうにメニューに目を通し始めた。
「油断は禁物だぞ。同じ魔法陣を書ける奴はまだ捕まっていないからな」
「そこは大丈夫!僕が全部壊してあげるから!」
物騒だ、とアルトは苦笑する。
まあ、吹っ切れたようで良かった。明日はいよいよ任務の要、その前の休息として二人は食事を楽しんだ。
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