第16話:野良魔導師
†
魔導師。それは一般的に高位の魔法を使う人物の総称。
火の玉をランプに灯したり、花に水やりをしたりする程度の魔法は低位のもの。故に多くの人物が操ることができるが、高位の魔法となると攻撃はもちろん治療、召喚、創造、具現、等と言ったこの世の現象では説明できない奇跡を起こせるのである。
よく言えば奇跡。
だが、裏を返せば使う者たちの心次第で善にも悪にもなるものだ。
そして、この世界では魔導師が忌み嫌われている。何故なら地の国の魔族による大陸侵攻に魔導師が関わっていた、という事実が存在するからだ。
魔法の力は絶大で大陸にある国々の中枢に魔導師がいるのは一般的だが、彼らは雇われる前にきちんと調査されるので問題はない。
問題は国が把握していない野良の魔導師だ。高位の魔法を撃てる魔導師が全て善人ならば苦労しないのだが、生憎善人は少ない方だ。私利私欲のために魔法を使い、人を呪ったり殺したりするような輩も多い。
そのため、野良の魔導師は特に忌み嫌われていた。今でも定期的に野良の魔導師狩りが密かに行われたりする。
そんな彼らを保護するためにできたギルドが≪白烏≫、ここは己の私利私欲のために魔法を使わないことを条件に設立されたギルドだった。しかし、そうは言ってもこの事実を簡単に受け入れられるはずがない。だから、彼らは人里離れた隠れ里でひっそりと暮らしているのだった。
†
ようやく宿に着いたレインは大急ぎで階段を上がり部屋に駆け込んだ。
「どうした、レイン」
「大変なんだよ、アルト!!」
部屋では明日のオークションに向けてアルトがタキシードとマスケラを用意しているところだった。
「ひとまず落ち着け。…落ち着いたら話を聞かせてくれ」
そのただならぬレインの様子にアルトは優しく言う。レインは頷くとベッドに腰かけて息を整えながら何かブツブツと呟きだした。
「本当、うかつだったよ…」
「なんだ、魔法使ってるところ見られて野良魔導師認定されたか?」
「っ!」
どうして、と顔に書いてあるのを見てアルトは苦笑した。
「まあ、仕事中にお前が騒ぐことといえばそれぐらいだしな。…顔は見られたのか?」
「騒いでた人たちには見られてないけど…」
「なら気にする必要ない。徹底的に魔力を隠しておけば問題はないよ」
魔力は本来不可視のものだ。多くの人物はそれをみる力はない。いくら感度がよくても探知をするために必要な魔法は比較的高位なものに当たるので、彼らに使えるはずもない。そもそも探す術はないのだ。
「脳内のイメージを紙に自動筆記する魔法があるが、あれも良質なインクや紙を使わないと魔力が細部まで伝わりきらないみたいだしな。あいつらにそれを手に入れる財力や労力があるか…、そもそもその魔法を知っているとも思えない」
ということで心配は無用だ。
「でも、アイツには見られたよ。ひょっとしたら…」
「だから、気にするな。動揺している方が怪しまれるぞ」
明日オークション行くまで外出しなければいいことだ。簡単だろう?
相当気にして落ち込んでいるレインにアルトは苦笑しながら言った。レインはまだ立ち直れていないで俯いている。
「野良魔導師認定される原因は魔法を使ったことだろうが、どんな状況で使ったんだ?」
「それは、アイツが貴族街のとおんなじ魔法陣からスケルトンを呼んだから。ほっといたら被害でると思って…」
「そうか、その場面では最善の方法だと思う」
別に力を誇示したり自ら喧嘩をふっかけたわけでないことがわかればそれでいい。自分の立場でもそうしただろう、とアルトはレインに告げた。
「それにわかったこともあるだろう?貴族街を襲ったのはあの工場区画の少年で、同時にオークション主催者の従者に呪いをかけたのも彼の可能性がある。…問題は目的だが」
「あのさ、これは僕の予想なんだけど…。アイツ、ひょっとしたらオークション開催されたら困ることでもあるのかな」
「なぜだ?」
「オークション主催者の屋敷が二回も襲われて、従者サンにも呪いでしょ?そこまでして邪魔するってことは、そうなのかな…って」
何より、アイツは僕と同じ気がするんだ。大切な誰かのために、全てを壊すことも厭わない。そんな目をしてた。
そう、レインにとってアルトはこの世の全てだ。大袈裟かもしれないが、レインはアルトがいないと生きていられないだろう。そんなアルトを、愛する兄を守るためなら、レインはどんなことでもする覚悟があった。
そんなレインと同じ目…。
「十分あり得る話だ。じゃあ、明日オークションが開催されたら、間違いなく潰しに来るだろうな。それは阻止せねば…」
「うん。そこは僕が責任もって止めるよ」
「頼りにしているよ、レイン」
さて、明日は大仕事になりそうだ、ヤカクに今日の事件の報告をしてからゆっくり食事でもしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます