第15話:不穏③
これで、協力者が何らかのモーションをとるはずだ。見知らぬ人間がギルドで何か思わせ振りなことを聞いていく。協力者なら必ず報告するはずだ。そう確信を持って…。
そして、その勘は当たったようだ。ギルドの裏口から気配を消した影が出てきたのである。
「あれは、工場区画から出てきた子供…?」
そう、昨日会った赤黒い魔力の持ち主と一緒にいた少女だ。レインはすぐに足跡を忍ばせて彼女を追うことにした。鞄を探って通信の魔法具を起動させ、同時に手近な民家の屋根に登り、上から少女を尾行する。
「アルト?今ね、今回の首謀者の協力者らしき子が動いたからこのまま尾行するよ」
≪了解した。戦闘は避けろよ。俺たちの仕事はあくまで闇オークションの調査だ。深追いもしすぎるな≫
アルトの冷静な声が聞こえた。その言葉の内容にレインはうーん、とうなる。
「でも、あの赤黒い魔力の子、きっと何らかの形でそのオークションに絡んでると思うんだよね…」
魔法陣の魔力は上手く感知できなかったため、断定することはできない。だが、魔法陣はジズの情報にあったものと酷似している、完璧な形なのに質の悪いインクが使われていたというそれだ。ジズの患者の魔法陣を直接的見てないが、今回の魔法陣がその特徴に合致するのは偶然ではないだろう。今回の襲撃とオークション主催者の従者の呪詛は同一人物の仕業と見ていい。
また、赤黒い魔力は妄執系の魔法によく見られる色で、死霊魔法を扱う者もこの色に当てはまる。さらにあの赤黒い魔力の子は工場区画の人物、オマケに奴隷がつける『隸属の首輪』を作っている。どう考えても怪しいだろう。
つまり、怪しいところはいくつもあるということだ。
≪決めつけは良くない…。だが、可能性は高い。だから、頼んだぞレイン≫
「オッケー、とりあえずあの子が闇オークションとか今回の襲撃に関わってるか、裏をとるよ。なんかあっても手は出さないからさ」
レインはそう言ってから話もそこそこに通信を切る。通信しながら移動していたので、工場区画の入口まで来ていたようだ。
少女はちょうど出てきた件の少年ラバンと話をしていた。ラバンの手には今日が納品期限と言われていた『隸属の首輪』が入っているとおぼしき袋がある。
二人の声が聞こえてきた。
「…ねえ、ラバン。本気なの?」
「もちろん、本気だよ。ここまで来たんだし、引き返すなんてできるはずがない」
「でも、無茶だよ…」
少女は心配そうにラバンに言う。ラバンはしかし首を左右に振った。その表情に変化はない。
「そんなことはないさ。…それより、君はとんでもないモノを連れてきたね」
「え?」
「≪フォンセ・マケリ(闇のナイフ)≫!!」
―…っ!詠唱短縮!
レインはとっさに魔力で障壁を作り、黒い刀身のナイフを弾いた。その間ラバンは復路を少女に押し付けて指示を出す。
「君は早くその首輪を伯爵に納品しておいで。俺があいつを始末するから」
少女はラバンの少し焦った様子にコクコクと頷くと走り出した。中身は物凄く気になるところだが…。
「俺、言いましたよね?『邪魔しないでください』って」
ナイフが次々とレインの潜む屋根に飛来する。レインは障壁を維持してナイフを弾き飛ばしながらラバンを見る。
「危ない子だなあ、なんで僕を見るだけで攻撃するのさ」
「色々嗅ぎ回られて正直鬱陶しいんですよ。貴方だって同じことされたら良い気持ちはしないでしょ?」
「まぁ、確かにね」
レインは屋根から飛び降りると、ラバンと正面から向き合った。今日は魔力を隠す相手もいないようなので、昨日とは桁違いの魔力を感じる。
「とにかく邪魔なんですよ、消えてくれます?」
加えて発せられるものすごい殺気。レインは思わず高ぶりそうになる感情を抑えながら一歩後ろに後ずさる。
「んー、今日はなにもしないってアルトと約束したからな。君の機嫌も悪いし、仕方ない。今日は帰ろうかなー?」
「ただで、帰すと思いますか?…≪来たれ、地の底に這うモノよ、偽りの命を持って起き上がれ≫」
ラバンが詠唱をするや否や地面に魔法陣がいくつか浮かび上がり、その中心から数十体のスケルトンが現れた。何もせず帰ろうとしていたレインのだが、さすがに足を止める。
「その魔法陣、今朝の貴族街のとおんなじだねぇ。もったいないな、もっと良いインク使えば…」
「余計なお世話です」
「だよねー」
うん、こうしよう。術者には何もしない。けど、それは危ないから壊す。
レインは苦笑混じりに言い魔力を練りながら、心の中で詠唱を唱えた。無詠唱は上手く使役しないと威力が半減するのだが、あの程度の魔法陣ならすぐに破れる。
「≪帰りませ…≫」
最後の言葉のみハッキリと発音する。瞬間、魔法陣はたちまち真っ赤に染まり、レインの支配下に下る。それを確認する前にレインはすかさず次の魔法の詠唱を始める。
「≪レイ・アロウ(光の矢)≫」
無数の光の矢がスケルトンに襲いかかった。まだ恐らく命令もされていなかっただろうところを一気に無力化させる。
なす術なく倒れるスケルトンたちの向こうにレインはラバンを探したが、彼の姿はいつの間にかそこにはなかった。不審に思って目を細めていると、工場区画からどよめきが起こるのが聞こえてくる。
「野良魔導師だって!?まさか、ここ最近の騒ぎは全てそいつらのせいだって言うのか!?」
「そうに決まってる!魔導師に善い奴なんているわけないからな!」
「よし、俺らでその魔導師を捕まえてやろう!」
レインは聞こえてくる声に舌打ちをした。これも十中八九あのラバンとかいう少年の差し金だろう。抜かった、わざと魔法を使わせたのか。
―早く戻らなきゃ…。
レインは即座にその場を離れ宿に向かった。
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