第13話:不穏①



貴族街での立ち回りによってアルトとレインは憲兵に聴取されていた。


ちょうど最後の一体をアルトがサーベルで止めを刺したとき彼と出くわしたので、魔法を放ったところは見られておるまい。 ただ、アーケードと屋根の破壊についてはさすがに苦い顔をされた。


「そうか、傭兵ギルド所属のリビアーヌ兄弟だったか。君たちが偶然この町を訪れていて良かったよ」


二人が見せた表のギルド証を見て憲兵は顔を綻ばせた。


傭兵ギルドと言えば戦闘のスペシャリストが集まる大陸一のギルドだ。魔物との戦闘を経験している人材も多く、有事の際には一番動ける人材が揃っている。


今回のスケルトンのような魔物は魔法陣を砕かない限り永久に動き続ける。魔法陣を砕くための技術を持つ者は一般人から徴兵される憲兵たちにはほとんどいないため、二人がいなければ負傷者も出ていたに違いない。被害がアーケードと屋根だけで済んだのはこの町にとって不幸中の幸いであった。


「ええ、お力になれて良かった。…ところで、以前もこのようなことがあったのですか?」


柔らかい笑顔でアルトは言う。そのついでに気になっていたことを憲兵に聞いてみた。憲兵は首をかしげながら唸るが、やがて首を左右に振った。


「いや、俺が記憶している限りないぞ。かれこれ十年は勤めているが」


「そうですか。突然で驚いたでしょう」


「いやぁ、恥ずかしながら足がすくんで動かなくてね。こんなのが憲兵やってるなんて、恥さらしもいいところだよ、全く」


「俺たちだって初陣のときは似たようなものでしたよ」


当たり障りのない返しをしながらアルトは考えをまとめていた。


―やはり、隠密の調査不足ではないみたいだな。ということは、突発的に≪綻び≫が生じたか、あるいは人為的なものか…。


レインの方をチラリと見やると彼も同じことを考えていたようで一つ頷く。


「あの、ここ数日のうちに何か予兆というか、前触れのような出来事ってありましたか?どんな些細なことでも構いません、何か心当たりは」


あれだけ一気に呼び出すためにはきちんとした下準備が必要だ。


今回は朝早くあまり人の起きていない時間に襲撃があった。また、傭兵ギルドもどうやら昨日から人が手薄らしい。時間の確保と戦力の不足を事前に知っていたからこそできる芸当だろう。


「そうは言ってもな…。何にもないよ、特に」


「…つかえな」


憲兵ににこやかに話すアルトとは裏腹にレインは冷たい表情のまま淡々と小声で呟く。幸い憲兵には聞こえていないみたいだった。


「ああ、そういえば君たちが壊した屋根の邸に賊が侵入したことがあったらしい。主の男爵様をお守りした従者が呪いを受けたと聞いたけど…」


「賊?いつの話です?」


「あれは、確か一週間以上前だったかなー。そうそう、あの日もこんな時間だったし、傭兵たちも手薄だったようだよ」


アルトはそうだったのですか、と話を聞きながらレインに再度目ばせした。アルトの意図を正確に読み取ったレインは頷くと、橋の方へと踵を返す。


「あ、待って君!まだ聴取は…」


「すみません、このあとの任務の打ち合わせを彼に頼みましたので、どうかご勘弁いただけませんか?聴取なら俺が受けますから」


アルトは努めて友好的にさらりと嘘を言った。憲兵は少し困った顔はしていたが、まあそういうことなら、と納得してくれた。


それでも厄介なことには変わりない。さて、どうやってこの厄介な盤面を切り抜けようか…。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る