第11話:掃討開始


通信を切ったアルトとレインは貴族街を目指して走る。走りながら魔力探知をレインに指示しようと考えた瞬間、


「アルト、右手!9時の方向!」


レインの声。すぐに反応したアルトは腰にある細身のサーベルを抜き放ち、空中から飛び降りて来た何かを弾いた。


弾かれた何かは近くの商店の壁にめり込み動きを止める。それの正体はボロボロに刃こぼれした剣を握った白い骸骨。


「スケルトンだ、レイン。援護!」


「オーケィ!!≪レイ・アロウ(光の矢)≫」


アルトの指示にレインは詠唱を短縮させて魔法を撃った。狙うはスケルトンの頭蓋骨に刻まれた青白い光を放つ魔法陣。アンデッドの急所にあたる部分だ。


無数に降り注ぐ光の矢を見事に命中させたレインは、灰になって散っていくスケルトンを見て苦い表情をした。


「どうした?」


「きっとまだいるよ、こいつらは死霊魔法で作られた木偶だ。元を断たないと」


なるほど、確かに地の国の生き残りとされる魔族なら名前持ちがほとんど。名前を持った魔族が自我を持ち、身体能力が通常の魔物よりも向上することは経験済みだ。あのスケルトンは通常戦闘力と大差ない。


ということは、名前持ちが操っているか、魔導師によって呼び出された魔物である可能性が高い。


「ここで元を探知しろ、レイン。露は全て払う」


アルトがサーベルに魔力を込めながら言った。魔力探知はアルトよりレインの方が敏感で鋭い。事を迅速におさめるために二人はすかさず動いた。


レインは目を閉じて神経を集中させた。水面に水滴が落ちじわりと波紋が広がるように、静かに静かに魔力を広げていく。


商業区画、貴族街、工場区画…。


その瞬間、まるでレインの気配に引き寄せられたようにスケルトンが大量に姿を現した。魔力を餌とするスケルトンたちはカタカタと音を立てながらレインの方を見ると、一気に襲いかかってくる。


アルトはすかさず地を蹴った。


まず一匹目のスケルトンを顎から額へ刃を切り上げた。首が飛んだため、空中に≪レイ・アロウ(光の矢)≫を飛ばして魔法陣を瞬時に貫く。同時に、かかってきた二匹目に対し振りあげていた刃を振り下ろして骨を砕いた。背後から迫ってきたスケルトンは手をかざして音の衝撃波を飛ばして粉砕し、再び前方から迫ってきたものには刃から斬撃を飛ばす。


スケルトンたちは悲鳴をあげることもなく粉々になって倒れた。襲いかかってきた第一陣を斬り尽くしたアルトは警戒をとくことなく周囲に視線を送る。


「…見つけた。こっち」


そこでレインが薄く目を開いて言った。アルトは頷くと、即座に喉に指を触れて彼が一番得意とする音魔法を発動させる。


「≪ソル・サウト(音速)≫、倍速」


音の結界で自分の周りを固め、レインを肩に担ぎ上げながらアルトは地を蹴った。刹那、景色が目まぐるしく変化し、二・三回、地を蹴るのみで商店の裏側からあっという間に貴族街の入口にかかる橋のたもとにまでやって来た。


「なるほど、考えているな」


橋の真ん中には青白く光る魔法陣が描かれていた。


貴族街は商業区画の奥に位置し、平民とは区別するかの如く濠に囲まれた造りになっている。入るにはたったひとつの橋を渡り、橋守に通行証を見せねばならないのだ。


ここに描けば、貴族街の出入りはできまい。そういう術者の意図が見え隠れしていた。


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