第5話:不穏な影

二人は改めて裏通りの方を向いた。舗装もされていない道だ、明らかに観光客は入ろうとしない道だろう。また、身なりの良い人間も…。


アルトがレインに目馳せすると、レインは頷いてから、突然自分の目の前に黒い穴を作り出して手を突っ込んだ。そして取り出したのは薄汚れた古いマント。これなら今二人の着ているスーツの上にも着れる。


「レイン、先導できるか?」


「どーかな、まあやってみるよ」


レインは手早くマントを羽織ると躊躇なく裏通りに歩を進めていく。アルトは腰に佩刀していた刀を外して腕に抱えると、先を歩くレインについて歩き出した。


裏通りの左右には怪しい露店商やどこに続いているのかわからないような路地が無数にあった。古びたマントを着た少年二人に浴びせられる視線は少なくないが、そのうち興味を失ったように離れていく。親に捨てられたかわいそうな子供とでも思ったのだろうか。


アルトは視線を配り、辺りの様子を気にしながら歩を進めていた。殺気はない、つけられている気配も特にはない。レインの感じた異質な魔力と直接結び付くような手がかりはないまま、二人は裏通りを抜け出した。


その道は今度十字路になっていた。まっすぐの道は先程通った裏通りの続きのような気配がする。右手を見ると、工場区画への入口である鉄製の門がそびえていた。左手は先の見えないトンネル道。


「右、あの工場からだ…」


「あれか。…参ったな」


どう見ても部外者厳禁な雰囲気の門だ。


「壊す?」


「論外だ」


じゃあ、どうするのさ、とレインが聞いてくる。どうしたものかな、とアルトが考えている矢先に鉄製の門がギギィと音を立てて開いたのだ。とっさに二人は元来た裏通りに駆け込み、様子をうかがうことにした。


門の向こうから現れたのは数人の屈強な男たちと下働きとおぼしき少年少女たちだった。彼らは何を食べるか、という話をしながらアルトたちの潜む裏通りとは反対の方向に進んでいく。どうやら食事休憩のようだ。


アルトはチラリとレインを見た。


「いるよ、あの中に。うまく隠してるけどね」


「そうか、なら追うぞ」


二人は顔を見合わせて頷き合うと、一定の距離を置いて彼らの尾行を始めた。


「…ふふ♪」


レインがいきなり楽しそうに笑い出す。嫌な予感がしたアルトは苦い表情を浮かべてレインを見た。


「どうした?」


「気づいてるねぇ、ほら、魔力で牽制してる…♪」


「ああ、殺気も放ち始めたな。これは少し慎重に行かないと」


アルトは言いつつ首筋に手を添えると、目を半眼にして精神を集中させた。


「≪ハーディ(静)≫」


言うや否やアルトとレインを薄い風が取り巻く。これで完全に自分たちの音と気配を遮断した。この魔法に気がつかなければ向こうも少しずつ警戒を解くだろう。


案の定、放出された殺気と魔力が落ち着いていく。二人はそれを確認してから慎重に尾行を再開した。

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