第1章任務開始

第4話:ナーズの町



ナーズの町並みは辺境の中ではそこそこ整っているといっていいだろう。


商業区画、農業区画、工場区画…。まず、きちんと目的ごとに住む分けられており、貴族の住まう区画は商業区画の奥に配されている。よく言えば整備された町並み、悪く言えば差別化された町並みだ。


「はぐれるなよ、レイン」


「あぅ、待ってよアルト~」


ちょうど昼時、通りは大勢の人で賑わっていた。引きこもり気質のレインは人の波に翻弄されながらも必死にアルトを追いかけている。アルトは後ろを気にしながら歩いていたが、やがてレインの手をしっかり握って歩き出す。迷子になられるよりもずっといい。


「それにしても、すっごい人だねぇ」


「商業区画だからな、一番賑わうところだ」


商業区画が町並みの中心に来ているのは客寄せの意味もあるのだろう。この町のギルドもそこにある。


表の世界のギルドとはいわゆる何でも屋のようなものだ。町によっては自警団の役割も果たすし、はたまた家の雨漏りを直すなどの日曜大工のような仕事もある。有名になるにはたくさん仕事をこなさなければならないが、ギルド登録するだけなら試験もなく無料のため、とりあえず登録だけしておく者も多い。


対して二人の所属する≪白烏≫は力ある魔導師であることが条件で、登録のためにもさまざまな条件があるのだが…。まあ、それはおいおいでいいだろう。


さて、そんなギルドの前をアルトは素通りしたので、レインは首を傾げた。


「あれ?アルト、ギルドに行かないの?」


てっきり表のギルド証を持ってきているので、ギルドによるものと思っていた。


ギルドには掲示板に依頼や町の新聞が貼られているうえ、小スペースではあるが酒場がある。そこから地域の情報を得るのはわりと常套手段であるはずだ。アルトも当然それを知らないわけではない。


「よそ者がいきなり入っていったら注目もされる。その辺の食事処で様子見だ」


「おー、なるほどー!!さすがアルト!」


レインが楽しそうに弾んだ声で言う。アルトが苦笑しながら、何が食べたい?と訊ねると、レインは嬉しそうに、おいしいリゾット!と口にした。大体いつも食事処を探すときはこのようにレインの食べたいもので決めるのが日常だ。


「じゃあ、西方料理の店を探そうか」


「うん、そうしよ…っ、――!?」


瞬間、レインが突然その笑顔を全て投げ出して背後を振り返った。アルトはその様子を見て表情を引き締めると、レインの視線を追って視線を巡らせた。その視線の先には工場区画に続いていく裏通り。


レインは表情の抜け落ちた人形のような顔をしてコテンと機械的な動きで首を傾げた。


「…どうした?」


「ん、ちょっと、異質な魔力感じて…」


レインの言にアルトは目を細めた。


「何色だ?」


「…赤黒い。妄執系」


単語を並べるだけだが、アルトはその意味を正確に理解した。


魔力を感じる能力はアルトよりもレインの方が優れている。それこそ一瞬発せられた気配でも感じ逃すことはないぐらい鋭く、さらに魔力の色からどんな魔法を使うかまで分析もできるのだ。


そんな彼の感じた異質な魔力。仕事との関連性はわからないが気になるのも事実だ。


「…レイン」


「もうっ!リゾットなくても我慢できるもん!!アルトってば、僕のこと子供扱いし過ぎ!」


…言おうとしたことを先取りされてしまったのは内緒だ。


「…まだ、何も言ってないだろうが。まあ、ひとまず工場区画の食事処を目指そう。リゾットは…」


「ダイジョーブ!!帰ったらヤカクに作ってもらうから!!」


ヤカクに作らせると高そうだ…、という言葉を飲み込んでおく。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る