第3話:任務内容②

≪お隣のカラリベ帝国サンは人間至上主義をかかげてるからさ、人間以外の種族は、例え優秀でも奴隷として毎日強制労働をさせられてるって話だよ≫


「それで、状況を打破するためにレナウンに亡命しても、結局は奴隷か…」


アルトの近くをハタハタと飛ぶ蝙蝠。これは通信用に作られた魔法具で、ギルドメンバーには一人一匹ずつ支給された代物である。これを介せば遠くにいる人と会話が出来る仕組みになっていた。


その口に加えた緑の玉から発せられる声はどことなく気だるげ。通信の魔法具の向こう側でも相手がどんな表情をしているのか容易にわかってしまう。きっと寝不足なのだろう。彼の元にはいつも仕事が舞い込んで来ているから。


「じゃあなんでレナウンに来るんだろう。こっちでも奴隷にされることは変わらないんでしょ?」


レインが今度は蝙蝠の加えている玉に声をかける。すると、相手が本格的に眠たそうに欠伸をする声が聞こえきた。


≪レナウン皇国の北にはマシェっていう自治区みたいなのがあってさ。人間以外の種族を好意的に受け入れてる場所があるんだよ。そこまで行けば奴隷からは解放される。あいつら多分それを狙ってるんだろうな≫


「それは初耳だな。なんで知っているんだ、ジズ」


≪だって俺、今マシェにいるし≫


「は?」


≪だから、マシェで仕事中なの。本当はそっちの仕事受けたかったけど、こっちの仕事は君たちに変わってもらえないから。そっちはよろしくね≫


そういえば、ヤカクがこの仕事を本当はジズに任せる予定だったと言っていた。変われない仕事ということは恐らく治療関係だろう。


とー。



≪おい!闇医者!さっきから誰と話して……っ、ひ、ひいぃ、まま、待て!その、メスをどうしようと…≫


≪うっさい、バカ。黙ってないと刻むよ?≫


≪ひいぃ、ちょ、ちょっと待て!麻酔!せめて麻酔をぉぉっ!!うわあぁあっ!!≫


「…」


≪てなわけでよろしく頼んだよ。じゃあ、忙しいから、切るね。あとで連絡する≫


プツン。


緑の玉から光が消える。


「相変わらずだね、ジズ」


「あれで世界屈指の医者だからな…。世の中わからない」


色を失った玉を加えた蝙蝠がアルトの肩に留まる。彼はそれを持っていた鞄に入れると、座っていた切り株から腰をあげて隣に立つレインと顔を見合わせた。


「とりあえず情報を整理するぞ」


「オッケー!…まず、闇オークションの奴隷売買はレナウンへの亡命手段である可能性があって、最終的にはレナウンから北にあるマシェを目指すため、と考えられるってこと?」


「だが、腑に落ちないのは何故奴隷になるか、だな。闇オークションに奴隷を求めに来る者なんてろくな奴はいないだろ。奴隷として使い潰されるがおちだ」


「んー、そこはさ…」


「それは俺も考えた。マシェはあくまで最終目標、結局はカラリベを抜け出したい、ということだろ?」


奴隷には国境を越える術がない。なぜなら国境には関所があり、必ず身分証か通行許可書を見せなければならないからだ。国境を行き来するのは主にギルド関係者か王家の使者。奴隷は関係者の連れとしてでなければ通行不可である。だが、普通連れに奴隷をわざわざ連れて行く者などごく少数しかいないだろう。


「僕はどっちもどっちだと思うけどなー。どこ行っても奴隷って扱いなんだし」


レインがポツリと悲しそうに言うので、アルトはそんなレインをチラリと横目に心配そうに見た。


「それは、俺たちにはわからない理由があるのだろう」


「うん…」


レインの声にはあまり元気がない。アルトはレインの髪をクシャリと優しく撫でた。レインは嬉しそうに笑いながらされるがままになる。


「さあ、ひとまずナーズに潜入しようか。表のギルド証はあるな?」


「うん、ちゃんと持ってきたよ!ナーズに入ったら、まずどーするの?」


「そうだな、ひとまずは情報集めだろうな。ジズからもらった情報にオークションの開催日時と会場はなかったから」


「そーいえば…。ヤカクも教えてくれなかったよね、裏取りちゃんとできてないのかなぁ」


思うところは多分にあるが、ひとまず彼らは都市の城壁にある関所に向かって歩き出した。

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