第1話:双子の魔導師


さて、そんな喫茶店は今日も大繁盛。

その店内一番奥のテーブルから突然声が上がった。


「やったぁ!!今回は依頼完遂!!ふふ♪報酬も満額もらえて嬉しいなぁ」


少し高め声で騒ぎだしたのは紫紺の髪に真っ赤な目を持つ青年だ。すると、それを受けた向かいに座るアルトと呼ばれた青年が苦笑混じりの笑みを浮かべる。


「今回は何も被害を出さなかったからな」


アルトの髪色も紫紺、目は意思の強そうな紫色。二人はとてもよく似ていた、否瓜二つだった。そう、彼らはこのギルド内でも有名な双子である。兄は魔法騎士のアルト、弟は魔導師のレインという。


若冠十九才にして卓越した才能を持ち任務達成率はギルド内屈指なのである。


しかし、達成率は高いものの成功率という視点で彼らの仕事を見ると見方は大分変わる。達成率は九割と言っても過言ではないが、成功率は四割ほどであった。


「そういえば、こないだは潜入先のお屋敷半壊させちゃったもんねー。いやぁ、ここのところ赤字続きだったし、久々の黒字収入だ!」


レインが上機嫌に言う。


そう、彼らの任務成功率が極端に低いのは損害が大きすぎるからである。むしろ、彼らが請け負った任務の中で依頼内容以外の物理的損害がゼロの方が珍しい。


「へぇ、今回はレイン、何も壊さなかったのか」


紅茶を運んできたヤカクが少し驚いた顔をする。アルトが苦笑するのに対し、レインはムッとした表情でヤカクを見る。


「僕だってやればできるもん!」


「ほおぉ?そのわりには報酬半減とかの原因作ってるのはお前じゃねぇのか?」


そう、物理的損害の主な原因はレインだ。


改めて言うが、この双子は魔導師である。アルトの方は剣が中心なのと魔法の出力がかなり安定している。そのため、魔力量が普通の人より少し多くてもあまり被害を出すことはない。


問題はレイン。レインの武器は死神のような大鎌なのでリーチが長い。さらに魔法の出力は安定しているが、一気に片付けようとするあまり最大に近い出力で連発するのだ。レインはアルトほどの身体能力がない代わりに魔力量は常人を遥かに上回る。被害を大きくしているのは間違いなく彼だった。


しかし、レインの思いきった行動で仕事が早く片付くこともあるので、アルトはレインにあまり強く言えないのだ。


レインはむくれたままヤカクの持ってきた紅茶に砂糖を入れるべくシュガーポットに手を伸ばした。しかし、ヤカクは意地の悪い笑みを浮かべながらそれを取り上げる。


「砂糖禁止ー」


「えー!!なんで!?僕今日はちゃんとやったもん!!」


「『今日は』だろ?」


「ひどーいっ!ヤカクのけち!」


ケラケラと笑うヤカクにレインが涙目になりながらわめく。そこで、さすがにかわいそうに思ったのかアルトがヒョイとシュガーポットをヤカクから取り上げた。


「ほら。今日頑張ったし、好きなだけ入れるといい」


いつもなら入れすぎないように釘を刺すアルトだが、珍しくそう言いながら渡す。すると、今までふてくされた表情をしていたレインはたちまち表情を明るくして飛び上がらんばかりに喜んだ。


「わぁーい!!さっすがアルト!!」


早速開けてティースプーンに山盛りにした砂糖をカップにサラサラと降らせる。じわりと溶けていく様子を目を輝かせながら見るレインをアルトは優しい表情で見ていた。


一方、ヤカクはお優しいことで、と呆れ混じりに言う。


「あまり甘やかすなよ、アルト」


アルトはとにかくレインに甘い。それはこのギルド内でも周知の事実だ。


「ヤカクこそ、あまり意地悪言わないでやってくれ」


「別に意地悪じゃねぇよ。報酬減額の理由をきちーんとわかってもらわねぇとお前のためにもよくねぇからな」


あんまり成功率低いと、依頼が来なくなっちまうぞ。


ヤカクの忠告にアルトは、肝に命じておく、と返した。すると、ヤカクはそれでいい、と言いながらニヤリと笑い、トレーに乗った一枚の書類をアルトに渡す。


「それじゃあ、仕事の話だ…。―本当はロコとジズにでも任せる予定だったんだが、あいつらに緊急任務が入ったからお前らに回ってきた。損害はなるべく最小限に抑えることが条件だ。―どうする?荷が重いなら別のやつに回すが」


アルトは黙って書類に目を通した。


内容は『潜入捜査』、ギルドで独自につけられている難易度は3。レインが暴走さえしなければ何とかクリア出来るレベルだ。


「引き受けた、明日にでも出立する」


「そいつぁ、良かった。期待してるぜ、二人とも」


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