第4章 塵よ積もれよ山となれ⑶

さて、何かを執筆しようと思ったものの。

「何書こう。」

早速、途方にくれてしまった。今まで本は読む側だったのだ。読むのと書くのは全然違うことを思い知った。

まず、どのようなことを書きたいのかがよくわからない。昔はよく現実逃避のために妄想していたが、それを話にしようとはならない。それはもはや害悪にもなりそうだ。

自分が特に好きなジャンルはミステリだ。しかし、ミステリを書くには頭が足りない。トリックとかが全然考えられない。

また、恋愛モノを書くかとも考えた。そこで10ページほど書き進めてみたが何か足りない。リアルさなのだろうか。どこか陳腐でつまらない。恋愛経験が豊富ではなかった自分が恨めしい。

だからといって、得意なジャンルがあるとも考えられない。難しい。書くこととは何だろう、と何故か概念的な話に頭がシフトしてしまい、3時間ほどたっても話は全くできなかった。


「あなたは耳年増なのよ。」

私にそう言ってくれたのは、花音ちゃんだった。

花音ちゃんは香澄の大学の同期だ。今まではそこまで話したことはなかったようだが、俺が香澄になってから仲良くなった。だから花音ちゃんには自分を偽らなくていいので、とても楽だ。

花音ちゃんは俺を二重人格だと思っているらしく、そうやって割り切って付き合っているらしい。ひょっとしたら俺がいなくなったら香澄との付き合いを止めるのではないかと思う。俺はそういうことに関して、彼女に聞いたことはない。

「本を書こうとか何かを生み出そうとしているわりには圧倒的にインドアなのよ。別に引きこもってかける人はいいのよ。ただ、あなたはそのタイプじゃないでしょう。」

経験しなさい、と彼女は言った。たしかにその通りなのかもしれない。


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