第4章 塵よ積もれよ山となれ⑵
俺は小さい頃から本が好きだった。本というよりも文章かもしれない。何でも読んでいた記憶がある。小学校の頃には図書館に通い詰めていたし、家には大量の本があった。ジャンルも多種多様で小さな書庫が家にあったような感じだった。
本だけでなく、新聞のコラムなども大好きだった。なぜか新聞の社説にひどくはまっていた時期がある。また、投稿者コーナーも好きだった。心温まるエピソードが多かったからだろう。
そのおかげで俺はたくさんの知識を身につけることができたと思う。自分にあまり関わりのなかったことまで。政治の話に詳しかったと思えば、子供の教育法まで知っている。そんな側から見たら不思議な、普遍的な知識を持っていたのである。
文章というのは俺にとって本当に特別だった。本の紙をめくる感覚は、俺を未知の世界に取り込んでいった。それは小説を読むにしろ新書を読むにしろ変わらない本の魅力だった。
香澄の家の本棚を見てみると、本はわりと置いてあった。読んだことがある本も多くあり、それでいてジャンルに偏りはあまりなく、自分の本棚を見ているような感覚によく陥ったものだった。
そこで俺は思いついた。香澄と俺の共通点である読書。自分が自分であったことの証明をするには本にして残すのが一番良いのではないか、と。
ただ、そう簡単にはいかない。本にするためにはそれなりの技量がいるし、自費出版しようかと思ったらそれはそれはお金がかかりそうだ。
そこで俺は考えた。…手当たり次第、やっている小説コンクールに作品を応募してみるのはどうだろうか、と。もちろん応募したところで上手くいかない可能性の方が遥かに高いのだが、やらないよりは全然いい。それに、自分の文章が人の目に触れる機会ができるという、ただそれだけで、何かが変わるのではないかと思った。それは、人から見た自分ではなく、自分の内面的なところで、だ。未練が一切なかった俺が、死んでから欲深く、ただもがく様はそれだけできっとコメディだ。だが、どれだけ人に笑われようと面白がられようと精一杯トライしてみれば、それはただのコメディではなく、感動モノの序章くらいにはなるのではないだろうか。
このような考えから、俺は「小説家の卵:暎」としての日々を過ごすことにしたのである。
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