第3章 噂の彼との邂逅⑷

時が止まったような気がした。

「大丈夫?少し端っこ寄ろうか。」

その人はそう声をかけてくれて、怪我した俺を労わるように支えてくれた。

「ありがとうございます。」

「いえいえ。」

笑みを浮かべると目の端に皺が寄る。穏やかな表情は人を安心させるものがある。

彼は生前の俺の会社の同僚だった。久々に会う彼は、やはりその時と同じ雰囲気を持っていた。

「君をみた時、亡くなった友人を思い出してね。」

彼は、俺に缶コーヒーを手渡すと話し始めた。彼にとって、その友人はどんな存在だったのかについて。


「何、泣いてるのさ。」

彼が話し終えた時、俺は号泣してしまっていた。涙が止まらない俺を彼は困ったような表情で宥めていた。もちろん、俺が泣いてしまったのには理由がある。

彼の友人というのは、おそらく俺のことだった。亡くなった時期も会社での役職も細かな癖も俺だとしか思えなかった。時々、俺を貶すような表現も用いていたが本気で貶しているのではなかった。「しょうがないやつだなぁ。」と呆れつつ愛おしむような目をしていて、それは本当に大事な人を思い出すような仕草だった。彼の話の中の俺は、彼にとても大事にされていたようだし、そのことに生前気がつくことができなかったことに深く後悔した。

俺が泣き止むと、彼は俺に言った。

「自分なんて、て落ち込まないようにね。あいつ、よく思ってたみたいなんだよね。自分には価値が全然ないんだって。実際のところそうじゃないんだけどさ。俺含めあいつのことが好きだった人は多いんだ。…君はあいつではないけど、ちょっと似てるから言っておくよ。」

そして、もう一つ、と指をたてた。

「今まわりにいる人を当たり前の存在だと思わないようにね。これは俺の経験談。俺はもっとあいつと過ごしたかった。恥ずかしいけど、亡くなって始めて実感した。だからさ、今、まわりの人に伝えたいことは言うべきだし、大事にするべきだよ。」

彼は、「ヒマな大人に付き合ってくれてありがとう。」「お大事に。」と言うと、立ち去ってしまった。


「なんだよ、あいつ。」

俺は思わず笑みをこぼした。…俺だって、ちゃんと大事にされていたんじゃないか。

今まで思っていたことがこんな形で喜びに変わるなんて思ってもいなかった。


ありがとう。そして、さようなら。また70年後くらいにな。

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