第3章 噂の彼との邂逅⑴

そうそう、香澄の彼と遭遇した事件について話しておこう。

その日も香澄の代わりに大学の講義にでた俺。意外と空き時間が多かったため、その時間を使って図書館に行き、課題に取り組むことにした。今時の大学図書館は充実してるようだ。勉強スペースとかがきちんとあって集中できる。いや、これは学校によるのか?少なくとも俺が昔通っていた学校はあまり良い環境ではなかった。

図書館に感心しつつ課題に取り組んでいた俺の肩をぽんぽんと叩いてきた人がいた。誰なのだろうと俺は振り返る。そしてフリーズしてしまった。

「奇遇だね、香澄。久しぶり。」

噂の香澄の彼だったからである。


香澄の彼こと黒神君は、香澄と同い年の男の子である。香澄とは大学のサークルで知り合ったらしい。香澄はあまりスマホなどで写真を撮るタイプの子ではなかったようだが、黒神君の写真だけはたくさん入っていた。相当好きだったようだ。香澄の撮った写真で黒神君を何回か見て、本人がどんな容姿をしているかを俺は把握していたつもりなのだが、実物の方がかっこよかった。さては、写真写りの悪いタイプだな。

だけど、香澄がこんなかっこいい子と付き合ってるなんて正直なところ驚いた。香澄が悪いとは言わないけど、あまりにも黒神君が洗練された子だったから、タイプが少し違うかなって思ってしまった。香澄とは正反対で、都会的なクールな感じかなって。香澄はお世辞にも洗練されたとは形容し難い人物だったから。そんな2人の相性は良いのだろうかと不安になる。

でも、それは杞憂だったみたいだ。黒神君は見た目からうける印象とは違って大人しくて優しい雰囲気の子だった。冷たいところがなくて少し安心する。かっこよくて優しいなんて、理想の男の子だな。同じ男だった身としては少し妬ける。そんな彼は香澄の何処を好きになったんだろうって考えた。

そしたら少し胸がチクリとした。だって今、黒神君が声をかけたのは香澄だけど香澄ではない。香澄の見た目をした暎なのだ。だから、そんな嬉しそうな表情で俺に声をかけないで欲しい。とてつもない罪悪感に苛まれる。それに香澄。会えただけでこんなに嬉しそうな表情をする彼がいるんじゃないか。生きていることに意味が見出せないなんて思わないでやってくれよ。彼が可哀想じゃないか。それに、彼にそんな表情をさせることができるのはきっと香澄しかいない。それだけで、十分に生きていることに意味は見出せるだろう?…でも、どう足掻いても今の自分は暎でしかない。それが酷くもどかしく感じられた。今の俺にできることはたった一つ。

「久しぶり。黒神君。」

笑みを浮かべて黒神君に挨拶することだった。

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