第1章 基本的なところから整えよう⑶

だが、この目標が意外と難しいのである。

まず、俺には料理スキルが皆無だ。だから、料理の仕方を調べようとも、どんな料理があるのかさえわからない。…そりゃあ、肉じゃがとかカレーは知ってるよ。でも、すぐにネタが尽きてしまう。しょうがないから本屋さんに行って料理本を買ってきた。聞いたことのない、カタカナの料理名のものがたくさんあり、少しげんなりする。しかも、すぐにお腹がすいた。いけないいけない。ダイエット中なのに!!…美味しそうな写真がついているのだもの。

二つ目の問題。それは香澄が実家暮らしの恵まれた環境だからこそなのだが。

「おはよう、香澄。朝ごはん、あるわよ。」

そう、彼女のお母さんよりも早く起きないと朝ごはんをつくることはできないのである。その結果、俺は早寝早起きの健康的な生活を送らねばならなくなった。やはり早起きはつらい。ちなみに今は冬だ。寒い。お布団が恋しい。ああ、お布団よ、俺をあっさりと解放してくれくれはせぬかい?

余談だが、お母さんのご飯は美味しかった。憑依する前の、暎としての自分がこの世から消える前の記憶を少し思い出させたな。懐かしい味がしたんだ。泣きそうになったものだ。やはり、もう少し暎として生きたかったな。やり残したこともあったし。…やり残したこと?どうして俺はこんなことを思ったんだろう?特に思い当たる節はないのに。俺は何か忘れているのかもしれない。

そして三つ目。空腹との戦いだ。やはりすぐにお腹が空いてしまうんだよ!どうなっているんだ、この身体は。

そこで、俺は自分の体重を毎日量り記録しておくことにした。現実を突きつけられるのは辛いものがあるが、そうでもしないと甘いものなどの誘惑に負けてしまう。

また、趣味を持つべきだと思った。お腹が空くのは暇な時だと相場が決まっている。だから、何かに夢中になれれば空腹との戦いには勝てると思うのだ。それもあっさりと。

だが、香澄の部屋にはろくなものがない。俺がやりたいと思える香澄の趣味はなかったのだ。まあ、本はあるのだが、読んだことのあるものばかりで新鮮味がなかった。あと、信じられないことにマンガがなかったのだ。

ただ、インドア系の趣味もいいが、趣味を通じて外に出られたらいいと思った。何かないか何かないか。俺は考えに考えた。だが、思いつかない。趣味とは自然にできるものなのかもしれないな。作るものではないのかもしれない。とりあえずは興味の持てそうなものに挑戦してみるに限る。…え?料理は趣味にはしないのかって?それは今後次第だろ。

こうして俺は「脱半ひきこもり生活」を決意した。決意したから外には出てみたんだけど。

「うー、寒いっ。」

どうして今年の冬はこんなにも寒いんだよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る