第1章 基本的なところから整えよう⑵
「あー、なんでこんなにやる気がでないんだろう?」
俺は疑問に思った。憑依してから2日が経った頃のことである。その日も俺はこいつを女子らしくしようと思っていた。ただ、何もする気になれないのだ。以前の自分ならそんなことはなかった。そこまで思ってふと思いあたった。
「もしかして!!」
俺の身体はこの香澄という女の子のものだ。ひよっとしたら、今までの習慣が体に染み付いているのかもしれない。
「…厄介だ。」
凄まじい無気力感を味わった俺は慄いた。どうにかしなければならない。
とりあえず、俺は一生懸命に気持ちを奮い立たせてこいつが溜め込んだ課題やら掃除やらをこなす。そしてご飯もつくる。皿洗いも洗濯もする。…途中で無性に本を読みたくなったりゲームをしたくなったりしたが。
それでもなんとかその日にこなしたかったことは全部やったのだ。えらいぞ、俺!!
そして、発生したもう一つの問題。それは。
「めちゃくちゃ腹が減るんだけど。」
そう、凄まじいほどの食欲だった。
「これじゃあ、太るはずだよな。」
そう、素材は悪くなさそうなのに野暮ったい印象を与えていたのはこの体型のせいであった。
「それに、ファッションがひどい。」
大掃除した時に見つけたアルバムの写真を眺めてみると、色々ひどいことが発覚した。色彩センスも服装の統一感もない。それにヘアスタイルもイマイチだ。
「磨きたいなぁ、こいつの身体。」
俺は心底そう思った。思ったが、気力が全くでない。凄まじい頑張りが必要そうである。俺は香澄の長年の習慣を恨んだ。でも、恨んでも意味がない。俺は深々と溜息をつく。そして今後、どうすればいいのか考えた。…このままだとこいつの彼氏もかわいそうだしな。実を言うと、暎はひどく香澄の彼氏に同情しているのである。
そして、暎は本格的に決断したのである。香澄を「理想の女の子」に磨き上げる、と。そのためにいくつかのルールをつくった。ルールを守れば、必然的に可愛くなれるルールである。あまりにも量があると挫折するので、コンパクトにまとめた。守るべきルールは一つだけ。
「自分で作った料理だけを食べること。」
このルールを守ることによって期待される効果は二つ。一つ目は、家事力向上。どうやら香澄は全くと言っていいほど家事をしない女の子だったらしい。そこで、料理をせざるを得ない状況に追い込むことによって強制的に家事をする習慣をつけようということである。二つ目は、健康促進。料理をするにあたって食に関する知識が広まる。その結果、体にいいものをとるようになるだろう。さらに、自分で作った料理しか食べられないので、ポテトチップスやチョコなどが食べられない。ダイエットするにももってこいなのである。
ファッションやヘアスタイルよりも先にここだよな。そう思った俺は、憑依した最初の月の行動目標をこれにしたのである。
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