粘り混ぜそば
「何事も粘りが大事よ」
あたかも名言のように奏恵は言う。グラスに入った麦茶を飲みながら彼女がそんな話をしていたのは、中途採用で入ってくるも数日で辞めてしまった人がいたからだそうだ。
義彦には、"すぐに辞める"という感覚は分からない。基本的に公務員となる人間は公務員となるために勉強し試験を受けて、ある程度の優遇を求めて入る者の集まりだという考えがあり、公的機関でありある程度の待遇の良さがあるからこそ"やめる気力が沸かない"のだ。
それに、入る時のコストを考えれば、そう簡単に辞めてしまうというのは勿体が無さすぎる。
「一般企業の入社は、面接一本で入れるなんてトコは少なくないと思うけど、だから"簡単に入れる"って気持ちで入ってくる人もいると思うし、そういう感覚で"合わなければすぐに別の所探せばいい"と思って辞めるんでしょうね。」
「粘りは、大事だよ。」
企業の採用コストとか、そういうモノで計った話では無かった。"合わないと思っても、ちゃんと味わって飲み込んでみれば結果は変わるかもしれない"と言う考えがあったのは、"これでなければ絶対仕事はしない"というこだわりが義彦には無かったからなのだろう。
「…こんな事を話しても、当人が辞めてしまったんだから仕方ないわ。」
粘り強く会社の愚痴を言い続けるのをやめて、奏恵は風呂に行く準備を始めた。それに合わせて義彦も夕食の準備を始める。
あまり長く話し続けても、その時の気持ちを変にぶり返すだけ。物事には、"粘り"が必要ない時もあったり。
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*粘り混ぜそば
材料(2人分):
中華そば…2玉
なめ茸…大さじ4杯
天かす…3つまみ
おくら…100g
むきエビ…100g
白だし…大さじ2杯
サラダ油…大さじ2杯
道具:
フライパン
鍋
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「サッパリしたわー。」
ドライヤーの音がして、風呂場から奏恵が帰って来る。化粧を落として温まった顔をタオルでとんとんと拭いて、出来上がって食卓に置かれたばかりの夕食を覗き込む。
「今日はネバネバした料理なんだ。」
「食べ物の粘りは、体にいいから」
「ネバネバでも、風呂あがりだから味がサッパリしてたら良いわ。」
その辺りは、義彦も考えていたつもりではあった。
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*作り方:
①フライパンにサラダ油をひき、温まれば中華そばを投入し、和風だしを加え弱火でほぐす。
②傍らで鍋に水を入れ、沸騰したらおくらを1分茹でる。
③だしを加えほぐした麺に、むきエビを投入し炒める。
④おくらを輪切りにし、③に混ぜ合わせる。
⑤④になめ茸を混ぜ、天かすを投入し更に混ぜ合わせたら完成。
※お好みで梅干しや納豆を入れても美味しく頂けます!
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「…味はサッパリしてるし、粘りがあって麺と一緒に具も食べやすい。」
"炭酸水が飲みたい"と思ってふと冷蔵庫から出し、氷を入れたグラスにボトルに入っていた炭酸水を注ぐ。口に残る粘りを、炭酸で持って行く感覚が気持ち良い。
この組み合わせは義彦も考えてはいなかったが、やってみると存外に病みつきになる。あっさり目の味付けで優しい後味を炭酸で流し込み、口の中を"完全に"サッパリさせる感覚は、心が洗われるようであった。
「さっきは、変な事言っちゃってゴメンね。…辞めていった子、正直な所凄く気が合うなーとか思ってたんだけど、もう気にしないようにする。」
「それは残念だったけど、気にしないで良いんじゃない?」
残しておいても良くない方の粘りは、どうやらサッパリしたようであった。
悩める貴女への創作料理 うましか @Pudding_Bugyo
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