チンジャオローハン
「チンジャオロースが食べたい」
いきなりの注文にも、義彦は慣れてしまった。
料理の事を考えながらも、別の事を考える余裕があるのだ。
以前に、上司と中華料理店に行った事が義彦にはあった。
駅前の直方体の無機質なビルが並ぶ中に、堂々と"私は中華料理店ですよ!"といった風に構えられている赤い壁に金を基調とした飾りのある中華風の建物である。
…行きつけの店だそうで、中国人の店主が切り盛りしているという、"まあ本格的なんだろうな"的な事を醸し出している。
連れていかれた"いかにも"な建物を眺めながら、義彦は上司に訊いた。
"マフィアはいませんよね?"
先日見た、極道の映画で観たことがあるような建物だったのだ。
主人公の極道の男が、拉致された組長の妻を助けるために単身"いかにも"な中華料理店に乗り込み、銃や青龍刀を使いこなすマフィアと壮絶な戦いを繰り広げる、といった内容の映画である。
厨房での格闘シーンでは、何故かシェフが中華包丁を振り回して戦うのだが、その辺りにツッコミを入れる必要は無いだろう。
"マフィアがいる訳ないだろう"
と、真面目なツッコミは帰ってきたが。
…さておき、本格的な感じが醸し出されているだけに、味も本格的な中華のもので、山椒のせいか徐々に辛さを発揮する汁なしタンメンに麻婆豆腐、疲れた体を芯から洗っていくような小籠包の肉汁の広がりは忘れられない。
しかし、義彦が最も評価したのはチンジャオロースだった。
素朴な味だが、白飯が欲しくなる。その平凡さに。
更に驚いたのは、"ワタシのおススメはこれよ"と言いながら、店主が丸く盛った白米の上に、チンジャオロースをぶっかけた事である。
…その時の衝撃を、義彦は炊飯器に詰め込んだ。
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*チンジャオローハン
材料(2合分):
ひき肉…200g
たけのこ…150g
ピーマン…100g
白米…2合
濃口醤油…大さじ1杯
みりん…大さじ1杯
めんつゆ…大さじ2杯と半分
中華だし…粉1つまみ
道具:
包丁&まな板
炊飯器
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「…何これ?」
炊飯器を覗いた奏恵は目を丸くした。
奏恵が炊飯器を覗いている時、炊飯器も奏恵を覗いているというのはふざけた話だが、炊飯器の中にはチンジャオロースの具材が茶色みを帯びた色水に浮いている。
「まあ騙されたと思って。」
おそらくその料理に合うであろう、インスタントの中華風玉子スープ(ほうれん草ときくらげ入り)を用意しながら、義彦は答えた。
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作り方:
①ピーマンを千切りにする
②白米2合に、既定の量の水をセットし、調味料を入れてよくかき混ぜる。
③具材を上に乗せて、炊飯器のスイッチを押せば時間経過で完成です!
※炊飯器は通常の時間で炊いて大丈夫です。
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「…ふーん、そんな事があったの。」
"まあ、美味しいからいいんだけど"という顔で炊きあがったチンジャオロース入りのご飯を、奏恵は頬張っている。
そこに至るまでのエピソードとか、どうでもいいのだ。
"義彦が何を考え料理を考えるか"よりも"その料理が美味しいのか"にしか興味が無い。だからこそ、奇抜な料理が出ても許せる度量があるのだ。
「…余った分はおにぎりにするけど、いい?」
「いいけど。」
奏恵は混ぜご飯とか、そういうのが好きなのもあったかもしれない。
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