蕎麦せんべい


おやつの時間であった。


出不精の義彦は、2LDKで6万ぐらいのマンションの一室で雑誌を読んだりして時間を過ごすが、奏恵は?というと出る日あれば出ない日あるといった感じ。


夫婦がいつもくっついている必要もなく、まだ結婚半年ぐらいだが程よい距離感を保っているとはお互いに思っている。夫婦であろうと所詮は他人、外出だろうとプライベートだろうと常に一緒にい続ける事が負担になるのであれば、"一番必要な他人"と心のどこかで納得してしまえばいい、という訳で。


これは、作者が考えている事ではない。作者の職場で、主婦層の女性から聞いた話だ。作者にこのような事を説明できる程の人生経験は無い。



「…昨日、何か買っておくべきだったわね」


かと言って今からおやつを買いに出かけるのは"面倒"というものだ。そんな気力があればもう買いに行っているだろうし、出るのが億劫だから部屋にいるのだ。



「卵にキャベツ、豚肉があるから夜ご飯は何かできるでしょうけど、おやつになる者はちょっとねー」


冷蔵庫を漁る奏恵。


「おやつにキャベツはナシよね。」


居酒屋じゃないんだ、と義彦はツッコミを入れる。何を思って昼の2時45分から居酒屋でキャベツを食べるのか?と思ったところで、居酒屋は夜に行くモノというのは勝手な決めつけだと悟った義彦は考えるのをやめた。


「あとはお蕎麦ぐらいね。」


「蕎麦があれば十分だ。」


奏恵の真後ろに出現する義彦。思わせぶりの展開に驚くかと思う人もいるかもしれないが、この夫婦は元の性格が冷めているのがくっついたためにそこまで大きな反応はしない。


「何?お蕎麦茹でるの?」

「いや、平たくして焼く」


「焼く?」

義彦の意図は分からず。彼は奏恵の手から、スーパーで買ってきた蕎麦1玉の袋を手に取って話を続ける。


「蒸し麺だろうと茹で麺だろうと、加熱すれば食べられる。」


スーパーに売っている麺は、"蒸し麺"と"茹で麺"に分類される。前者は麺を蒸したもので、弾力性の高い麺となっている。


…では、何故"蒸し麺"ばかり売られていないのか?と訊かれれば、"蒸し麺は茹でると変な油がいっぱい出てきて、汁物の味を損ねる"と言っておきたい。そのために"茹で麺"があるのだ。この麺に関しては、表面が油っぽくない。


つまり、うどんや蕎麦の麺は茹で麺という事である。


ここまで言っておいてアレだが、早い話が"焼きそば用の麺と汁物系統の麺料理に使う麺は違う"という事をご理解いただきたい。



__________


*蕎麦せんべい


材料(2人分):


蕎麦…1玉

ごま油…大さじ3杯

白ごま…適量


道具:

フライパン

ざる


__________



「解説を先に言ってしまったから、この間の話が無くなったじゃないの。」

「大事なのはレシピだ。解説はオマケでした話だし、そんなに出す場所に拘らなくていいだろう。」


__________


*作り方

①蕎麦はざるに入れ、流水でよくほぐした後、水を切っておく。

②フライパンにごま油をひき、温めたあと蕎麦が平たくなるように敷いていく。その上に白ごまを振りかける。

③表面がカリカリになったところで、裏返し同様に焼いて感性。

(焼けた時に、フライ返しで食べやすい大きさに砕いておくと綺麗に割りやすいですよ。)

__________



「どうやって食べるの?」


「塩を振るか、ダシ粉を振るか。」


「お勧めは?」


「塩だな。そこに少しダシ粉をかけてもいい。」


麺で簡単に作るせんべいは、ウケたようで何よりであった。


…普通に食べればいいものを、別の食べ方をするというのが創作の醍醐味である事をここでは言っておきたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る