華玉子
「貴女は華がないの!とか言ってくるのよあの主任さん…」
「主任さん?」
奏恵の会社の人の話である。市役所職員の義彦には中々に無縁な話だ、粗く事実を述べるなら行政職の公務員というのは"ホワイトな労働環境安定して給料が欲しくてやってきた"と言うのが大半であり、それが故に自分のホワイトな労働環境を大事にするしその余波で他人に対しても波風を立てない(悪く言えば興味を持たない)人間である。
義彦がどうかは置いといて実際労働するにあたって何を選ぶかと言えば"給料をはじめとする待遇の問題"が最も大事なのだ。熱意だけで働くなど狂人の域であるが、たまに"その域"にやってきている人間もいる、これが普通の人間にとっては厄介だ。
「最近、転職してきた人なんだけどね…。経験もあるからすぐ主任になったのよ、30後半の人なんだけど、お堅いけど仕事はできる人なの。」
お堅く、そして仕事のできる30後半の女性。そう聞いて義彦には疑問が浮かぶ。
「キャリアウーマン?」
「そう、キャリアウーマン。」
それからどんな感じの人か聞いてみるが、背が高くて中途半端に男前なのを2人従えたボブカットのふくよかな女性ではない。細身で伊達メガネと聞いたところで義彦はとある推理に出た。
「"仕事"よりも"仕事してる自分が好き"、指摘できる自分が好き、憧れられたい自分、みたいな。面倒見はいいんだろうけど。」
"そうそう、分かる?"と奏恵は食いついた。
「それで、"女は食べ物からよ!"ってこれを…」
奏恵が見せた写真は、主任さんとやらの手作り弁当の話であった。焼いた肉に玉子焼き、あとレタスと半分は白ご飯で敷き詰められた弁当である。
「うん、華が無いな。」
人間というのは指摘する側もどこか落ち度があるという訳であった。
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*華玉子
材料(1人分):
卵…1個
追いがつお…大さじ1杯
オクラ…中1本(小2本)
かにかま…ほぐしたのを軽く2つまみ
ごま油…小さじ1
道具:
茶碗
包丁
まな板
フライパン
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「卵焼きも1つ加えるだけで結構変わるぞ、弁当が楽しくなる。」
今日はよく喋るわね、と奏恵は思っていた。
「おくらが無ければ細かく切ったほうれん草でもいい。」
「夏冬で使えるって事ね。何気にアイデアものだわ。」
奏恵は、長袖のパーカーの袖をまくってキッチンに立つ。
これも珍しい、と義彦は思う。
「作れるようにしないと、"私にも華がある"って、あの主任にぎゃふんと言わせてやるんだから!」
これが選手ならいいのが育つよ、と義彦は苦笑いし奏恵を見守る事にした。
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作り方:
①お茶碗で割った卵を溶いて、追いがつおを入れ混ぜます。
②輪切りにしたオクラと、ほぐしたかにかまも混ぜてください。
③フライパンにごま油とサラダ油をひき、弱火にして温まったら②を投入、平たく焼き、表面がめくれるようになったら巻いていきます。
④食べやすい大きさに切り分け完成
__________
「ちょっと簡単に手間を加えるだけで変わるものね。」
「そうだな、彩りというのは大事だよ。」
義彦は味見をしながら続ける。
「その主任さんも、そんな感じだよ。玉子に具がちょっと入って変わったって感じの。華が無いというなら付け加えてやればいいんだ。」
"その主任さんだって元々はただの玉子だったんだ、奏恵ちゃんだって上手くやれるさ。"
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