麻婆アサリ


生憎の雨である。そんな大雨の日に外出をするなんてどうかと思ってはいるが、今日の義彦に関してはそんな事は口が裂けても言えない事である。


…そう、"妻の機嫌"のために。


「中華の口なのよ」


夜に、雑誌に載っていた中華料理店に行きたがっていた奏恵だが、これも生憎の大雨にも関わらず、"中華の口"とやらが収まらずにいた様子だった。しかしこの"中華の口"は思わぬアクシデントで思わぬ方向へ向かう事となる。


「ちょっと何よ、"店主の体調不良により休業"って。」

3時ぐらいに電話で状況を確認した時に、奏恵が一気に不機嫌になった。


まあ、しょうがないじゃないか。とも言いたくなるがこの手のお怒りは暫く置いておけば粗熱が取れる事を分かっている義彦は特に何も言う事は無い。


「いいじゃない、爺ちゃんがアサリをくれたんだから。」

雨が降っていない朝に、潮干狩りに行った爺ちゃんから貰ったアサリは、水の中に移し替えられて砂抜きの作業に入れられて数時間は経つ。


「アサリかー。」


アサリである。"アサリと言えばアサリとマッシュルームのクリームパスタよね"と奏恵は呟いた。職場のランチで食べに行って、"美味しかった"そうだ。


「でも私は今、"中華の口"なのよ。」


そんな事だろう、と義彦は推測していた。次に来る言葉も勿論の事に予測済みだ。



「アサリで中華できないの?」


義彦がそう言われて何も動じないのは"アサリを使った中華レシピ"が頭の中に入っているからである。しかし義彦が次に言う言葉も奏恵には予測されていた。


「できるよ。」

「うん、言うと思った。」


信頼の現れだろう、と推測しておく。


「何を作るの?」

「それは、以下の通り」


__________


*麻婆アサリ


材料(2人分):

アサリ…300g

むきエビ…200g

玉ねぎ…1/2個

味噌(赤白問わず)…大さじ2杯

中華だしの素…大さじ1杯

豆板醤…大さじ2杯、小さじ1杯

コンソメ…4g

水…60㏄

片栗粉…適量

刻みネギ…適量

サラダ油…小さじ1杯

ごま油…大さじ2杯


道具:

包丁

まな板

フライパン

__________


「片栗粉を使う事に何か意味はあるの?」

「メリットが2つあるんだ。1つは"具の風味を逃がさない事"、もう1つは"全体にとろみがいきわたって食べやすくなる"という事かな。」


「具の風味を逃がさないというのは初耳ね。」

「たまに、TVで豚の生姜焼きで、焼く前に肉に小麦粉をまぶす人がいるだろ?アレも同じ意味があるんだ。」


「聞いたことあるかも。」


__________


*作り方

①アサリは事前に塩水につけて砂抜きをしておいてください(水300㏄に対し塩10gぐらい、アサリの頭が少し出るぐらいまで容器に水を注いで冷暗所に保管する事数時間でOK)。尚、冷凍のアサリを使用する場合は、解凍前に流水で洗っておけば問題ありません(むきエビの場合も同様、エビの場合はモノによっては背ワタを取る必要があります、背中に楊枝を刺してちょっと抉ってみると、黒い糸のようなモノが出てきますがソレです)。


②アサリは鍋で少し茹で、貝が口を開いて熱が通ったら粗熱を取り、身だけを取り出して片栗粉を全面にまぶしておきます。むきエビは細かく切って、片栗粉を全面にまぶしてください。


③玉ねぎをみじん切りにし、フライパンに油をひいてあめ色になるまで炒めます。


④②でできた海鮮2種をフライパンに入れ強火で少し炒めた後、水で少し溶いた味噌、中華だしの素、豆板醤、コンソメを投入し、煮詰まるまで炒め続けます。とろみが出ないなら片栗粉を少し入れれば食べやすくなります。


⑤盛り付けたら、刻みネギを乗せて完成。


_________


「程よい辛み。和風っぽくて食べやすい中華ね。」

試食をしてみた奏恵の一言。


「ああ。ちなみに汁物はクノールのわかめスープか卵スープがお勧めなんだよ。スープ手作りするより、普通に安いし美味しい。」


付け合わせのスープは、インスタントの方がお得だったりするのは事実。美味しいなら安い方を選ぶのが家庭料理も大事。


盛り付けたところで、ご飯、麻婆アサリ、わかめスープという"お手軽っぽい中華"の食卓に舌鼓を打つ義彦と奏恵。



手を合わせて食事を始める2人。義彦は食事中は自分からあまり喋らない。


「白いご飯と、結構合うわね。」


夫の料理に感心する奏恵。


「…他に、美味しい食べ方があるのかしら?」


麻婆アサリを掬っていたレンゲを置き、キッチンの方へ向かった義彦が棚から取り出したのは、市販のバターロールであった。パンを切る用のナイフもついでに戻ってくる義彦、椅子に座るや否や、バターロールの腹をナイフで切り、詰め物ができるようにした。それを奏恵に渡す。


「詰めればいいの?」「うん。」


言われた通りに、麻婆アサリをバターロールの腹に詰め、一口する奏恵。


「エビチリをみたいね。けど麻婆もいけるなんて気づかなかったわ。」

昔、USJで食べたエビチリとパンを奏恵は思い出していた。



「もう、料理は全部義彦に任せてもいいかしら?」

「家事は半分半分で当番制という事で結婚したんじゃないのか?」


「そうだったわね。私でもこれは作れそうだし、今度はエビをひき肉に変えてみても上手くできそうだわ。」


"中華の口"は満足したようで、奏恵はご機嫌そうだった。

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