第二声 『それは一つの始まりで』

ともあれ、声が出なくとも学校を休む訳にはいかない訳で。

渋々ベッドから降りてサイドボードに置いていた黒縁の眼鏡を掛け、欠伸しつつ一階に降りる。

リビングのテーブルに朝食が用意され──…てる訳がないよな、なんせ一人暮らしだし。一人暮らしで朝食が準備されてたらそれこそ俺には恐怖です。


カチャカチャジューッ……


簡単にソーセージと卵を焼いて、トーストにマーガリンを塗りその上に黄金比率で砂糖ブレンドのきな粉を乗せてかぶりつく。

無言できな粉トーストを齧る。何時いつもながら美味しい。美味しさで声が出ない。…出したくても今は出せないのだけども。


『本日は晴れやかな日中に比べ、夕暮れになれば所により雨が降る模様です。気を付けて下さい。──以上天気予報でした』


……何で今の天気予報、『』を強く強調したんだ…?

少しの違和感に眉を顰めつつ、朝食を食べ終わる。食器を洗い、洗濯物を干して服を着替え何時もの時間に電車に乗る。

今日はその何気ない繰り返しが妙に白々しく、そしてよそよそしい感じがした。理由は分からないけれど。











カチリッ










とても小さく、世界のネジが切り替わる音がした──……










とても小さな崩御の音に、俺は気付かなかった。気付けたとしても、対応出来なかっただろうが──……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る