第百八十六話 創造主、蘇える

「じ、自爆だと!?」


「ちょっと、まずいっすよ!!」


 和巳も、真登も、動揺を隠せない。

 このままでは、全滅する可能性もあるだろう。

 柚月、朧は、まがまがしい気を取り除こうと、神の光や炎と闇を発動する。

 だが、何度、発動しても、はじかれてしまうのだ。

 ならば、直接、撃ち込むしかない。

 柚月と朧は、地面を蹴り、まがまがしい気へと迫り、神の光と炎と闇を打ちこみ、かき消そうとした。

 二つの力が、ぶつかり合う。

 爆発を引き起こしてしまいそうだ。

 千草は、警戒しているのか、その場で立ち尽くして、唸っていた。


「大丈夫だよ、千草。ボク達は、死なないからさ」


 村正は、千草をなだめ始める。

 しかも、自分達は、自爆に巻き込まれないと、確信を得ているようだ。

 彼は、一体何者なのだろうか。

 ただの妖ではないらしい。

 まがまがしい気をかき消す事ができない柚月達は、苦戦を強いられていた。


「わしの力が、元に戻っておれば……」


 苦戦する柚月達を目の当たりにして、笠斎は、悔しさをにじませる。

 笠斎も、本来の姿ではないようだ。

 彼の言葉を聞いた瀬戸は、笠斎の方へと視線を移した。


――やはり、貴方が。


「え?笠斎が、なんですか?」


 瀬戸は、気付いたようだ。

 笠斎の正体に。

 夏乃は、戸惑いながら、瀬戸に問いかける。

 だが、瀬戸は、答えようとしない。

 笠斎の口から、正体を明かすのを待っているかのようだ。

 笠斎は、うつむくが、決意したのか、前を見据えた。


「そうだ。私が、創造主だ」


「え!?」


 笠斎の口から、予想もしなかった言葉が聞こえてきた。

 なんと、笠斎が、創造主だというのだ。

 柚月達も、気付いておらず、動揺を隠せない。

 彼の姿は、神と言うよりも、妖に近いからだ。

 だから、気付けなかったのだろう。

 だが、今にして思えば、納得がいく。

 和ノ国や妖達のことに関して、詳しかったのは、創造主だったからであろう。

 彼は、夜深から、創造主の力を奪われ、今の姿になってしまったのだ。


「すまぬ……。わしが、油断しておったばかりに……」


 笠斎は、こぶしを握りしめる。

 悔やんでいるのであろう。

 油断が、今の状況を招いてしまったと。

 もし、夜深に力を奪われていなければ、和ノ国が、危機的状況に陥る事は、無かったと。 

 そして、柚月達を救うこともできたかもしれないと。

 しかし……。


――ですが、私の魂を使えば、元に戻れるよな。


「何?」


――私の魂をささげれば、創造主に戻れるはずだ。一時的ではあるが。

 

 瀬戸は、創造主である笠斎に、自分の魂を使えと提案する。

 これには、さすがの笠斎も驚きを隠せない。

 瀬戸は、笠斎を創造主に戻す方法を知っているようだ。

 だが、それは、瀬戸の魂が消滅することを意味していた。


「ちょ、ちょっと待つでごぜぇやすよ!そんなことしたら……」


――わかっている。だが、守りたいんだ。


「父上……」


 高清は、瀬戸の提案に反論する。

 柚月は、自分の父親と再会を果たしたのだ。

 これ以上、辛い思いをさせたくない。

 それは、瀬戸も同じだ。

 だが、なんとしてでも、柚月達を守りたかった。

 たとえ、魂が消滅することになったとしても。

 柚月は、神の光を放ち続けながら、瀬戸の方へと視線を移す。

 柚月も、本当は、止めたかったのだ。

 だが、それすらもできないほど、まがまがしい気は、膨れ上がろうとしていた。


「しかし、そんな事ができるのか?」


――魂をささげ、それを力に変えれば、できるのではないか?


 笠斎は、瀬戸に問いかける。

 魂を使って、自分が、元に戻れるとは、思えないのかもしれない。 

 だが、瀬戸は、聖印一族だ。

 聖印をその魂に宿している。

 それを力に変えれば、創造主に戻れるのではないかと推測しているようだ。

 つまり、あくまで、推測に過ぎない。

 できるかどうかは、誰にも、わからないという事だ。

 それでも、瀬戸は、賭けに出ようとしているのだろう。

 柚月達を守るために。


「後悔はしないのか?」


――息子の為なら、魂だって捧げられる!!


「父上、駄目だ!!俺が何とかするから」


 笠斎は、瀬戸に問いかける。

 だが、瀬戸は、首を横に振った。

 後悔するはずがなかった。

 柚月達のためなら、いや、奏の為なら、命も、魂も、捧げられると。

 だが、柚月が、それを許すはずがなかった。

 神懸りの力で、食い止めるつもりなのだ。

 しかし……。


――ありがとう、奏。でも、子を守るのが、父親の務めだ。


「待ってくれ……父上……」


 瀬戸は、柚月に感謝の言葉を伝える。

 自分を大切に思ってくれていると感じたからだ。

 だが、それは、瀬戸も同じだ。

 柚月を大切に思っているからこそ、守りたいのだ。

 だが、柚月は、瀬戸を止めようと手を伸ばす。

 どうか、待ってほしいと。

 その願いもむなしく、瀬戸は、笠斎の元へと歩み寄った。


――頼む。


「……すまぬ」


 瀬戸は、改めて、懇願する。

 笠斎は、瀬戸の魂を使う事を謝罪し、瀬戸の魂に触れた。

 すると、瀬戸は、光を纏い、笠斎の中へと吸い込まれていった。


――奏、ごめんな。必ず、生きろ。何があっても……。


 瀬戸は、柚月に謝罪した。

 柚月に辛い思いをさせてしまうと感じているのだろう。

 だが、それでも、生きてほしかった。

 生きて、幸せを見つけてほしかったのだ。

 だからこそ、瀬戸は、柚月に伝えた。

 自分の想いを。

 そして、瀬戸の魂は、笠斎の中へと吸い込まれ、笠斎から、光が放たれた。


「父上!!」


 柚月は、瀬戸を呼ぶ。

 だが、光が止むと、瀬戸の魂は消滅し、代わりに、金髪の青年が、現れた。

 黄金の衣装と神々しい力を身に纏って。

 彼こそが、創造主であり、笠斎の本来の姿であった。


「あれが……創造主……」


「なんて、力なの……」


 創造主・笠斎の力は、圧倒的だ。

 その場にいるだけで、身震いしてしまうほどに。

 瑠璃も、柘榴も、あっけにとられている。

 それほど、笠斎の力を肌で感じているのだろう。


『私が、守る!!』


 創造主・笠斎は、力を解放し、槍を生み出す。

 それは、かつて、聖印京の結界を破るために、生み出した解放の槍だ。

 その槍で、まがまがしい気を消滅させるつもりなのだろう。

 創造主・笠斎は、構え、すぐさま、まがまがしい気へと向かっていく。

 そして、槍で、まがまがしい気と死掩を突き刺し、死掩は、雄たけびを上げながら、消滅した。


「一瞬で、消し去った……。笠斎って、本当に、神なんだな……」


「兄さん……」


 透馬も、あっけにとられているようだ。

 それもそうであろう。

 創造主・笠斎は、柚月や朧でさえも、消せなかったまがまがしい気を消し去ったのだ。

 だが、それも、瀬戸が、自分を犠牲にして、笠斎を創造主へと戻したからだ。

 そう思うと、朧は、心が痛み、柚月を心配する。

 柚月は、うつむき、こぶしを握りしめた。


「ちっ。死掩の奴、消滅したか。でも……」


 村正は、苛立っているようだ。

 死掩が、自爆できず、柚月達を殺す事に失敗したと。

 しかも、創造主まで、復活してしまった。

 夜深達も、劣勢を強いられるはずだ。

 と推測していた柚月達。

 しかし、次の瞬間、信じられない事が起こった。

 なんと、村正は、突如、創造主・笠斎を貫いたのだ。

 それも、手刀で。


『なっ!!』


「もらったよ!!」


「笠斎!!」


 創造主・笠斎は、目を見開く。

 何が起こったのか、状況を把握できないようだ。

 村正は、手で、力を集める。

 それは、創造主の力であった。

 村正は、手を創造主・笠斎から、引き抜き、笠斎は、前のめりになって倒れ込み、柚月達は、笠斎の元へ駆け付けた。


「あははは!!成功した。やったよ!!」


「どういう意味じゃ!!」


 村正は、高笑いをし始める。

 自爆は、失敗したというのに。 

 まるで、作戦が成功したかのように。

 理解できない春日は、村正をにらみつけた。


「死掩はここで、死ぬつもりだったんだよ。お前の力を奪う為にね」


「はめられてたのかよ……」


「仕方がないじゃない。こいつが、全部、くれなかったんだから」


 村正曰く、死掩は、命を犠牲にして、創造主・笠斎の力を村正に奪わせるつもりだったのだ。

 はめられていたと気付き、透馬は、怒りを露わにする。

 だが、村正は、開き直っていた。

 笠斎は、全ての力を奪われたわけではない。

 全ての力を奪われる直前に、逃げ、姿をくらましたのだ。

 ゆえに、笠斎の中には、微弱な力が残っていた。

 それを、村正は、根こそぎ奪ってしまったのだ。


「この力があれば、夜深は、完全に創造主になれる。そうすれば、月を満月に変えることだってできるのさ!!」


 村正は、不敵な笑みを浮かべて叫ぶ。

 夜深は、自分が、創造主になるために、笠斎から、力を奪おうとしていたのだ。

 創造主になれば、月を満月に変える事もできてしまうらしい。

 柚月達は、技を発動するが、村正は、創造主の力で、防いでしまった。


「そうだ。ついでだから、静居達の居場所を教えてあげる。静居達は、月にいるよ。赤い月と満月の日を重ね、災厄を起こすためにね。深淵も、完全に復活したし、今頃、準備してるんじゃないかな」


 村正は、静居達の居場所を明かす。 

 なんと、静居達は、月にいるというのだ。

 これには、さすがの柚月達も、驚いている。

 まさか、静居達が、月に逃げ延びたなど予想もしていなかったのだろう。

 しかも、神刀・深淵も、復活を果たしてしまったようだ。


「大丈夫、安心して。月を満月に変えるのは、もう少し、先の事だから。君達を殺した後で、やるってさ。だから、待ってるよ。ボク達も、ね」


 静居達は、すぐには、満月に変えるつもりはないらしい。

 柚月達を殺した後で、変えるつもりのようだ。

 おそらく、柚月達を魂事消滅させるつもりなのだろう。

 二度と、生まれ変われないようにするために。

 村正達も、そのつもりのようであり、待っていると柚月達に告げ、逃げ去ろうとしていた。


「じゃあね」


「待て!!」


 柚月は、村正達が、逃げ切る前に、神の光を発動する。

 だが、村正は、創造主の力で、遮り、逃げ切ってしまった。

 月にいる静居の元へと。

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