第百七十九話 静居に打ち勝つには

 光の神・光黎に出会うことができた柚月達。

 だが、光黎は、眠っているようだ。

 目覚める気配はない。


「光黎、眠っているのか」


「おう。わしの力では、目覚めねぇ。だから、お前らの番だ」


 光焔は、光黎が目覚めておらず、寂しさを感じているようだ。

 早く、目覚めてほしいと願っているのだろう。

 それは、笠斎も、同じだ。

 だが、笠斎の力を持ってしても、光黎は、目覚めない。

 ゆえに、笠斎は、柚月達の出番だと告げた。


「お前ら?」


「察しがいいな。そうだ。光焔だけじゃ、目覚めることはできない。お前の力が、必要だ。柚月」


「俺の?」


 朧は、笠斎に尋ねる。

 光黎を目覚めさせることができるのは、光焔の力だと思っていたからだ。

 光焔は、光黎の半身。

 ゆえに、目覚めさせる力を持っているのではないかと。

 だが、笠斎は、「お前ら」と言った。

 つまり、光黎を目覚めさせることができるのは、光焔だけではないのだ。

 笠斎は、柚月にも、光黎を目覚めさせる力が宿っているという。

 だが、柚月は、見当もつかない。

 今、その身に宿しているのは、聖印と夢の力のみだと思っているからだ。


「お前にも、宿ってるんだよ。神聖なる力、奇跡の力な」


「え!?」


「いつ、力が、宿ったの?」


 なんと、笠斎曰く、柚月にも、神聖なる力が宿っているというのだ。 

 これには、さすがの柚月達も、驚きを隠せない。

 綾姫は、いつ、宿ったのかは、見当もつかなかった。

 柚月は、思考を巡らせる。

 すると、ある事を思い出した。 


「そうか、あの時か……」


 柚月は、気付いたのだ。

 いつ、神聖なる力が、自分の身に宿ったのかを。

 それは、静居との戦いで、魂までも傷つけられ、眠りについていた時の事だ。

 黄泉の乙女である葵が、柚月の魂を癒した時に、授けてくれたのだろう。

 葵の身に宿っていた神聖なる力を。

 神聖なる力を託されたのは、黄泉の乙女を引き継いだ椿、茜、藍だけではないという事だ。


――母上。


 柚月は、葵に感謝した。

 いや、感謝してもしきれないほどだ。

 葵が、柚月の為に力を注ぎ、愛情を注いでくれたのだ。

 そう思うと、柚月は、葵の為にも、光黎を目覚めさせようと決意した。


「さあ、頼んだぜ」


「柚月、いいか?」


「ああ」


 笠斎は、柚月と光焔に、懇願する。

 光焔は、柚月の顔を見上げ、柚月はうなずき、光焔と共に、光黎の前に立った。

 そして、手をかざし、力を注いだのだ。

 どうやって、神聖なる力を引き出すかは、柚月は知らないはず。

 だが、その力は、うまく引き出されたようだ。

 光黎を目覚めさせたいという想いが、奇跡を生んだのかもしれない。

 力を送られた光黎は、ゆっくりと目を開け、起き上がった。


『ここは……深淵の界……か……』


「光黎だ!!光黎が、目覚めたのだ!!」


 光黎は、ゆっくりと見回す。

 自分が、どこで眠っていたか、察したようだ。

 光焔は、光黎が、目覚めたことを喜び、光黎に抱き付いた。

 嬉しかったのだろう。

 自分を生んでくれた神が、目覚めたのだ。

 やっと、会うことができたのだ。


『お、お前は、光焔、か?』


「会いたかったのだ。光黎」


 光黎は、戸惑ったが、誰が自分に抱き付いたか、察したらしい。

 光焔は、うれしさのあまり、涙を流していた。

 朧達も、光黎の周りに立つ。

 まるで、彼を出迎えるかのように。

 瀬戸も、光黎の前に現れた。


――光黎。久しぶりだな。


『瀬戸、お前……』


――私は、死んだ。もう、千年前に。


『千年も、たっているのか……』


 瀬戸を目にした光黎は、察したようだ。

 瀬戸は、命を落としてしまったのだと。

 うなずいた瀬戸は、説明した。

 千年前に命を落としたと。

 光黎は、気付いたようだ。

 自分は、千年もの間、長い眠りについていたのだと。

 そして、葵も、瀬戸も、成平達も、いないのだと。

 それでも、自分が、目覚めたことに意味がある。

 そう感じた光黎。

 なぜなら、光黎は、知っているのだ。

 和ノ国が、どうなっているのかを。

 光黎は、すっと、柚月の方へと視線を移した。


『久しぶりだな。お前と夢で話した時以来か。柚月、いや、奏』


「じゃあ、あの時の声は、光黎だったんだな」


『そうだ』


 光黎の話を聞いた朧は、改めて、察した。

 夢の中で、自分と柚月にお告げしたのは、光黎だったのだと。

 光黎は、うなずいた。

 眠っている中でも、和ノ国の状況を察していたがために、夢の中で、二人に告げたのだろう。

 和ノ国を救ってほしいと。


「俺の事、知ってたんだな」


『わかる。お前は、よく似ているからな。葵と瀬戸に』


 柚月は、光黎に尋ねる。

 柚月の事を奏でと呼びなおしたという事は、柚月の正体を知っているからであろう。

 光黎は、柚月の問いに答える。

 一目で見抜いたようだ。

 それほど、よく似ているのだろう。 

 瀬戸と葵に。


「光黎、頼みがある。俺と契約してほしい。静居達を止めるには、神懸かりの力が必要だ」


『そうだな。お前の力だけでは、足りない』


「え?」


 柚月は、光黎に懇願する。

 神懸りの力を覚醒させた柚月は、光黎に契約してほしいと願っていたのだ。

 かつて、葵の時と同じように。

 静居の神懸りは、驚異的だ。

 ゆえに、同じ神懸りでなければ、通用しないだろう。

 だから、柚月は、光黎に懇願したのだ。

 だが、光黎は、柚月の力だけでは、静居に通用しないという。

 柚月は、思わず、困惑してしまった。


『夜深は、創造主の力を奪っている。神懸かりできたとしても、また、葵達と同じ結末を迎えることになるぞ』


「けど、夜深から創造主の力は、奪ったぞ?」


 葵も、神懸かりの力で、静居と死闘を繰り広げた。

 だが、静居には、敵わなかったのだ。

 なぜなら、静居は、夜深の半身と同化し、不老不死の力を手に入れた。

 しかも、夜深は、創造主の力を手に入れてしまっている。

 ゆえに、もし、柚月が、神懸かりの力を発動しても、通用しないと考えているのだろう。

 葵と同じ結末を迎えてしまう可能性もある。

 光黎は、それ懸念しているようだ。

 だが、九十九は、創造主の力は、奪い取ったと説明する。

 もう、夜深は、半分の力も、残っていないはずだ。

 今なら、勝てるのではないかと推測した。


『確かにな。だが、夜深は、狙っているはずだ。神聖なる力を奪えなかったのだからな』


「それに、赤い月の力をうまく利用すれば、創造主の力と同等の力を奪うこともできるかもしれん」


 確かに、夜深から創造主の力を奪い返した。

 だが、夜深が、あきらめるとは到底思えない。

 もう一度、奪おうと狙っているかもしれない。

 笠斎も、懸念しているらしい。

 今、月は、赤く染まっている。

 妖や人の負の感情が宿った血を吸い取ってしまったからだ。

 夜深は、赤い月の力さえも、吸い取って利用するかもしれない。

 ゆえに、油断ならない状況であった。


「どうすれば……」


 柚月は、悩む。

 自分が、神懸かりの力を得て、光黎と契約を交わしても、静居に打ち勝つことはできないという事だ。

 朧達も、どうすればいいのかと、悩んでいた。

 ここまで来たというのに。

 しかし……。


『案ずるな。一人、神懸かりと同等の力を得ることが、できる奴がいる』


「神懸りと?」


 希望は、まだ、潰えていない。

 静居達を止める方法は、残っているようだ。

 しかも、神懸かりと同じ力を得ることができる者が一人いるらしい。

 神懸りと同等と言う事は、強力な力をその身に宿しているという事なのだろうか。

 柚月達は、思考を巡らせるが、思いつかなかった。


「でも、皇城家は、柚月、一人だ」


「うん、皇城家は、滅んでる」


 皇城家は、とっくに滅んでしまった。

 ゆえに、皇城家の生き残りは、静居と柚月のみだ。

 一体、誰が、皇城家と同じ力を得られる者がいるというのだろうか。

 千里も、瑠璃も、見当がつかなかった。


「確かにな。だが、神懸かりと同等の力を得られるものが一人いるんだよ」


「それは、誰なの?」


 彼らの言いたいことは、わかるのであろう。

 だが、笠斎も、気付いているようだ。

 この中にいるのだと。

 綾姫は、問いかける。

 誰が、皇城家の聖印と同じ力を得られる者がいるのか。


『この中に、皇城家の聖印ではなく、蓮城家と安城家の聖印を持つ者がいる。それも、二人の妖と契約した者が』


「そ、それって……まさか……」


 光黎は、説明する。

 その者は、二重刻印をその身に宿しており、尚且つ、二人の妖と契約している者らしい。 

 それが、できるは、もう、彼しかいない。

 誰なのか、柚月達は、察し、その者へと視線を向けた。


『朧、お前だ』


「俺、が?」


 神懸りと同等の力を得られるのは、なんと、朧であった。

 朧は、目を見開き、動揺する。

 自分にそのような力があるとは、思いもよらずに。

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