第百七十八話 神聖なる力とは
柚月達は、奥へと進む。
笠斎曰く、光黎は、千草が、封印されていた場所よりも奥で眠っているというのだ。
それも、何重もの結界を張っているらしい。
それほど、厳重に封印されていたという事であろう。
目覚める時まで。
「もう少しだ。もう少しで、光黎に会えるぞ」
「うむ」
笠斎に言われ、光焔は、足早になりそうになる。
早く、光黎に会いたいのであろう。
自分の半身であり、自分を生み出してくれた光黎に。
そう思うと、急いでしまうのだ。
「笠斎、一つ、聞きたいことがあるのだ」
「なんだ?」
「わらわは、本当は、今まで笠斎と会ったことがないのだ。でも、あった気がしたのは……」
「そりゃあ、お前が、光黎の半身だからだ。だから、わしも、知ってたんだよ」
「そうか……」
光焔は、気になっていたことがあったようだ。
それは、千草を殺しに行くとき、深淵の界の場所を知っていたことや、笠斎と始めて会ったというのに、始めて会った気がしなかったのは、自分が、光黎の半身だったからではないだろうかと。
夜深が、妖ではないと言ってたいたのは、自分が、光の神だったからだと理解した。
笠斎も、光焔の正体を知っていたようだ。
だからこそ、何も言わず、迎え入れてくれたのであろう。
「ほら、着いたぜ」
笠斎は、立ち止まる。
光黎は、千草が封印されていた場所よりも、さらに奥で眠っていたのだ。
笠斎は、結界を全て解き放つ。
すると、圧倒的な力を柚月達は、感じ取った。
「すごい、力っす……」
「夜深もすごかったでごぜぇやすけど、光の神の力も、圧倒的でごぜぇやすね」
「そうっすね」
真登も、高清も、その圧倒的な力を感じ取り、身震いしている。
それほどの強さを肌で感じているという事なのであろう。
なにせ、光の神は、創造主から生まれた神だ。
それも、黄泉の神と互角に渡り合った。
相当の力を持っていてもおかしくはないだろう。
「そりゃあ、そうだ。光黎は、神聖な力を宿したんだからな」
「けど、その神聖な力って何だい?」
「確かによくわかりませんわね。創造主の力と違いでもあるんですの?」
笠斎は、その力の正体を語る。
光黎は、神聖な力を宿したのだ。
夜深を封印する時に、神聖な力を吸収したのであろう。
だが、葵達の過去でも出てきた神聖な力とは、いったい何なのだろうか。
自分達がその身に宿している聖印や創造主の力とは、異なった力なのだろうか。
和泉も、初瀬姫も、思考を巡らせるが、見当もつかないようだ。
それも、なぜ、地獄と化した獄央山に神聖な力が宿っていたのだろうかと。
「獄央山は、神の一族が、暮らしてた場所なのさ」
「あ、あの獄央山で、ですか!?」
「そうさ。しかも、神とだ」
笠斎は、説明し始める。
なんと、柚月達の先祖である神の一族は、獄央山で暮らしていたらしい。
時雨は、驚きを隠せず、笠斎に問いかける。
これは、おそらく、誰も、聞いたことのない話だ。
ゆえに、信じられなかったのであろう。
しかも、笠斎は、神の一族は、神々と暮らしていたという。
「これは、恐れいったね。俺達の先祖は、神様と暮らしてたんだ」
「僕も、知らなかったよ~。さすがは、神の一族ってところなのかな?」
「まぁ、そんなところだろうな。神の一族ってのは、創造主が生み出した特別な人間達の事だからな」
柘榴も、景時も、信じれないようだ。
神の一族についても、葵達の過去を見なければ、知らなかった事だからだ。
笠斎曰く、神の一族とは、創造主が生み出した特別な力を持つ人間たちの事らしい。
神の一族を生み出した理由は、和ノ国を守らせるためだったという。
その特別な力こそが、聖印だったのだ。
その聖印は、妖ではなく、災いから守るために、生みだされたものだという。
「神の一族は、供物や祈りを捧げていたんだ。毎日な。神を信じてたんだよ。信じたからこそ、新たな力が生まれた。それが、神聖な力ってことだ」
「信じてたから、力が生まれた?」
「そういうこった」
その時代は、人間たちは、神様を信じていなかったようだ。
だが、神の一族だけは、神を信じていた。
当然であろう。
神々と暮らしていたのだ。
神々に守られている事を実感したのかもしれない。
ゆえに、神の一族は、供物や祈りを神にささげた。
信じたからこそ、新たな力が生まれたらしい。
その力こそ、神聖なる力だというのだ。
透馬は、笠斎の言葉を繰り返すかのように呟いた。
「それって、聖印とは違うって事?」
「おうよ。神聖な力は、神の一族、人々の信仰心から生まれたものだ。まぁ、人の心から生まれた力ってやつだな」
和巳は、笠斎に問いかける。
神聖なる力は、聖印とは、異なるようだ。
笠斎曰く、神聖な力は、信仰心から生まれた為、神が生み出した物ではないようだ。
つまり、人々の心から生まれた。
人々が生み出したと言っても過言ではないのだろう。
「よく、わかんねぇんだけど」
「詳しく聞かせてくれないか?」
九十九も、思考を巡らせるが、やはり、まだ、よくわかっていないらしい。
それほど、神聖なる力は、謎に満ちているという事だろう。
千里でさえも、まだ、わからない部分があるようだ。
ゆえに、笠斎に、頼んだ。
神聖な力について、詳しく教えてほしいと。
これは、柚月達にとっても、武器になりうるからだ。
静居に打ち勝つことができるかもしれない。
そう考えたのだろう。
「人は、心の強さに左右される。聖印もそうだろ?」
「確かに、そうですね」
「信じる心は、強き心だったんだよ」
笠斎は、心について語る。
心が強ければ強いほど、人の力も強くなる。
それは、聖印にも同じことが言えるのだ。
聖印も、心の強さで、制御できる。
夏乃は、納得したようだ。
笠斎が言うには、信じる心は、強い心を持っているからだという。
信じれば信じるほど、強い心を持っていたことになるのだろう。
「祈りを捧げるってことは、神様を信じてるってことだ。祈りが、力に変わったんだよ」
「なんとも、興味深い話じゃ」
「調べたくなってでござるな」
神の一族が、祈りを捧げたのは、神を信じていたからだ。
その祈りが、いつしか、神聖なる力に変わったのだろう。
神の一族は、特別な力をその身に宿していたのだ。
祈りが力に変わっても不思議ではない。
神聖なる力とは、神の一族が残した置き土産だったのかもしれない。
春日も、要も、元研究者であるがゆえに、調べたくなったようだ。
「それで、神聖なる力とは、具体的に、どのような力なのでしょうか?」
「奇跡の力、ってところかもしれねぇな」
美鬼は、笠斎に、問いかける。
まだ、神聖なる力についてわかっていないことがあるからだ。
神聖なる力が生まれた過程は理解できたものの。
神聖なる力とは、どのような力なのかは、見当もつかない。
聖印のように神の力なのか、それとも、別なのか。
笠斎は、神聖なる力を奇跡の力と思っているらしい。
それも、あくまで推測でしかないようだ。
「抽象的だな」
「まぁ、わしも、実の所よくわかってないんだよ。神聖なる力が生まれたのも、予想外だったからな」
柚月も、意外だったようだ。
笠斎は、和ノ国に関して熟知している。
妖の事も、神々の事もだ。
ゆえに、神聖なる力についても、熟知しているものだと思っていた。
だが、笠斎も、神聖なる力に関しては、あまり、わかっていないようだ。
人々から、力が生まれたのは、笠斎にとっても、予想外だったらしい。
ゆえに、生まれた過程は、知っていても、力の正体については、憶測でしか語れないようだ。
「さて、話は、終わりだ」
「ほら、光焔」
「う、うむ」
神聖なる力について、話を終えた笠斎は、歩き始める。
光焔も、後を追うように歩きだし、柚月達も、ゆっくりと進み始めた。
奥では、光黎が、静かに眠っている。
ついに、光焔は、光黎と再会を果たしたのであった。
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