第百七十二話 死闘

 聖印京は、戦場と化していた。

 凶暴化する妖達。

 彼らを討伐しようと宝刀や宝器を構える聖印一族。

 だが、妖達の暴走を防ぎきることができず、人々は、血を流し、命を落とした。

 その戦場の中でも、光黎から生まれた神々、空巴、泉那、李桜は、空を駆けていく。

 人々を妖達から、守るために。


『急ぐぞ!妖達を浄化するんだ!!』


『ええ!!』


『はい!!』


 空巴達は、妖達を浄化しようとしているようだ。

 まずは、空巴が、赤い月へと力を送る。

 赤い月を浄化するためだ。

 千年もの間、何度も、赤い月が、出現して、その度に、空巴の力で、赤い月を浄化してきたのだ。

 李桜が、結界を張るために、術を唱え始める。

 そして、泉那が、妖達を浄化するために、雨を降らせようとした。

 だが、その時だ。

 まがまがしい力が、空巴達に襲い掛かったのは。


『っ!!』


 空巴達は、とっさに、回避し、後退する。 

 彼らの前に、黒い衣装を身に纏った三人の男性が、現れた。

 夜深に付き従う神々、死掩、戦魔、幻帥が、姿を現したのだ。

 当時、空巴達は、彼らの存在を知らず、戸惑っていた。


『そうは、させぬぞ?』


 死掩は、不敵な笑みを浮かべている。

 空巴達が、妖達を浄化させるのを防ぐため、彼らを殺すつもりのようだ。

 死掩は、鎌を振り回した。

 死神のごとく。


『あ、貴方達は、何者なの!?』


『ケケケ!俺らの事を知らないのか?まぁ、それもそうか』


 泉那に問いただされた戦魔は、笑みをこぼしながら、舌を出す。

 空巴達が、自分達の正体を知らないと知り、笑いが止まらない。

 まるで、空巴達をあざ笑っているようだ。


『貴方達も、神なのですか?』


『その通りでございます』


 李桜が、問いかけると、幻帥が、答える。

 自分達も、神であると。

 だが、空巴達は、彼らに、会ったこともないようだ。

 信じられないようで、戸惑っていた。


『私達は……夜深から、生まれた神だ』


『夜深から!?』


 死掩は、空巴達に自分達の正体を告げる。

 夜深から、生まれた神が身である事を。

 空巴達は、目を見開き、驚愕した。

 まさか、夜深が、光黎と同様に神々を生みだしていたとは、思いもよらなかったようだ。

 いくら、身をひそめても、気配は、察知できる。 

 だが、空巴達は、彼らの存在を感知できなかった。

 ゆえに、信じられなかった。


『そうだ。いい、実にいい、この眺めは、最高だ!』


 死掩は、戦場と化した聖印京を眺め、喜んでいる。

 死神であるがゆえに、死を目にし、興奮しているのであろう。

 空巴達は、構える。 

 彼らを倒さなければ、聖印京は滅んでしまうと察して。

 死掩達も、構えた。


『さあ、死んでもらおうか!!』


 死掩達は、空巴達に襲い掛かる。

 こうして、神々の闘争が、上空で始まってしまった。



 葵は、神懸かりを発動し、瀬戸と共に静居と死闘を繰り広げている。

 しかし、静居も、神懸かりを発動している。

 それも、創造主の力を手に入れた夜深をだ。

 ゆえに、葵達は、劣勢を強いられていた。


「っ!!」


 葵と瀬戸は、吹き飛ばされそうになるが、体勢を整える。

 だが、もう、体の方は限界に近い。

 葵と瀬戸は、荒い息を繰り返しながら、構えた。

 静居は、葵達を見下ろす。

 冷酷なまなざしで。

 まるで、愛しい妹を敵と認識しているようだ。


「まだ、やるか?葵」


「まだだ。私は、負けない!!」


 葵は、地面を蹴り、静居へと向かっていく。

 だが、静居は、あの黒い光を葵に向けて発動した。

 葵は、神の光を発動するが、その神の光すらも、かき消され、黒い光は、葵に襲い掛かろうとしていた。

 それでも、葵は、再び、神の光を発動し、無理やりかき消す。

 体力が、一気に消耗し、葵は、荒い息を繰り返していた。


「葵!!」


 瀬戸が、葵を助けようと駆け寄る。

 しかし、静居が、衝撃波を発動し、瀬戸を吹き飛ばした。


「ぐっ!!」


「瀬戸!!」


「鳳城風情が、図に乗るな」


 瀬戸は、壁に激突し、壁にもたれかかった状態で、意識を失ってしまう。

 体は、とうに、限界を超えていた。

 葵と共に、静居と死闘を繰り広げていたとはいえ、静居達の力を前に、叩きのめされてしまったのだ。

 ゆえに、瀬戸は、葵以上に傷を負っていた。

 重傷と言っても過言ではなかったのだ。


――なぜ、勝てないの?夜深が創造主の力を奪ったから?


 葵は、愕然としてしまう。

 神懸かりの力を持つ者同士の戦いであっても、これだけ、力の差が歴然としているのは、なぜなのか、理解できないからだ。

 夜深が、創造主の力を奪ったからだろうか。

 それほど、創造主の力と言うのは、驚異的なのだろうか。

 葵は、絶望に突き落とされかけていた。


――ねぇ、静居。かわいそうだから、そろそろ、止めを刺してあげたら?それとも、まだ、この子の事を……。


「勘違いするな。もう、情などない」


 夜深は、静居に葵を殺すよう促す。

 だが、もし、葵の事をまだ、愛していたとしたら。

 夜深は、不安に駆られ、問いかけようとするが、静居は、葵に対する情は持ち合わせていないと吐き捨てる。

 あれほど、葵を守ろうとしていたというのに。

 静居は、葵の前に立った。


「さらばだ」


 静居は、無の力を発動し、葵を消し去ろうとする。

 黒い光が、塊となって、葵に襲い掛かろうとしていたのだ。

 だが、葵は、神の光を発動して、黒い光の塊を防ぎきろうとした。


「くっ!!」


――葵、逃げろ!このままでは、死ぬぞ!!


「嫌だ。私は、勝つ!絶対に!!」


 黒い光は、葵を飲みこもうとしている。

 それでも、葵は、必死に耐えた。

 光黎は、葵に逃げるよう訴える。

 だが、葵は逃げようとしない。

 和ノ国を守ると誓ったから。

 その時であった。

 神の光に照らされた瀬戸が、意識を取り戻し、ゆっくりと目を開けたのは。


「葵……」


 意識が、もうろうとしながらも瀬戸は、葵を見ている。

 葵は、黒い光を打ち消そうとするが、黒い光は、葵を殺そうとしている。

 光黎は、神懸かりを無理やり解除させ、葵を助けようとした。

 だが、時すでに遅し。

 黒い光は、神の光を打ち消し、葵と光黎を飲みこんでしまった。


「ああああああああっ!!!」


「葵!!」


 葵は、絶叫を上げて、吹き飛ばされる。

 地面にたたきつけられた葵は、無理やり、神懸かりを解除させられ、地面に倒れ込んだ。

 重傷を負って。

 光黎も、傷を負い、仰向けになって倒れる。

 葵が、敗北した瞬間であった。


「終わったな」


――ええ。


「我が、願いを叶えようぞ」


 葵が、倒れ、静居は、自分が、勝ったと確信を得る。

 それは、夜深も同じだ。

 ついに、葵を倒したと、ほくそ笑んでいたのだ。

 これで、静居は、自分のものになる。

 葵から奪い取ったと勝ち誇っているのだろう。

 静居は、自分の願いを叶える為に、葵に背を向けた。

 しかし……。


「させるか!!」


 瀬戸が、静居の野望を食い止めるべく、激痛に耐え、体に鞭を打って、静居に斬りかかる。

 静居は、怒りを露わにし、瀬戸に襲い掛かった。

 葵は、意識が朦朧とする中、起き上がろうとするが、力が入らない。

 呆然と、天井を見ていた。


――負けたの?私は……。


 葵は、悟ってしまったのだ。

 自分は、静居に負けてしまったのだと。

 体中に激痛が走る。

 瀬戸が、静居と死闘を繰り広げているというのに、体を動かすことすらできないほど、重傷を負ってしまったのだ。


――力が、入らない……。ごめんね……。


 葵は、瞼が、重く感じた。

 このまま、意識が遠のいていく。

 そう感じた葵は、ゆっくりと、目を閉じようとしていた。

 しかし……。


――俺が、和ノ国を救う。


――え?


 どこからか、声が聞こえてきたのだ。

 その声は、凛々しくも、力強い声。

 誰の声なのかは、葵には、わからなかった。

 だが、次の瞬間、葵は、神の目を発動した。

 葵が、見た未来は、成長し、青年となった奏が、妖達を戦いを繰り広げる場面、仲間達と共に強く、たくましく、生きている場面であった。


――そっか。あの子が、奏が、守ろうとしてくれるんだね……。だったら、私も……。


 未来を見た瞬間、葵は、悟った。

 先ほどの声の主は、成長した奏の声だったのだと。

 奏は、和ノ国を守ろうとしてくれている。

 自分と同じように。

 そう思うと、葵は、あきらめてなどいられるはずもなかった。

 体に鞭を打ち、力を込めて、立ち上がろうとした。


「うあっ!!」


 静居と死闘を繰り広げていた瀬戸であったが、圧倒的な力に押され、再び、壁に激突する。

 もう、全身が、傷だらけだ。

 血を流し、骨も折れている。

 息をするのが精一杯だ。

 静居は、容赦なく、瀬戸の前に立った。


「あきらめろ。もう、お前達は、負けた」


「負けてなどいない。私が、お前を殺す!」


「腹立たしい!!虫けらが!!」


 静居は、瀬戸にあきらめろと吐き捨てる。

 だが、瀬戸は、あきらめてなどいなかった。

 まだ、負けていないと。

 静居は、形相の顔で、瀬戸をにらむ。

 腹立たしくて仕方がないのだ。

 なぜなのかは、静居も不明だ。

 だが、瀬戸を殺したいと衝動に駆られる。

 静居は、瀬戸に向かって、深淵を振り下ろした。

 その時だ。

 葵が、瀬戸の前に立ち、草薙の剣で、深淵の防いだのは。


「なっ!!」


「葵!!」


 静居は、驚愕し、動揺している。

 葵が、なぜ、動けるのかさえも理解できないからだ。

 黒い光は、確かに、葵を覆い尽くし、重傷を負わせたというのに。

 光黎も、葵の想いに呼応するかのように、立ち上がり、構えた。

 そして、葵は、神懸かりの力を発動し、再び、静居と死闘を繰り広げた。


――あきらめられるわけない。私は、守ると誓ったんだ。救うと誓ったんだ。私は、勝つよ。絶対に……。だから、生き抜いて。奏……。


 葵は、人々の為に、妖の為に、瀬戸の為に、光黎の為に、そして、奏の為に、勝つことを誓う。

 奏に生きてほしくて。

 彼の為なら、葵は、何度だって、立ち上がり、静居に牙をむく。

 そう決意した。


「おおおおおおおおっ!!!」


 葵は、雄たけびを上げ、突進する。

 そして、ついに、葵は、草薙の剣で静居を貫いた。

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