第百七十三話 愛するものの為に

「葵……貴様!!」


 葵に草薙の剣で、貫かれた静居は、血を吐き、形相の顔で、葵をにらみつける。

 無理やり、引き抜こうとするが、葵は、決して、草薙の剣を離そうとしない。

 和ノ国を守るために、静居を殺すと誓ったのだから。


――行くぞ、葵!!


「うん!!」


 光黎と葵は、力を込める。

 このまま、静居と夜深を殺すつもりだ。

 静居と夜深は、そう悟り、草薙の剣を折ろうとするが、折る事さえ敵わなかった。


「いっけええええええっ!!」


 葵は、神の光を発動する。

 これで、何度目だろうか。

 神の光を発動するたびに葵は、命を削っているような感覚に陥っていたのだ。

 それでも、葵は、ためらうことなく、神の光を発動した。

 神の光は、草薙の剣を通して、静居の内側から、放たれ、静居と夜深を照らした。


「ぐああああああああっ!!」


「神の光を発動しているのか!?」


 静居は、雄たけびを上げる。

 苦しそうだ。

 まるで、神の光を拒絶しているかのように。

 瀬戸は、悟った。

 葵は、神の光を発動し、静居と夜深を殺そうとしているのだと。

 そして……。


『ああああああっ!!』


 夜深は、絶叫を上げながら、静居から出る。

 神の光に照らされ、無理やり、神懸かりを解除されたためだ。

 静居は、ぐったりと倒れた。

 葵は、すぐさま、神懸かりを解除する。

 光黎は、夜深の腕をつかみ、そのまま、奥へと向かう。

 そして、神聖なる力が集った場所へと夜深を押し込み、光黎は、夜深の前に立った。


『このまま、共に堕ちてもらうぞ!!』


『貴方、まさか!!』


 光黎は、神聖な力を使い始める。

 その力を利用して、夜深を封印するつもりなのだ。

 夜深は、抵抗しようとするが、神聖な力に阻まれ、創造主の力を発動する事すら、敵わなくなった。

 夜深は、悟ったのだ。

 光黎は、どうやって、自分を封印するつもりなのか。

 意識を失ったかのようにうなだれた静居を目にした葵は、草薙の剣を引き抜く。

 静居の傷口から、血が流れた。


「ごめん、静居……」


 葵は、静居に謝罪し、涙を流す。

 なぜ、こうなってしまったのだろうかと、嘆いて。

 あれほど、お互いを信頼し合っていたというのに、いつから、袂を分かつことになってしまったのだろうかと。

 動く気配がない静居を目にした葵は、静かに、静居に背を向け、歩き始める。

 静居を深く刺し、神の光を発動したのだ。

 もう、静居が、目を覚ますことはないだろう。

 葵は、そう、察していた。

 しかし……。


「ふふふふ、ははははは!!!」


「っ!!」


 突如、静居が高笑いをし始める。

 葵は、驚愕し、振り向いた。

 光黎も、戸惑いを隠せないようだ。

 なぜなら、静居に重傷を負わせたと確信を得ていたのだから。

 それも、立ち上がれないほどに。 

 だというのに、静居は、立ち上がっている。

 痛みを感じていないのだろうか。


「まさか、これで、勝ったと思ったのか?甘いな」


 静居は、不敵な笑みを浮かべる。

 その時だ。

 静居の傷口が見る見るうちに、消え、再生されてしまったのは。


「再生された!?どうして……」


「深淵には、再生能力が備わっているからな。だが、これだけの傷を一瞬で治せるのは、深淵の力だけではない!!」


 一瞬の出来事であった。

 深手を負っていたというのに、静居は、傷を癒してしまったのだ。

 葵は、驚愕し、戸惑う。

 彼女の反応に対して、嘲笑うかのように、静居は、語り始めた。

 静居が持つ神刀・深淵には、再生能力が備わっているらしい。

 と言っても、一瞬にして再生させるほどの力は、持っていない。

 つまり、静居は、別の力をその身に宿しているという事であった。


『まさか、夜深、お前は……』


『そう。魂を二つに分けたのよ。もう一つの魂は、静居の中にいるわ!!』


『くっ!!』


 光黎は、夜深が、何をしたのかを、察し、戸惑う。 

 なんと、夜深は、魂を二つに分けていたというのだ。

 もう一つの魂は、静居に宿っている。

 つまり、静居の魂と同化してしまったという事だ。

 そのために、静居は、一瞬にして、再生してしまったのだ。


「これで、私は、不老不死の力を手に入れた。もう、私は、神も同然だ」


「そんな……」


 神の魂と同化したがゆえに、静居は、不老不死の力を手に入れた。

 神の力を手に入れてしまったのだ。

 それも、創造主の力さえも、手に入れてしまったのだろう。

 葵は、愕然とした。


「残念だったな。葵」


 静居は、葵に向けて、深淵を振り下ろす。

 葵は、草薙の剣を手にし、防ごうとする。

 だが、その時だ。

 瀬戸が、葵の前に立ち、かばったのは。

 瀬戸は、胸元を深く斬られ、倒れ込もうとしていた。


「瀬戸!!」


 葵は、瀬戸を支える。

 瀬戸は、口から、血を流すが、命を奪われていなかった。


「私なら、大丈夫だ。それより……」


「うん」


 瀬戸は、激痛をこらえて立ち上がる。

 葵も、立ち上がり構えた。

 まだ、終わってなどいない。

 どれほど、絶望に追い込まれようとも、二人は、あきらめなかった。

 瀬戸は、草薙の剣を握りしめる。

 すると、葵と瀬戸は、聖印の力を草薙の剣に、送り込んだ。

 無意識のうちに、波長を合わせていたのだ。


「夜深を封印する。そうすれば……」


「災厄は、引き起こせないはずだ!!」


「やってみるがよい!!」


 静居達と止める方法は、ただ一つ。

 夜深を封印する事だ。

 夜深の半身を、この地ごと、封印してしまえば、神聖な力も発動できなくなる。

 月を無理やり、満月にすることも、不可能になるはずだ。

 そのためには、静居の動きを止める必要があった。

 静居は、二人に向けて、再び、深淵を振りおろそうとした。


「おおおおおおおおっ!!!」


 葵と瀬戸は、雄たけびを上げながら、静居に向かっていく。

 光の速さのごとく。

 それも、静居が、深淵を振り下ろす前にだ。

 静居は、草薙の剣に貫かれた。


「な、に!!」


『静居!!』


 静居は、目を見開き、動揺する。

 何もかもが信じられなかったのだ。

 自分が、葵達を切り裂くよりも先に、葵達が、自分を貫いた。

 何が、起こったのかさえ、把握できないようだ。

 身動きが取れない夜深は、静居の身を案じるしかなかった。


「これで、終わりだ!!」


「がはっ!!」


 葵と瀬戸は、聖印の力を発動する。

 今度こそ、深手を負った静居は、血を吐いた。

 葵と瀬戸は、決して、草薙の剣を抜こうとせず、静居は、抵抗する事も、不可能なほどに、重傷を負い、ぐったりとうなだれ、気を失った。


「光黎、夜深を!!」


『承知した!!』


 静居の動きを封じた葵は、光黎に夜深を封印するよう呼びかける。

 光黎は、夜深を封印するために、神聖な力を使って、封印の術を発動した。

 だが、その時だ。

 光黎は、夜深から遠ざかろうとしなかったのは。

 葵は、光黎の異変に気付き、動揺した。


「光黎、何してるの?このままじゃ……」


『私が、封印の核となる』


「え?」


 葵は、光黎に問いかける。

 このままでは、光黎も、封印されてしまう事を懸念したのだ。

 光黎は、なんと、封印の核となると、告げたのだ。

 つまり、自分も、封印されることになる。

 葵は、理解できず、戸惑った。


『そうしなければ、夜深は、封印できない』


「そんな!!光黎!!」


 夜深は、創造主の力を手に入れている。

 神聖な力も、創造主の力ではあるが、夜深は、それを簡単に打ち破ってしまう可能性があったのだ。 

 ゆえに、光黎は、自らを核とし、夜深が、獄央山の洞窟から出られないように封印しようとしていた。

 どれくらい持つかは不明だ。

 だが、光黎は、迷わなかった。


『葵、瀬戸。お前達を出会えたこと、忘れぬぞ』


「光黎……」


 光黎は、葵と瀬戸に別れの言葉を告げる。

 彼女達が、無事なら、自分を犠牲になったとしても、苦ではない。

 彼女達の為なら、光黎は、命までも、ささげようとしていたのだ。

 しかし……。


『許さぬ、許さぬぞ!!光黎!!』


 夜深が、瞳に憎悪を宿し、強引に術を食い破る。

 術に身を引き裂かれ、全身から血を流そうとも、構わない。

 光黎に対する憎悪が、夜深を動かしているのだ。

 夜深は、光黎に迫ろうとしている。

 光黎を殺すために。


「このままでは、光黎が!!」


 葵も、瀬戸も、夜深が光黎に迫ろうとしているのを目にした。

 このままでは、光黎が、殺されてしまう。

 二人は、そう、察したのだ。


――ごめんね。瀬戸……。


 葵は、心の中で瀬戸に謝罪の言葉を告げる。

 まるで、覚悟を決めたかのように。

 そして、葵は、光黎の元へと駆けていった。


「葵!!」


 瀬戸は、葵が、走りだしたことに気付く。

 だが、静居を止めなければならず、葵を止めることさえできない。

 葵は、光黎にふれ、神懸かりを発動した。


『葵、何を!!』


――私も、一緒に核となる。そうすれば、完全に夜深を封印できるはず。


 光黎は、戸惑い、葵に問いただす。

 葵は、光黎と共に、封印の核となろうとしていたのだ。

 神懸りの力なら、夜深に対抗できる。

 そう、推測したのだろう。

 夜深を完全に封印するために。


『やめろ、葵。それだけは……』


――いい。これでいいんだ。瀬戸を、奏を守れるんだから……。


 光黎は、葵にやめるよう告げる。

 このまま、角となるという事は、命を落とすという事だ。

 光黎は、それだけは、させたくなかった。

 だが、葵の決意は固い。

 瀬戸と奏を守れるのであれば、命を差し出すことなど、惜しくなかったのだ。


――さよなら、瀬戸……。奏……。ごめんね……。愛している……。


 葵は、瀬戸と奏に別れを告げ、涙を流した。

 その時であった。

 光黎は、神聖なる力を使って、神の光を発動したのは。 

 神の光は、瞬く間に、広がり、妖達を浄化し、夜深が生み出した神々までも消し去った。

 人々の傷までも癒し、赤い月を鎮めて。

 それと同時に、封印の術は完成し、光黎は、葵と共に封印の核となり、結晶に覆われ、門と化す。

 夜深は、憎悪を宿しながら、地に封印され、やがて、その憎悪を力に変え、地獄へと変えるとは、知らずに。

 葵は、命を落とした。

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