第百六十六話 三種の神器

 葵と光黎は、光城に戻り、瀬戸達に、妖人の事、千草が失踪した事、これらの二つの事件を自分達で解決することを話した。


「不可解な事件かぁ」


「よ、妖人とは、一体、何でしょうね……」


「わからぬ……」


 亜卦は、のんびりとした様子ではあるが、深刻な表情を浮かべている。

 多々は、怯え、摩芭喜は、思考を巡らせるが、やはり、見当もつかないようだ。

 それもそうであろう。

 妖人など、聞いたことがない。

 ゆえに、何者であるか、どのような力を持っており、驚異的であるかさえも、不明であった。


「で、その妖人が現れたのっていつだっけ?」


「一週間前だそうだよ」


「一週間前って……」


「うん」


 角が、葵にいつ妖人が現れたか、尋ねると、なんと、一週間前らしい。

 つまり、千草が失踪した時期と同じなのだ。

 瀬戸も、気付き、不安に駆られる。 

 千草の身に何かあったとしか、考えられないからだ。

 葵も、同じように考えているようで、不安に駆られていた。


「情報が少ないし、用心したほうがいいってことか」


「うん。でも、どうやって解決するの?」


「困りましたね。その妖人とやらも、鬼のように手ごわいらしいですし……」


 古河助は、警戒したほうがいいと判断するが、美柑は、どのように事件を解決するのか、尋ねる。

 どちらも、難解のように思えたからであろう。

 わかっている情報と言えば、昼夜関係なく、妖人は、徘徊し、命を奪っているとのこと。

 そして、その行方は、今も、わかっていない。

 しかも、半年前に討伐した鬼と同様手ごわいという事だけだ。

 これでは、あまりにも、情報が少なすぎる。

 成平も、困惑した様子で、呟く。

 葵達は、思考を巡らせるが解決策が見当たらなかった。


「あれが必要になるかもしれんな」


「え?」


「どうしたんだ?光黎」


 光黎は、「あれ」が、解決策につながるのではないかと推測したらしい。

 葵は、あっけにとられ、瀬戸は、光黎に尋ねる。

 光黎が言う、「あれ」とはいったい何なのだろうか。

 妖人に対抗できるものと見て間違いないのだが……。


「妖人に対抗できるかどうかは、定かではないが、手に入れて損はない」


「どういうものなの?」


 光黎曰く、妖人に対抗できるかどうかは、光黎も、判断がつかないらしい。

 だが、手に入れれば、今後の戦いにも、役に立つようだ。

 しかし、どのようなものなのだろうか。

 葵は、光黎に尋ねた。


「三種の神器と呼ばれている者だ」


「三種の神器?」


「聞いたことあるよぉ。確か、神が作りし、三つの武器、でしょ?」


 光黎が言う、「あれ」とは、三種の神器らしい。

 だが、瀬戸は、聞いたことがないようで、首を傾げた。

 亜卦は、聞いたことがあるようだ。

 さすがは、千城家の姫君と言ったところであろう。

 三種の神器は、神が作った武器のようだ。


「そうだ。草薙の剣、八尺瓊勾玉、八咫鏡。これらは、かつて、創造主が生み出した物だ。和ノ国を守るすべと言ったところであろう」


 主を守る刃・草薙の剣、悪しき力を吸収し、神聖なる力に変えると言われている八尺瓊勾玉、主を守る盾となり、真実を映し出す八咫鏡。

 これらは、創造主が生み出した物であったらしい。

 光黎は、これを手に入れようとしているようだ。


「だが、千年前に、妖が生まれた時に、力を使い果たし、眠り続けている」


「それって、もう、使えないんじゃ」


「いや、そうではない。力を取り戻すために、眠り続けているのだ。どこまで、力を蓄えたかはわからないが、使えるであろう」


 千年前の事だ。

 平穏だった和ノ国に突如、妖が現れた。

 その妖達を鎮める為に、創造主が三種の神器を生み出し、使用したという。

 その結果、ほとんどの妖達は、和ノ国から姿を消したが、三種の神器は、力を使い果たしてしまい、眠りについてしまったようだ。

 となると、力を失ったのでは、使えないのではないかと不安に駆られる葵。

 だが、光黎曰く、力を取り戻すために、眠り続けているらしい。

 時が立ち、全ての力を取り戻せているかは、光黎も不明ではあるが、ある程度は力を蓄えているはず。

 ゆえに、妖人にも対抗できるかもしれないと考えたのだろう。


「その三種の神器は、どこに?」


「深淵の界だ。かつて、妖が、いた場所でもある」


 三種の神器は、深淵の界にあるらしい。

 聞きなれない言葉に首をかしげていた葵達であったが、光黎は、説明する。

 かつて、神と妖が住んでいた異界だと。

 妖達は、深淵の界から、和ノ国に出たというのだ。

 深淵の界の入り口は、獄央山にあるという。

 葵達は、さっそく、深淵の界に向かう事を決意した。



 しかし、夜深は、目を閉じ、葵達の様子をうかがっていたのだ。

 葵達が、深淵の界に向かうと知り、夜深は、ゆっくりと目を開けた。


「あの子達、深淵の界に向かうみたいね。三種の神器を手に入れるみたいよ」


「そうか」


 深淵の界に向かうと知った静居は、なぜか、不敵な笑みを浮かべていた。

 まるで、何かを企んでいるようだ。

 夜深も、妖艶な笑みを浮かべ始める。

 静居は、もう、葵を愛していないと悟って。

 静居は、突如、術を発動する。

 すると、術が、解除され、獣じみた者が現れた。


「後は、頼みましたよ。父上」


 静居は、その獣じみた者に対して、父上と呼ぶ。

 そう、その獣じみた者こそ、千草であった。

 


 何も知らない葵達は、獄央山にたどり着き、光黎が、深淵の門を開ける。

 深淵の界に入った葵達であったが、そこで、深淵の門番である笠斎と出会ったのだ。

 笠斎は、葵達を警戒したが、光黎が、事情を説明し、三種の神器を葵に渡してほしいと懇願する。

 人間を嫌っていた光黎が、人間の味方をしていることを知った笠斎は、驚いてはいたが、光黎の説得により、しぶしぶ、承諾し、葵達を三種の神器がある場所へと案内した。


「たく、戻ってきたかと思えば、三種の神器が欲しいとはな」


「すまないな。どうしても、必要なんだ」


「まぁ、いいけどよ」


 笠斎は、納得がいっていないがらも、光黎の頼みを受け入れてくれたようだ。

 どうやら、光黎と笠斎は、知り合いらしい。

 神と妖が知り合いとは、どういう事だろうか。

 葵以外は、警戒している。

 当然かもしれない。

 瀬戸達は、妖を敵だと認識しているのだから。


「ありがとう、笠斎。協力してくれて」


「ふん。お前のためじゃねぇ。光黎の頼みだからだ」


「それでも、本当に助かったよ」


「ったく、調子狂うぜ」


 葵は、笠斎に感謝の言葉を述べる。

 正直、瀬戸達は、驚いていた。

 まさか、妖に対して、感謝の言葉を述べるとは、思いもよらなかったのであろう。

 笠斎は、葵を冷たく突き放す。

 人間に協力しているつもりはない。

 光黎の頼みを聞いただけだと。

 笠斎は、戸惑いながらも、葵達を最深部へと連れていった。


「ほら、着いたぞ」


 最深部についた笠斎は、戸を開ける。

 すると、奥で、草薙の剣、八尺瓊勾玉、八咫鏡が眠っていた。


「これが、三種の神器」


「そうだ。手にしてみろ」


「うん」


 葵は、中へ入り、三種の神器を手にする。

 三種の神器は、暖かな光を発動し始めた。

 葵は、力が、入ってくのを感じる。

 とても、強く、優しい力が。


「すごい。すごいよ!」


 葵は、振り返り、嬉しそうに瀬戸達に話す。

 力を感じたのだろう。

 瀬戸達も、葵の元へ集まり、三種の神器に触れる。

 力を感じ取ったのか、瀬戸達は、目を合わし、相槌した。

 これなら、妖人に対抗できると感じたのだろう。


「まだ、半分の力しか戻ってないようだな」


「みたいだな。だが……」


 三種の神器を目にした光黎と笠斎は、推測する。

 三種の神器は、まだ、半分の力しか、取り戻せていないようだ。

 だが、半分だけでも、十分な力であろう。

 光黎も、三種の神器なら、妖人に対抗できると、推測したようだ。

 その時であった。


「ぎゃああああっ!!」


「な、なんだ!?」


 妖達の叫び声が聞こえる。

 何かあったのだろうか。

 笠斎は、慌てて、振り返る。

 すると、大きな地響きと、異様な力を感じ取った。

 妖気でも、聖印の力でもない。

 その力を感じ取った葵は、背筋に悪寒が走る。

 その時だ。

 一匹の妖が、血相を変えて、笠斎の元へと駆け寄ったのは。


「た、大変だ!!あ、妖でも、人でもない奴が、現れたぞ!!」


「な、なんだと!?」


 妖が、慌てた様子で、笠斎に報告する。

 なんと、人でも、妖でもない者が、侵入したというのだ。

 これには、さすがの笠斎も驚きだ。

 深淵の門は、固く閉ざされている。

 強引にこじ開ける事はできないのだ。

 笠斎や神にしか。


「妖でも、人でもないってことは……」


「まさか、妖人!?」


 葵達は、悟った。

 深淵の界に妖人が侵入してきたのだと。

 あの異様な力は、妖人の力だったと判明し、すぐさま、宝刀や宝器を構え、戦闘態勢に入った。

 葵も、三種の神器を手にし、構える。

 体が震えそうになる。

 なぜなのかは、葵にも分らない。

 妖達の叫び声が聞こえ、気配が一層強くなる。

 もうすぐ、妖人が、到達する。

 葵達は、そう、推測した。

 だが、その時であった。

 一瞬のうちに、妖人が、葵達の前に現れたのは。

 葵達は、驚愕し、妖人を見上げた。

 その妖人は、二本の鋭利な角を生やし、獣のような姿をしていた。

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