第百六十三話 平皇京を守るために

 葵は、瀬戸と彼の部下達と鬼を討伐するために、準備に取り掛かる。

 まずは、静居に知られないように武官を説得する事だ。

 葵は、すぐさま、討伐隊の武官に事情を説明したのだが、武官は、あっさりと許可してくれた。

 これには、葵も、驚きを隠せない。

 だが、武官にも事情があるようだ。

 葵は、武官に感謝し、瀬戸に報告。

 すると、瀬戸は、すぐさま、部下を呼び寄せ、光城に集まった。


「紹介しよう。討伐隊に所属している千城亜卦せんじょうあけだ」


「どうも、亜卦でぇーす」


「で、こっちが、亜卦姫を護衛している忍びの万城角まんじょうかく


「ういっす」


 千城亜卦と呼ばれた少女は、千城家の姫君ではあるが、まだ、幼く、軽い性格のようにも思える。

 それでも、立派な聖印隊士だったのだ。

 彼女の護衛を務める万城角は、万城家の忍びである。

 亜卦と同様に、軽く挨拶をするが、隙を見せることはない。

 さすが、忍びと言ったところであろう。


安城美柑あんじょうみかん


「ども」


真城摩芭喜しんじょうまばき


「よろしく」


 安城美柑と呼ばれた女性と真城摩芭喜と呼ばれた男性は、幼馴染らしい。

 二人とも、物静かではあるが、内に秘めている情熱は熱いようだ。

 今回、瀬戸に鬼の討伐に参加してほしいと懇願された時には、いち早く、参加すると承諾したらしい。

 美柑が連れている妖、雪女も、物静かであり、何も話そうとしない。

 当時、安城家の妖達は、道具扱いされていたのだ。

 ゆえに、彼女も、道具扱いされていたのであろう。

 そう思うと、葵は、心が痛んだ。

 雪女は、心を閉ざしているように思えたから。


蓮城多々れんじょうたた


「よろしくです」


天城古河助てんじょうこがすけ


「よろしく頼む」


 蓮城多々と呼ばれた女性は、おしとやかであり、どこか、天然さも持ち合わせている気がした。

 一方、天城古河助と呼ばれた青年は、真面目と言ったところであろうか。

 二人は、正反対の性格をしていると思えてくる。

 瀬戸曰く、正反対であるがゆえに、連携をうまくとっているようだ。

 彼らの実力は、かなり期待できると言っても過言ではないだろう。

 多々が使役している妖は、獰猛らしく、普段は石の中に閉じ込めているらしい。

 それも、古河助が作った強力な術で、抑えているというのだ。

 多々は、どのような妖を使役しているのだろうと葵は、気になっていたのであった。


「そして、私の弟、鳳城成平だ」


「成平と申します」


 瀬戸は、最後に、自分の弟である成平を紹介する。

 当初は、成平も参加する予定ではなかった。

 だが、瀬戸が、鬼を討伐すると聞いて、自分も参加したいと申し入れたそうだ。

 瀬戸は、反対したが、成平は、食い下がろうとしない。

 瀬戸の事が心配なのであろう。

 瀬戸は、観念し、成平を連れていくこととしたようだ。

 葵も、成平の気持ちを理解していた。

 兄を心配するのは、当たり前の事なのだから。


「よろしく。私が、皇城葵だ。皆、来てくれてありがとう」


 葵は、軽く自己紹介をし、感謝の言葉を述べた。

 彼らのような実力のある者が、参加してくれるのだ。

 これほど、心強いものはないだろう。


「しかし、瀬戸の部下は、皆、聖印一族だったのだな」


「いや、彼らは、部下ではない。同士って言ったところだ」


「同士?」


 光黎は、感心しているようだ。

 まさか、瀬戸の部下、全員が、聖印一族だと思いもよらなかったのであろう。

 それほど、瀬戸は、実力があるという事だ。

 だが、瀬戸曰く、彼らは、瀬戸の部下ではなく、同士らしい。

 一体、どういう事なのだろうか。

 光黎は、首をかしげた。


「今回の戦いは、一筋縄ではいかないはずだ。だから、私が、信頼できる者達を呼び寄せた。もちろん、彼らは、討伐隊に所属している」


「彼らの実力は、折り紙付きだよ」


 相手は、鬼だ。

 苦戦を強いられることを瀬戸は、想定しているらしい。

 ゆえに、自身の部下ではなく、信頼できる者達を呼び寄せたようだ。

 部下を信じていないわけではない。

 鬼と戦いを繰り広げるからこそ、聖印一族でなければならないと判断したようだ。

 葵は、彼らが、実力者である事も知っているようで、彼らを呼び寄せてくれた瀬戸に感謝していた。


「よく、説得で来たな」


「静居の事、話したからね。彼も、気にかけていたみたいだし。静居に知られないように、うまくやってくれるみたいだよ」


「本当に、助かった。ありがとう。葵」


「こちらこそ、ありがとう」


 討伐隊の武官が、許可してくれたのは、彼も、また、平皇京の事を気にかけていたからなのだ。

 あそこにも、聖印隊士がいるらしく。

 彼の部下だという。

 ゆえに、心配していたのだろう。

 瀬戸は、葵に感謝の言葉を述べる。

 だが、葵も、瀬戸に感謝していたのだ。

 お互い、微笑んでおり、まるで、恋人同士にも見える。

 もちろん、葵は、女である事を隠しているため、傍から見れば、男同士ではあるのだが、そこは、男の友情と思い込んでいるのだろう。


――瀬戸は、いつも、私のことを気にかけてくれてる。本当に、ありがたい。でも、私のことが知られたら……。


 瀬戸は、葵の事をいつも気にかけており、優しくしてくれる。

 葵は、それが、ありがたい。

 だが、ふと、考えてしまった。

 もし、自分の正体が、女だと、知られてしまったら。

 今までのような関係でいられるだろうか。

 軽蔑されないだろうか。

 葵は、急に、不安に駆られてしまった。


「さて、そろそろ、着くぞ」


「う、うん」


 光黎は、葵達に、平皇京に着くと教える。

 葵は、自分の心情を瀬戸達に悟られないように、うなずいた。



 平皇京にたどり着いた葵は、隊士に、事情を説明し、帝に会せてほしいと懇願する。

 情報を集めるためであり、帝に挨拶するためだ。

 たとえ、拒絶されたとしても、そうしなければならない。

 葵は、そう、考えていた。

 だが、意外にも、帝は、あっさりと承諾してくれたようで、葵達は、大広間へと案内される。

 葵達は、大広間にて、帝と謁見した。

 当時の帝は、男性であり、老人であった。


「皆、良く来てくれた。私が、帝・神薙龍かんなぎりゅうと申す」


「お目に抱えれて光栄です。帝」


 龍は、頭を下げて、自己紹介をする。

 葵達も、頭を下げ、会えたことを喜んでいた。


「そなたたちが、来てくれたと聞いたときは、驚いたよ。私達は、ひどい仕打ちをしたというのに……」


 龍は、後悔していたようだ。

 先祖がしたこととはいえ、己の感情だけで、判断し、聖印一族の位を下げ、蔑んできたのだから。

 恨まれても仕方がない。

 静居に懇願した所で、隊士達が、来るわけがないと、察し、あきらめていたようだ。

 だが、こうして、葵達が、駆け付けに来てくれた。

 こんなに心強いことはないだろう。

 それと、同時に、龍は、葵達に申し訳ないと反省したのであった。


「確かに、ひどい仕打ちを受けました。かといって、あなた方を見殺しにするわけにはいきません。今後も、貴方達の力が必要なのです。和ノ国を守るために」


「ありがとう。皇城葵」


 葵は、自分の心情を明かす。

 ひどい仕打ちを受けたからと言って、平皇京に住む人々を見捨てるわけがない。

 葵達にとっても、彼らの力は必要なのだ。

 お互い、連携を取り合わなければならない。

 助け合わなければならない。

 だからこそ、葵は、駆け付けに来たと龍に告げた。

 龍は、心の底から、ありがたいと思っているようだ。

 葵達も、龍も、微笑んでいた。

 しかし……。


「み、帝、大変です!!」


「どうした!」


 一人の隊士が慌てて、大広間へと駆け付ける。

 何かが起こったようだ。

 葵達も、龍も、察しており、隊士に問いかける。

 荒い息を繰り返しながらも、隊士は、息を整えて、告げた。


「お、鬼が、こちらへ近づいているんです!!」


「何!?」


 帝は、血相を変える。

 なんと、鬼が平皇京に迫ってきているというのだ。

 実の所、平皇京の隊士達は、鬼を討伐しようと試みたのだが、瞬殺されてしまったらしい。

 からくも、逃げてきた隊士がそう、告げたのだ。

 重傷を負いながら。

 報告後、その隊士は、息絶えてしまった。

 それほど、その鬼は、手ごわいのだろう。

 帝は、隊士達に指示をしようと立ち上がる。

 その時だ。

 葵が、すぐさま、立ち上がったのは。


「帝は、ここをお守りください。私達が、行ってまいります!」


「し、しかし……」


「私もいる。案ずるな」


「わかった。頼んだぞ」


「はい!」


 葵は、自分達が、鬼の元へ行くと告げるが、龍は、躊躇してしまう。

 葵達が、来てくれたのは、本当にありがたい。

 だが、もし、葵達の身に何かあったらと思うと、迷っているのだろう。

 光黎は、自分も共に行くことを告げる。

 光の神が、共に戦ってくれるのであれば、葵達が、命を落とすことはないだろうと、龍は、確信し、葵達に託した。


「皆、行こう!!」


 葵達は、すぐさま、平皇城を出た。

 鬼を討伐するために。



 一匹の鬼が、平皇京へと迫っている。

 その鬼は、男性のようだ。

 鋭利な角が生えており、短い金髪。

 黄金の瞳は、獲物を狙っているようだ。

 鬼は、隊士から奪った刀を手にして、平皇京へと進んでいった。


「さて、どうやって殺すかな」


 鬼は、帝を殺すつもりらしい。

 どうやって、殺すか、考えているようで、舌を出した。

 まるで、帝を殺すことを楽しみにしているかのようだ。

 だが、鬼が、平皇京へ到達する前に、葵達が、鬼の元へと迫った。


「へぇ、聖印一族がこんなところにいるとはなぁ。面白れぇ」


 平皇京へたどり着けなくなったというのに、鬼は、この状況を楽しんでいるようだ。

 聖印一族さえも、獲物と思っているのだろうか。

 鬼の元へ到達した葵達は、宝刀や宝器を手にし、構えた。


「せいぜい、楽しませてくれよ?」


 鬼も、刀を構える。

 こうして、葵達と鬼の戦いが、幕を開けた。

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