第百三十二話 波長が合わさる時

 ついに、二人は、波長を合わせる事に成功した。

 聖印を融合させることに成功したのだ。

 柚月は、九十九達に報告し、九十九達は、急いで、大広間に入る。

 綾姫と瑠璃は、矛先を天井に向け、強く握りしめていた。


「じゃあ、行くわよ」


「ああ、頼む」


 綾姫と瑠璃は、もう一度、波長を合わせるつもりだ。

 一度、成功したが、これを何度も、融合できなければ意味がない。

 つまり、常にできなければならないのだ。

 綾姫と瑠璃は、呼吸を整え、心を落ち着かせる。

 柚月達は、綾姫達が、できると信じているようで、冷静な表情で見ていた。


「瑠璃、美鬼、いい?」


「うん」


「いつでも」


 綾姫は、瑠璃と美鬼に準備はできてるか確認する。

 瑠璃と美鬼は、相槌を打つ。

 どうやら、準備はできているようだ。

 瑠璃は、すぐさま、美鬼を憑依させ、綾姫は聖印を発動する。

 すると、聖印は、矛先に流れ込み始めたようで、矛先が光を纏い始めた。

 その光は、輝きを増し、光の刃のように形作られる。

 神の光を纏っているかのようだ。


「おおっ!」


「完璧、だね」


 透馬も、和巳も、感激しているようだ。

 もちろん、柚月達も、感激している。

 困難だと言われていた訓練を綾姫と瑠璃は、見事こなして見せたのだ。 

 それも、短時間で。

 さすがと言ったところであろう。


「笠斎、どうだ?」


「やるじゃねぇか」


「まぁね」


 光焔が、笠斎に尋ねると笠斎も、感激しているようだ。

 予想以上にできていたらしい。

 おそらく、短時間で、成功させるとは、思いもよらなかったのであろう。

 それほど、困難だったのだ。

 綾姫と瑠璃は、誇らしげな表情でうなずく。

 そして、すぐさま、聖印を解除し、美鬼は、瑠璃から出た。


「これなら、操られてる奴らも、一時的に解放できるかもな」


「え?そうなのか?」


「おうよ」


 笠斎曰く、結界を破壊する事で、解放の矛に宿った神の光を降り注がせることができるらしい。

 彼の予想は、結界を破壊する為だけに作られたのだが、予想以上の出来栄えであったため、人々と妖達を解放できると予想したのであろう。

 だが、それは、一時的にすぎない。

 夜深は、まだ、創造主の力をその身に宿しているのだから。


「と言っても、聖印一族は、難しいだろうがな」


「聖印が、神の力、だからか?」


「おう」


 あくまで、解放できるのは、一般人と妖達のみだ。

 聖印一族は、操られたままらしい。

 おそらく、聖印が、神から与えられたからだろう。

 朧は、そう、踏んでいるようだ。

 神の力と聖印は、つながっている。

 ゆえに、聖印一族は、解放できないのだ。

 もし、柚月達が、聖印京に突入しても、光焔が、神の光で守ってくれる。

 綾姫達も、宝玉を手にしている限り、神々に守られるようだ。

 つまり、柚月達は、操られることは、決してないという。

 だが、油断は、禁物だ。

 静居は、どのような手を使うかわからないのだから。


「でも、一時的に解放できるなら……」


「兄さん?」


 柚月は、思考を巡らせる。 

 何か、いい案でも浮かんだのだろうか。

 朧は、柚月に尋ねるが、柚月は、答えようとしない。

 いや、答えられないのであろう。

 静居が、自分達の様子を見ている可能性があるのだから。 

 うかつには、話せないのだ。


「明日。聖印京に突入する。聖印京奪還作戦を遂行するぞ」


「早朝にか?」


「ああ。今は、時間が惜しいからな」


 柚月は、突如、聖印京に乗り込むことを告げる。 

 千里は、早朝に突入するのかと確認すると柚月は、うなずいた。

 彼の言う通り、時間がない。

 災厄は、迫ってきている。

 本当は、今すぐにでも突入したい所だが、綾姫と瑠璃の体の事も考えて、判断したのだろう。


「最初に、瑠璃が、美鬼を憑依させ、綾姫と光城から、飛び降りて、波長を合わせる」


「飛び降りるのですか!?そ、そんな事したら……」


 夏乃は、慌てた様子で尋ねる。

 もし、綾姫と瑠璃が、光城から飛び降りたらどうなるか、目に見えているからだ。

 柚月の言いたいことはわかる。

 結界を破壊するためには、飛び降りるしかない。

 だが、そのような危険な事は、させられない。

 ゆえに、反論しようとしたのだ。


「問題ねぇよ。空巴達が、いるからな」


 笠斎が説明を続ける。

 たとえ、綾姫と瑠璃が、飛び降りたとしても、空巴達がいる。

 彼らが、受け止めてくれるというのだ。

 それを聞いた夏乃は、安堵した。

 神々が受け止めてくれるなら、問題ないだろうと。


「二人が、結界を破壊した後、俺達は、聖印京に突入する」


「狙うのは、神々か?」


 千里は、聖印京に突入した後、どうするのかを尋ねる。

 いや、狙いは、神々だと思っていたのだ。

 幻帥と死掩のどちらかを消滅させれば、夜深が奪った創造主の力は、減少する。

 柚月は、それを狙っているのではないかと推測したのだ。

 だが、柚月は、首を横に振る。

 どうやら、神々を狙うつもりはないようだ。


「いや。大戦で、神々は、雲隠れしてるはずだ。消滅したら、夜深の力は減少するからな」


「なら、どうするつもりなんだよ」


 柚月は、推測していたようだ。

 戦魔を消滅させたことで、夜深の力は、減少し、撤退することになった。

 これにより、幻帥と死掩は、消滅を恐れたはずだ。

 静居たちも、神々を表舞台に出そうとは、思わないだろう。

 だが、神々を消滅させなければ、夜深の力は、奪うこともできず、人々や妖達を解放することはできないのではないか。

 九十九は、そう察し、どうするつもりなのか、柚月に問いかけた。


「静居と夜深を追い出す」


「これまた、大胆な作戦が浮かんだね」


 柚月は、静居と夜深を聖印京から追いだすと告げたのだ。

 綾姫も驚くほどの大胆な作戦だ。

 和巳は、少々困惑していた。

 静居と夜深を追い出す方が、困難を極めるのではないかと。

 静居の聖印能力は、神懸かりだ。

 朧達が発動する憑依とは、比べ物にならないほどの力を持っている。

 静居が、もし、聖印能力を発動すれば、ひとたまりもないであろう。

 それを朧達は、懸念しているのだ。


「そうだな。だが、あの力を使えば……」


「兄さん、まさか、あれを……」


 確かに、静居が、聖印能力を発動したら、ひとたまりもない。

 だが、柚月は、策を練っていたようだ。

 それは、大戦時に、発動したあの力、光焔を自分の中に取り込む力を発動しようとしているようだ。

 あの力の正体は、未だ不明だ。

 どのように発動するかも。


「あのね、柚君、前回は、光焔が制御してくれたから、助かったけど、次はないかもしれないんだよ?」


「わかってる。だが……」


「神をも殺す力なら、静居の神懸りに対抗できるってか?」


「……そうだ」


 柘榴があきれた様子で、柚月に語りかける。

 いや、止めようとしているようだ。

 当然であろう。

 大戦時は、光焔が制御してくれたから、助かったのだ。

 だが、もし、光焔も、聖印に飲みこまれれば、柚月は、聖印の暴走を抑え込むことができず、聖印に飲まれ、命を落としてしまうかもしれない。 

 朧も、かつて、聖印を暴走させたことがあったがゆえに、賛成はできなかった。

 柚月は、それも、承知の上だ。

 光焔にも、危険が及んでしまう事も。

 それでも、彼は、やるべきだと考えているのであろう。

 なぜなら、柚月が発動させた力は、戦魔を消滅させた。

 つまり、神懸かりを発動する静居に対抗できる唯一の手段だ。

 笠斎は、そう察したようで、柚月に問いかけ、柚月は、うなずいた。


「いい作戦だ。利用できるもんは、全て、利用しろ」


「笠斎」


 笠斎は、柚月の策に賛同する。

 静居に対抗できるのであれば、利用するべきだと。

 だが、朧が、笠斎をにらみながら、彼の名を呼ぶ。

 余計な事を言うなとでもいいたのであろう。

 それほど、柚月と光焔の身を案じていたのだ。


「わらわは、大丈夫なのだ。それに、柚月となら、うまくできる気がするのだ!」


 光焔は、朧達の前に駆け寄る。 

 彼も、柚月の策に賛同しているようだ。

 それに、柚月となら、静居と夜深を追い出せる。

 そう感じているのであろう。

 柚月も、決して、意思を曲げようとしない。

 いや、覚悟を決めているようだ。

 自分の身に何があっても、静居と夜深を追いだし、光焔を守ると。

 無茶苦茶だ。

 朧は、あきれつつも、ため息をつく。

 観念した瞬間であった。


「止めても、無駄。なんだな」


「すまない」


「謝るな。謝るくらいなら、絶対に、死ぬなよ」


「ああ」


 朧は、いくら止めても、柚月は、やるつもりなのだと悟り、賛同する。

 柚月は、謝罪するが、朧は、謝るのであれば、無事に、生き残れと告げた。

 これまた、無茶苦茶だ。

 だが、お互い様と言ったところであろう。

 柚月は、苦笑しながらも、うなずいた。


「今度は、俺も、一緒に戦う。九十九、千里、協力してほしいんだけど、いいかな」


「ああ、そのつもりだ」


「柚月は、危なっかしいからな」


「どういう意味だ」


 朧は、ここで、柚月に同行したいと懇願する。

 もちろん、九十九も、千里も、同意見だ。 

 柚月は、無茶ばかりするからであろう。

 からかわれた気がした柚月は、眉をひそめる。

 機嫌を損ねてしまったらしい。

 だが、それも、ほほえましい事だ。

 当たり前の日常が一瞬だけではあるが、戻ったような気がして。

 柚月達は、思わず、笑みをこぼした。


「まぁ、柚月君の作戦に乗るしかないね」


「やってみないとわからないだろうしねぇ」


「ありがとう」


 ついに、綾姫達も、観念する。

 柚月と光焔を信じるしかないのだと。

 景時も、和泉もあきれた様子ではあったが。

 こうして、朧達は、柚月の作戦を受け入れる事を決意した。

 柚月と光焔を必ず、守ると誓って。


「柚月、こいつを、帝に送ってくれ」


「わかった」


 笠斎は、柚月にある物を渡す。

 それは、帝宛ての手紙だ。

 笠斎は、綾姫と瑠璃が、訓練をしている間に、書いていたらしい。

 おそらく、聖印京に乗り込むと報告したいのだろう。

 柚月は、その手紙を受け取り、石に封じ込め、術を発動して、石は、撫子達の元へと飛んでいった。


「絶対に、聖印京を奪還するぞ!!」


「おう!!」


 柚月達は、聖印京に乗り込むことを決意した。

 聖印京を、人々と妖を解放する為に。

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