第百二十三話 VS死掩

 死掩は、鎌を振り回し、空巴をほんろうしている。

 空巴は、天空海闊を発動して、空気から刃を生み出すが、死掩は、鎌で全てを切り刻んでしまう。

 それどころか、死掩は、鎌を振りおろして、空巴を切り裂こうとした。

 あの鎌は、命や魂を奪うことができる。 

 死掩が、その気になれば、空巴でさえも、一瞬にして、消滅してしまうだろう。

 それだけは、なんとしても、避けたい。

 空巴は、一時、死掩から、距離をとった。


『どうした?空巴、ここで終わりか?』


『そんなはずないだろう!!』


『そうか、それは、実にいい!私を退屈させるなよ?』


 死掩は、再び、空巴に襲い掛かる。

 空巴は、空即是色を発動し、幻を生み出す。

 死掩をほんろうするつもりだ。

 だが、死掩は、その幻でさえも、鎌で切り裂く。

 冷静を保ちながら。

 その間に、空巴は、死掩の背後に回り、死掩は、空巴に気付いて、振り向いた。

 今度こそ、鎌で、消滅させるために。


『あとは、頼んだぞ!』


『なに!?』


 空巴は、死掩に殺されるつもりは、毛頭ない。

 そのため、再び、天空海闊を発動する。

 死掩は、驚愕しながらも、距離をとるが、空巴は、死掩を地面へとたたき落とした。

 これが、目的だったのだ。

 空巴は、ほんろうされるふりをして、死掩をたたき落とし、地上にいる柘榴達に託した。

 自分一人で、死掩と互角に戦えない事は、悔しい。

 だが、今は、そのような事を言っている場合ではない。

 和ノ国を守るためには、人間と手を取り合い、共闘しなければならないのだ。

 真っ逆さまに落ちていく死掩。

 体勢を整えるが、背後から真登を憑依させた柘榴が出現した。

 柘榴は、霧脈を発動して、姿を消していたのだ。

 背後から、死掩を切り裂くために。


「はいよ。仕方がないね!」


 柘榴は、すぐさま、真登異魔霧を発動し、異質な霧で、死掩をほんろうして、切り裂こうとした。

 だが、相手は神。

 霧ごときでほんろうされるわけがない。

 死掩は、鎌で、柘榴を切り裂こうとするが、柘榴は、霧隠で防ぎ、そのまま、霧脈を発動して、姿を消す。

 これでは、さすがの死掩も後は追えない。

 柘榴は、そう、推測していたのだ。

 柘榴の姿を目で追う死掩。

 地上を見やると、柘榴は、楽しそうに手を振っていた。

 それも、挑発するかのように。


『ちっ!忌々しい!だが、実にいい!』


 死掩は、柘榴の戦い方に対して、感心しているようだ。

 相手が、神であっても、ほんろうさせようとしている。

 それは、自殺行為と言っても過言ではない。

 だが、危険を顧みず、戦う様は、死掩も認めているようだ。

 人間にしては、実にいい戦い方だと。

 死掩は、柘榴達を見下ろしている。

 やはり、簡単に、降りてくれそうにはなかった。


「なら、こいつでどうだ!!」


『ほう、素晴らしい!』


 降りてこないなら、降ろさせるだけ。

 透馬は、死掩を地上に下ろさせるために、聖生・岩玄雨を発動し、大量の岩玄が雨となって、死掩に降り注いだ。

 死掩は、鎌で斬り落とすが、再び、空巴が、空即是色を生み出し、死掩へと攻撃を仕掛ける。

 神と人間の連携を目の当たりにした死掩は、彼らをほめたたえ、地上へと降りた。

 柘榴達と戦う気になったようだ。

 死掩は、すぐさま、柘榴に斬りかかる。

 憑依化は、神にとっても、厄介のようだ。

 だが、夏乃が、時限・時留めを発動し、一瞬だけ、死掩の時を止め、淡雪で、死掩の鎌を防いだ。


『時を止めたとは、実にいい!』


「神に褒められるとは、思ってもみませんでしたよ!」


 死掩は、夏乃が、時を止めた事に関して、感心を抱いているようだ。

 時を操る万城家であっても、神の時を止められるのは、一瞬だけだ。

 だが、その一瞬に夏乃は、かけたのだ。

 柘榴を守れるのではないかと。

 その判断力を死掩は、ほめたたえたようだ。

 夏乃も、神に褒められるとは思ってもみなかったのであろう。

 だが、夜深側の神でなければ、どんなに良かったことか。

 夏乃は、そう思いながら、雪化粧を発動するが、さすがに、神を凍らせても、すぐに氷は、砕かれ、鎌が、夏乃に襲い掛かろうとしていた。


「っ!!」


「夏乃!!」


 鎌が、夏乃に迫っていく。

 このままでは、夏乃が命を奪われてしまう。 

 そう察した初瀬姫は、結界・凛界楽章で夏乃の前に結界を張り、和泉が、麗糸を駆使して、鎌に巻きつく。

 だが、死掩は力強く、麗糸を振り払うが、夏乃や柘榴を回避させる時間は、稼げた。


「ありがとうございます!初瀬姫様!和泉!!」


「礼は、あとにしなって!」


「そうですわよ!」


 夏乃は、二人にお礼を言うが、お礼を言っている場合ではない。

 相手は、死掩だ。

 他の妖とは、わけが違う。

 一瞬の隙も、命取りとなってしまうのだ。

 空巴が、柘榴達を守るように、前に出る。

 死掩は、鎌を振り下ろすが、ここで、要が、前に出て、死掩の腕をつかんだ。

 柘榴達が、攻撃を仕掛け、傷を負う死掩。 

 要を振り払おうとするが、要は、鎌を手放そうとしなかった。


『ほう、妖人か。素晴らしいな。力比べと行こうか』


「いいでござるよ!!」


 死掩は、このまま、強引に鎌を振り回そうとする。

 だが、要は、決して離さない。

 そうしているうちに、柘榴達は、攻撃を仕掛ける。

 死掩は、鎌を手放すつもりはないらしい。

 いや、むしろ、この程度で自分が、消滅するはずがない。

 そう、思っているのだろう。

 だからこそ、要に挑んだのだ。

 どこまで、耐えきれるかと。

 要は、必死に、鎌を握りしめ、手放そうとしない。

 しかし……。


『なんてな!!』


 死掩は、強引に鎌を振り回す事で、要を吹き飛ばす。

 先ほどまでは、手を抜いていたのだ。

 要が、どこまで、耐えきれるか、確かめる為に。

 吹き飛ばされた要は、体勢を整えるが、死掩は、鎌で、要の首を斬り落とそうとしていた。


『させぬぞ!』


『空巴!!』


 空巴が、要の前に出て、天空海闊を発動し、空気から刃を生み出す。

 死掩は、鎌を振り回しながら、退避し、柘榴達から遠ざかった。

 初瀬姫は、すぐさま、結界・凛界楽章を発動し、柘榴達の前に結界を張る。

 透馬は、聖生・岩玄雨を発動し、結界の前に、大量の岩玄を地面に突き刺し、岩玄は、防壁へと姿を変えた。

 死掩は、鎌で斬り落とすが、柘榴達の姿はない。

 柘榴が、霧脈を発動して、姿を消したのだ。

 その間に、和泉が、麗糸刀を、要が、海竜之爪を発動し、死掩は、再び、距離をとる。

 だが、夏乃が、時限・時留めを発動して、死掩の時を一瞬だけ止める。

 その間に、柘榴、空巴が、死掩と間合いを詰めた。


『いくぞ!!柘榴!!』


「任せてよ!!真登、行くよ!!」


――了解っす!!


 柘榴と空巴が、連携を取り、真登異魔霧と天空海闊を生み出す。

 これには、さすがの死掩も傷を負い、とっさに、距離をとった。

 初めて、追い詰められた。

 そう感じているようだ。

 だが、死掩は、苛立ったそぶりを見せず、不敵な笑みを浮かべていた。


『ふふふ!実に、いい。人間は、弱いかと思っていたのだがな』


「なめてもらっては、困るね!!」


――おいら達の連携は、伊達じゃないっすよ!!


 死掩は、笑っている。

 人間は、弱く、もろい存在。

 そう思っていたのだが、間違いだったと気付かされたかのように。

 連携を取ったと言えど、神である自分を追い込むことになるとは思いもよらなかったのであろう。

 柘榴も、真登も、吼えるように、叫ぶ。

 強がってはいるものの、神に対して、恐れている事を悟られないようにするためだ。

 自分達は強い。

 神さえも、退けられる。

 そう自分に言い聞かせるかのように。


『そうみたいだな。ここまで、追い詰められたのは、初めてだ』


 死掩は、呟いた。

 追い詰められたことは一度もない。

 神同士の戦いでさえもだ。

 それほど、死掩は、強敵だったのだろう。


『だが、実にいい!本気を出すとしよう!』


 死掩は、力を解放する。

 どうやら、本気を出してきたようだ。

 この状況を喜び、楽しんでいるかのように思えてならない。

 柘榴達が、どこまで、自分の強さに、耐えられるか、試してみたくなったのだろう。


『気をつけろよ』


「わかってるって!」


 空巴は、柘榴達に忠告する。

 本気を出した時の死掩は、危険だと察しているのだろう。

 柘榴達も、状況を把握している。

 今の死掩は、先ほどまでとは、違うと。

 だが、逃げるつもりはない。

 ここで、死掩を倒さなければ、大戦に勝利できないのだから。

 空巴が、先陣を切り、死掩に向かっていく。

 柘榴達も、空巴の後を追い、死掩に向かっていった。

 しかし……。


『無駄だぁっ!!』


 死掩が、声を荒げ、鎌を振り回し、力任せに、地面に突き刺す。

 すると、大地が揺れ始め、ひびが割れ、爆発が起こった。

 空巴が、危機を察知し、柘榴達を止めたから、免れたものの、もし、あの爆発に巻き込まれていたら、ひとたまりもなかったであろう。

 これが、神の力なのだ。

 柘榴達は、それを思い知らされた。


「つ、強いでござるな」


「さすが、神ってとこか。倒すには、一苦労しそうだぜ」


「けど、時間はないですわよ!!」


 透馬、要は舌を巻き、焦燥に駆られている。

 想像を絶するほどの力を感じたからだ。

 冷や汗が出るほどに。

 だが、初瀬姫は、焦燥に駆られている。

 長期戦に持ち込むわけにもいかないからだ。


『安心するがいい。一瞬で、終わらせてやろう!!』


 死掩が、鎌を振り回し、構える。

 まるで、挑発するかのように。

 柘榴達も、構えるが、死掩の元へ向かうのを躊躇してしまった。

 あの爆発を見せられては、うかつには近づけない。

 それは、同じ神である空巴も同じだ。

 あの力は、死掩の力ではなく、創造主の力だと察していたからだ。


「この力……まずいみたいですね……」


「ったく、神ってやつは、厄介だねぇ……」


 連携をとれば、神を倒せるかもしれない。

 空巴も、いるのだからと、思っていた夏乃と和泉は、自分の考えが甘かったと思い知らされる。

 それほどの威力を目の当たりにしたからであろう。


『さあ、殺されたいのは、誰だ?』


 死掩は、鎌を肩に担ぎ、不敵な笑みを浮かべていた。

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