第百二十二話 VS幻帥

 泉那は、幻帥と死闘を繰り広げている。

 彼女は、水鏡を使って、鏡花水月で幻帥の攻撃を防ぎきり、さらには、明鏡止水を発動して、幻を生み出して、幻帥に攻撃を仕掛けるが、全て、回避されている。

 いや、当たってはいるはずなのだが、幻帥は、幻術を発動して、回避しているのだ。

 泉那でさえも、幻術を食い止める事は、容易ではない。

 ましてや、創造主の力を取り入れているのだから。

 幻帥は、錫杖を手にし、構えた。


『さて、どこまで耐えられるでしょうか?』


『くっ……』


 幻帥は、笑みを浮かべている。

 余裕があるかのようだ。

 対して、泉那は、劣勢を強いられている。

 今にも、押されてしまいそうだ。

 幻帥は、自分を殺しにかかっているだろう。

 だが、どうにかして、持ちこたえなければならない。

 いや、消滅だけは、避けたい。

 泉那は、歯を食いしばりながらも、構えるが、一瞬のうちに、幻帥は、間合いを詰めて、泉那に襲い掛かろうとする。

 その時であった。


「泉那!」


 朧の声が、空に響き渡った。

 そのおかげで、幻帥は、わずかに隙を生み出してしまう。

 泉那は、とっさに、離れ距離を置く。

 幻帥は、泉那に襲い掛かろうとするが、闇の力が自分の周りを覆っている事に気付く。

 闇の力をたどり、下を見下ろすと、朧が、千里を憑依化させ、自分の元へと飛びあがっていくのが見えた。


「おおおおおっ!!」


 朧が、雄たけびを上げながら、千里ノ破刀を発動する。

 闇の刃が、幻帥に襲い掛かるが、幻帥は、錫杖で切り裂く。

 それでも、朧は、幻帥に斬りかかるが、幻帥は、朧の刃をはじく。

 その隙をついて、泉那が、明鏡止水を発動し、幻帥は、それを回避するために、朧か距離をとった。


『ちっ、人間の分際で!』


「人間だけと思うなよ?」


 たかが、妖を憑依させた人間が現れただけで、追い詰められるとは思ってもみなかったようで、苛立ち、舌打ちをする幻帥。

 だが、空を飛べるのは、朧だけではない。

 それを証明するかのように、春日が、幻帥に向かっていきながら、空鳥乃羽を発動し、羽根の刃が、幻帥に向かっていく。

 幻帥は、錫杖を振りおろし、全て、羽根を消し去り、その間に、春日が、朧と泉那の元へたどり着いた。


『助かったわ』


 泉那は、朧達に感謝していた。

 だが、人間の手を借りなければ、幻帥を追い詰められない事が正直、悔しい。

 それほど、幻帥は、強敵なのだ。

 おそらく、まだ、本気を出していないだろう。

 だが、朧達が駆け付けに来た。

 少しでも、幻帥を追い詰められるはず、泉那は、そう、確信していた。


『このっ!』


 幻帥は、朧達に襲い掛かる。

 だが、突然、地上から空に向けて矢が放たれた。

 それも、風を纏って。

 幻帥は、それを避け、再び、朧達から距離をとる。

 これでは、朧達に近づけまい。

 誰が矢を放ったのかと、苛立ったように、見下ろす幻帥。

 朧達は、誰が援護してくれたのかを悟り、見下ろした。


「先生!」


「朧君、頑張ったね!」


「はい!」


 矢を放ったのは、景時だ。

 もちろん、天次もいる。

 景時は、朧の活躍を目にし、本当に、強くなったと感じているようだ。

 五年前とは、違う。

 朧は、今、神と戦うほどまで、強くなったのだ。

 そう思うと、主治医としては、心配になりつつも、うれしくも思っていた。


「来いよ!俺が、燃やしてやる!」


 九十九は、幻帥に向けて、人差し指を天に向けて、くいっと、第一関節を曲げる。

 神である幻帥を挑発しているようだ。

 何とも、九十九らしい。

 だが、それでいい。

 幻帥を地上で戦わせるためだ。

 九十九は、あえて、挑発してみせたのであろう。


『……いいでしょう。我が、消して差し上げます!』


 幻帥は、怒りを覚え、降下していく。

 狙いは、九十九だ。

 九十九を真っ先に殺そうとしているのであろう。

 神である自分を挑発したことを公開させるために。

 だが、九十九は、逃げる事もせず、構えている。

 真っ向から、幻帥に対抗するつもりであった。


「おらあっ!!」


 九十九は、九尾の炎を発動する。

 本気で、幻帥を焼き殺すつもりだ。

 だが、幻帥が、九尾の炎で、焼かれるわけもなく、錫杖で消し去ってしまう。

 その時だ。

 鎖鎌が、幻帥の腕に絡みついたのは。

 言うまでもなく、その鎖鎌は、葉碌だ。

 時雨が、三つ目男に変化し、身体能力を上げ、幻帥を捕らえたのだ。


「もらったぜ!」


『私を捕らえようとは!』


 幻帥は、これでとらえられるはずがない。

 強引に、葉碌から、逃れ、真っ先に九十九と時雨へと襲い掛かる。

 朧達は、すぐさま、九十九の前に出てかばおうとする。

 しかし……。


「下がって!」


 綾姫の声がして、朧達は、後ろへ下がる。

 すると、朧達の前に、結界が張られた。

 綾姫が、結界・水錬の舞を発動したからだ。

 だが、それすらも破壊してしまう幻帥。

 やはり、神の前では、結界すらも、無意味なのだろうか。

 幻帥は、今度は、綾姫に襲い掛かろうとする。

 綾姫の聖印能力を見抜いたからであろう。

 泉那は、綾姫の前に立ち、守ろうとするが、幻帥の錫杖が、泉那を捕らえようとしていた。


「来い、九十九!」


 朧は、憑依化を解除し、千里を神刀に変える。

 そして、九十九の名を呼び、九十九を憑依させ、すぐさま、餡枇を鞘から引き抜き、九尾ノ炎刀を発動した。

 炎の刃が、幻帥を襲う。

 だが、それだけではない。

 景時、春日、時雨、そして、泉那が続けて、幻帥へと攻撃を仕掛ける。

 幻帥は、錫杖で、全ての攻撃を無効化し、朧達から距離をとった。


『本気で、殺そうとしているようですね。いいでしょう!』


 幻帥は、悟ったようだ。

 朧達は、本気で、自分を殺しにかかっていると。

 ゆえに、連携を取り、容赦なく、攻撃を仕掛ける。

 相手は、神だ。

 連携をとらなければ、立ち向かうことすらできないのであろう。

 幻帥も、少しばかりではあるが、追い詰められたのは初めてだ。


『やれるものなら、やってみなさい!』


 幻帥は、力を発動する。

 だが、本領を発揮しているわけではない。

 神が、人間を殺すことなどたやすいと思っているのであろう。

 本気を出さずとも。


『皆、気をつけて!』


「うん!」


 泉那は、朧達に警戒するよう忠告する。

 幻帥の力を感じ取ったのだろう。

 何を仕掛けてくるかは、泉那さえも、わからない。

 ゆえに、朧達も、幻帥を警戒し、構えた。


――朧、奴は、幻を操る神だ。何か仕掛けてくるぞ!


「わかった」


 千里も、警戒し始める。

 幻帥の異様な力を感じ取ったからであろう。

 もちろん、朧も、感じ取っている。

 警戒しなければならないと。

 だが、その時であった。

 幻帥は、一瞬にして、泉那に襲い掛かり、泉那は、吹き飛ばされ、打ち上げられてしまった。


『っ!』


「泉那!」


 一瞬の出来事であった。

 目にもとまらぬ速さで、幻帥は、泉那を吹き飛ばしてしまったのだ。

 泉那は、からくも、体勢を整える。

 だが、幻帥は、すぐさま、間合いを詰め、泉那に襲い掛かろうとした。

 まずは、泉那を、泉の神を殺そうとしているのだろう。

 そうすれば、朧達の戦力を一気に削ることになる。

 それに、朧達の攻撃など、かき消せる。

 ゆえに、幻帥は、泉那を消滅させようとしていたのだ。


――朧!


「うん!」


 朧は、千里を握りしめ、千里ノ破刀を発動した。

 その闇の刃は、幻帥を切り裂こうとするが、幻帥は、それでも、振り向くことなく、泉那に襲い掛かろうとしている。

 攻撃を受けたとしても、神のとっては、かすり傷にもならない。

 そう、考えているのであろう。

 だが、それは、幻帥にとって、大きな誤算だ。

 なぜなら、闇の刃は、ただ、切り裂くだけではない。

 刃をその身に受けたものは、神であっても、闇で覆い尽くしてしまうのだから。

 今までは、できなかった朧であったが、千里と波長を合わせた事で、できたのであった。


『闇!?龍神王力か!?』


 闇に覆われた幻帥は、戸惑う。

 その闇は、ただの闇ではない。

 龍神の力が宿っているのだ。

 まさか、千里が、龍神王の力を発動できるとは思ってもみなかったのであろう。

 幻帥は、その闇を錫杖で振り払い、消し去った。

 しかし……。

 

「まだまだだ!!」


『ちっ!』


 朧は、今度は、餡枇から、九尾ノ炎刀を発動する。

 わずかに生まれた隙を逃さぬように。

 幻帥は、苛立ちながらも、一瞬にして、泉那と距離をとる。

 人間ごときに、ほんろうされることが許せないのであろう。

 朧をにらみつける幻帥。

 しかし、彼の背後に春日が待ち受けていた。


「待っておったぞ?」


 春日が、容赦なく、空鳥乃羽を発動する。

 幻帥は、それを、錫杖でかき消し、今度は、春日に襲い掛かった。

 しかし……。


「ほらほら、こっちもいるよ?」


「飛べなくても、やれることはあるんだからね!!」


「ぶった切るぜ!」


 綾姫が、水札を放ち、、景時が、風矢を発動し、幻帥へ攻撃を仕掛ける。

 幻帥が回避した所を、時雨が木葉乱舞を発動して、葉を刃と化して、幻帥に攻撃を仕掛けた。

 幻帥は、力を発揮し、葉の刃をかき消してしまう。

 朧、春日、泉那が、すぐさま、地上に降り立ち、構えた。

 幻帥を見上げながら。


『そうですか。あなた方をなめていました』


 手加減だけでは、朧達を殺すことはできない。

 たかが、人間ごときに後れをとるはずがないと思っていたのだが、そうではないようだ。

 幻帥は、そう察していた。


『いいでしょう。我の力で、魂を消滅して差し上げましょう!』


 ついに、幻帥が、本気を見せ始めた。

 その力は、まさに、神の力だ。

 朧達は、その神の力に押しつぶされそうになる。

 幻帥は、不敵な笑みを浮かべて、朧達を見下ろしていた。


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