第百十四話 作戦の真相

「そ、そんな……」


 黄泉の乙女から、作戦の真実について聞かされた夜深は、愕然としている。

 信じられないのだろう。

 自分達は、利用されていた。

 しかも、柚月達に。

 これほど、屈辱を感じたのは、初めてだ。

 静居も夜深も、憤りを感じていた。


「信じられないだろうね。でも、これは、本当の話だよ」


 黄泉の乙女を信じられない静居と夜深に対して、黄泉の乙女は、真実だと告げる。

 静居も、夜深も、形相の顔で、黄泉の乙女をにらんでいる。 

 相当、怒りを露わにしているようだ。

 憎悪を宿していると言っても過言ではない。


「朧達には、光焔が神の光を制御できるようになれば、神々を復活させられると伝え、神聖山に向かわせ、準備ができたら、合図を送るよう告げていたんだよ。まぁ、そう簡単には、うまく、制御できるとは思っていなかったみたいだし、真実を聞かされていないから、朧達は、驚いていたけどね」


 静居達に憎まれても、黄泉の乙女は、話を続ける。

 まだ、語られていない真実があるようだ。

 柚月は、朧達に、光焔が神の光を制御すれば、神々が、復活できると告げていた。

 だが、朧達は、半信半疑だったようだ。

 なぜなら、光焔がどのように神の光を制御するかは、知らされていない。

 すぐに制御できるものではないと予想していたようだ。

 ゆえに、柚月の作戦は、突飛だと感じていたらしい。

 それでも、朧達は、柚月の作戦は、成功すると信じた。

 いや、不思議と信じられたといった方が正しいのかもしれない。

 光焔が、自信に満ちた表情をしていたからなのだろう。


「けど、妖にさせられた時、光焔も、元に戻れないって思ったみたいだから、柚月達に殺してもらうしかないって、あきらめたみたいだけど。だから、私も焦ったよ」


 だが、光焔や黄泉の乙女にとって、予想外の事が起こった。

 それは、光焔が、元に戻れないと察したからだ。

 強い妖気を押し込まれたため、光焔は、神の光を制御する事もできず、あきらめてしまった。

 ゆえに、もう、柚月達に殺してもらうしかないと判断したようだ。

 柚月達を殺してしまう前に。

 実際、黄泉の乙女も、焦燥に駆られていた。

 このままでは、柚月達も、光焔も、命が危うくなってしまうのではないかと。


「でも、あの子達は、あきらめなかった。だから、私も、助けたんだ。光焔を」


 柚月達は、光焔を救うことをあきらめていなかった。

 柚月達が、光焔に語りかけ、光焔は、希望を取り戻し、本心を告げたのだ。

 だからこそ、黄泉の乙女も、柚月の体を借りて、姿を現し、光焔を助けようと決意したのだ。

 まだ、あきらめてはいけないと。


「そして、光焔は、神の光を制御できるようになった。そのおかげで、神々は、復活できたよ。ありがとう、静居」


「貴様!!」


 黄泉の乙女が、光焔に、神の光の制御の仕方を告げた。

 これも、作戦のうちだ。

 もし、静居が、光焔をさらう前に、制御の仕方を教えてしまっては、静居に妨害されてしまうだろう。

 だが、光焔が妖になって戻ってきたのであれば、静居も、油断し、妨害は不可能となりうる。

 危険な賭けではあったが、柚月達は、賭けに勝ったのだ。

 静居達の企みを利用して。

 黄泉の乙女は、静居に感謝の言葉を告げた。

 しかも、挑発して。

 静居は、怒りを爆発させ、刀を鞘から抜き、黄泉の乙女に斬りかかった。

 だが、黄泉の乙女は、幻術でできている。

 ゆえに、斬られても、消滅はしない。

 静居も、その事はわかっていたが、それを忘れてしまうほど、怒りが頂点に達していたのだろう。


「空巴達を封印なさい!今すぐに!」


「無駄だよ、夜深。空巴達は、光焔から加護を受け取ったから」


「何ですって!?」


 夜深は、焦燥に駆られ、死掩達に、空巴達を封印するように命ずる。

 だが、黄泉の乙女は、冷静に、夜深に告げる。

 空巴達を封印することは、もう、不可能なのだと。

 なぜなら、光焔が、空巴達を復活させるために、神の光を送っただけではない。

 加護まで、送っていたのだ。

 これも、夢の中で黄泉の乙女が、光焔に告げた。

 神の光と加護を空巴達に送るようにと。

 夜深は、目を見開き、声を荒げて、動揺する。

 もはや、用意周到すぎると言っても過言ではないだろう。


「光焔の加護で、空巴達はは、守られている。もう、封印されることもないってことさ!」


「う、嘘でしょ……」


 その加護の力により、空巴達は、守られ、死掩達に封印されることはなくなったのだ。

 夜深は、愕然とし、膝をつく。

 死掩達は、黄泉の乙女の話を信じられないようで、空巴達を封印しようと試みる。

 だが、何度やっても、空巴達は封印できない。

 空巴達との距離が遠い事もある。

 死掩達は、冷静さを失ってしまったようだ。

 それほど、追い詰められたのだろう。

 そして、悟ってしまったのだ。

 本当に、空巴達は封印できなくなったのだと。


『主……』


 死掩達は、夜深へと視線を移し、夜深は、死掩達と目を合わせる。

 もはや、彼女は、藁にも縋る思いで、死掩達を見ていたのだ。

 黄泉の乙女の話は、嘘だと証明してほしいと。

 だが、死掩達は、戸惑いながら、首を横に振った。

 これで、黄泉の乙女の話は、真実だと思い知らされたのだ。

 夜深は、力が抜けてしまったようで、座り込んだ。


「おのれ……」


 静居は、体を震わせる。

 憤りを感じているのだろう。

 どこまでも、自分達を侮辱すれば済むのかと。

 だが、黄泉の乙女は、冷静な表情で静居を見ていた。


「静居、もう、あきらめるんだ。お前の願いは、叶わない。叶えられるはずがない」


「黙れっ!!」


 黄泉の乙女は、静居の野望を否定する。

 叶えられるはずがないと思っているのだろう。

 静居は、感情任せに、再び、黄泉の乙女を斬りつける。

 何度も、何度も。

 だが、幻である彼女を斬るつける事はできなかった。

 静居は、刀を畳に突き刺し、荒い息を繰り返した。


「もう、気付いているともうけど、私を殺す事は、できないよ。私は、もう、消滅してしまっているのだから」


「貴様……」


 黄泉の乙女は、憐みの表情を浮かべて、静居に語りかける。

 黄泉の乙女を殺す事はできないのだ。

 もう、黄泉の乙女は消滅してしまっているのだから。

 静居は、体を震わせ、黄泉の乙女をにらみつける。

 殺すこともできない。

 黙らせることもできない。

 ゆえに、怒りが増幅しているのだろう。

 それほど、黄泉の乙女を憎んでいるようだ。


「静居、あの子は、強いよ。静居が、思っている以上にね。あの子は、これからも、強くなる。お前を超えるはずだ」


「黙れぇえええええっ!!!」


 黄泉の乙女は、静居に告げる。

 黄泉の乙女が言う「あの子」と言うのは、柚月の事なのだろう。

 柚月と会話を交わし、戦いを見て、黄泉の乙女は、感じたのだ。

 柚月は、聖印一族の中で、最強になると。

 静居を超えて。

 静居は、再び、怒りを爆発させ、黄泉の乙女に斬りかかった。

 すると、黄泉の乙女は、突如、消え去ってしまったのだ。

 だが、消滅したのではない。

 黄泉の乙女が、自らの意思で、姿を消したのだ。

 静居は、歯を食いしばり、息を荒げていた。

 まるで、猛獣のように。


「静居……」


 夜深は、静居を心配そうに見ている。

 こんな静居を見たのは、初めてだ。

 今まで、見たことない。

 つまり、ここまで、静居が、追い詰められたのは、初めてなのだ。


「おのれ、黄泉の乙女……あいつは、まだ、私の邪魔をしようと言うのか……なぜ……」


 どうやら、黄泉の乙女は、幾度となく、静居の邪魔をしてきたようだ。

 夜深も、静居と黄泉の乙女の関係性を知っている。

 ゆえに、彼女も黄泉の乙女に対して、憎悪を抱いていた。

 静居は、黄泉の乙女に対して、憎悪を抱いているが、その表情は、悲しみを含んでいるようにも見える。

 しかし……。


「ふふふ……あははははははははっ!!!」


 静居は、高笑いをし始めた。

 その表情は、狂気へと変わった。

 まるで、狂ったかのようだ。


「上等だ!!こうなれば、あ奴らを殺してやる!!今度こそ、魂を消滅させようではないか!!」


 静居は、宣言する。

 黄泉の乙女を絶望の底に落とすために、柚月達を殺すと。

 いや、魂までも、消滅させようとしているようだ。

 もう、抗うすべも、残さない。

 徹底的に、つぶそうと決意したようだ。

 自分が、神となるために。


「そうすれば、あいつも、認めるであろう。私は、神になる男だと!!」


 よほど、悔しかったのだろう。

 黄泉の乙女が、柚月は、静居を超えると伝えた事を。

 柚月を殺せば、黄泉の乙女は、自分を認めると考えているようだ。

 聖印一族の頂点に立ち、そして、自分は神だと。


「そうね。私もそう思うわ。二人で、殺してあげましょう。あの子の大切な人達を」


「そうだな。夜深」


 夜深も、静居を見て、微笑む。

 いつもの彼女に戻ったかのように。

 確信を得ているのだろう。

 静居は、柚月達を殺すと。

 そして、必ず、神となると。

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