第九十七話 特殊な力

――まだ、策はある!あるはずなんだ……。何とか、食い止められるはずだ……。


 柚月は、九十九達と死闘を繰り広げながら、彼らを救う方法を模索する。

 体力も次第に削られてしまっている。

 朧も重傷を負った。

 もはや、時間はない。

 だが、方法は見つからず、柚月は、焦燥に駆られながらも、九十九達を死闘を続けた。


「柚月、朧……」


 光焔は、華麗に宙を舞いうように、九十九達と戦いを繰り広げ、柚月達を援護するが、柚月達の身を案じる。

 自身の力を持ってしても、彼らの破壊衝動を抑え込むことはできなかったのだ。

 救う手立ては本当にあるのだろうか。

 そう思うと、光焔は、不安に駆られてしまった。 

 その時だ。


「ぐっ!」


「柚月!」


 柚月が、千里に、腕を斬られる。

 すでに、柚月も、限界を超えている。

 このままでは、全滅もありうる。

 だが、九十九達は、容赦なく、柚月に向けて、刀を振りおろそうとしてした。


「待つのだ!」


「光焔!待て!」


 光焔は、柚月の前に立ち、両手を広げる。

 彼を守るために。

 柚月は、光焔を強引に引き下がらせようとするが、光焔は、頑なに引き下がろうとしない。

 それでも、九十九達は、光焔に向けて刀を振りおろし始めた。


「止まれ!止まれなのだ!」


 光焔は、涙ながらに訴える。

 九十九達に正気に戻ってほしくて。

 だが、光焔の声は、九十九達には、届かなかった。

 九十九達は、容赦なく、光焔を殺そうとした。


「止まれなのだああああああっ!!!」


 光焔は、泣き叫ぶ。

 だが、その時だ。

 光焔が、まばゆい光を放ち始めたのは。

 その光は、瞬く間に、九十九達を包みこんだ。


「っ!」


「光焔!!」


 九十九達は、ひるみ始め、柚月は、光焔の前に出ようとする。

 だが、光が眩しすぎて、柚月は、思わず目を閉じてしまう。

 それでも、九十九達の様子を見ようと、柚月は、ゆっくりと目を開けると、予想外の光景を目の当たりにした。

 なんと、九十九達が、もがき苦しんでいるのだ。

 まるで、破壊衝動と戦っているかのように。


「効いてる?」


「これって、あの時のと同じ?」


 瑠璃と綾姫は、今、放たれた光が、妖達が、光城を襲撃した時に放たれた光と同じである事に気付く。

 今度は、九十九達を助けようとしているのだろう。

 破壊衝動だけを消し去ろうとしているかのようだ。

 効果はあるらしく、九十九達は、体を震わせ、もがいていた。


「もう少しでござるよ!」


「頑張れ!光焔!」


 要も、透馬も、光焔が助けてくれると信じているようだ。

 それほどの力を持ち、効果を発揮しているのだろう。

 初めてその光を見た柚月は、そう思えてならなかった。

 しかし……。


「ぐううっ!」


 光焔は、うめき声をあげ、目をきつく閉じる。

 相当、無理をしているようだ。

 当然かもしれない。

 光焔は、今まで、柚月達と戦ってきたのだ。

 体力も、削られている。

 光焔の体も限界が近いのだろう。


――まずい。このままでは、光焔も、朧と同じようになってしまう!!


 もし、光焔が、力を使いづつければ、朧と同じように、倒れてしまうだろう。

 力の酷使は、体に負担をかけてしまう。

 柚月は、焦燥に駆られるが、自分の力では、どうすることもできない。

 同じ、光を操るものと言えど、柚月の光は、刃と化してしまう。

 ゆえに、九十九を傷つけるだけであった。


――何か、俺にできることはないのか!


 柚月は、歯を食いしばり、こぶしを握りしめる。

 何かできることはないかと、模索しながら。

 だが、もう、猶予は残されていない。

 光焔が、倒れたら、もう、方法は残されていないのだ。

 ゆえに、全滅は免れないだろう。

 焦燥に駆られる柚月。

 だが、その時であった。


――柚月、聞こえるかい?


――その声は、黄泉の乙女?なぜ……。


 突如、柚月の頭の中で声が響く。

 とても、優しく、力強い声が。 

 その声は、間違いなく、黄泉の乙女だ。

 だが、黄泉の乙女は、柚月を助ける為に、力をすべて使い果たし、消滅してしまっている。

 ゆえに、彼女の声が聞こえる事は、あり得ないのだ。

 これは、幻聴なのか。 

 それとも、何か理由があるのか。

 柚月は、困惑するばかりであった。


――話はあとだよ。いいかい、柚月、一度しか言わないから聞くんだ。光焔も、九十九達も助ける方法はある。


――どうすればいい?


 黄泉の乙女は、自身の声がなぜ聞こえるのかは、後回しにして、九十九達を救う方法があると柚月に告げる。

 理由を語りたいところではあったが、今は、そのような時間はない。

 柚月は、藁にも縋る思いで、黄泉の乙女に、尋ねた。

 もはや、黄泉の乙女に頼るしかなかったのだ。


――私が、君の力を。君の中に眠る特殊な力を光焔に送るんだ。


――特殊な力?聖印ではないのか?


 黄泉の乙女は柚月に、方法を教える。

 だが、それを聞いた柚月は、違和感を覚えた。

 黄泉の乙女は、「聖印の力」ではなく、「特殊な力」を送るよう告げたのだ。

 と言う事は、聖印を光焔に送るのではないのかと、柚月は、悟り、黄泉の乙女に尋ねた。


――違うよ。聖印では、彼らは、抑え込めない。聖印と妖気は、似て異なる力だから。だが、特殊な力は、神の力の一部とも言われている。だから……。


――その力で、九十九達を救える。そう言いたいんだな?


――そうだよ。


 黄泉の乙女は、説明する。

 聖印と妖気は、似て異なる力、つまり、紙一重と言ったところなのだろう。

 今の九十九達に聖印を送れば、それは、九十九達にとっては、毒でしかない。

 普段であれば、取り込むこともできるだろうが、今は、凶暴化している。

 抑え込むどころか、破壊衝動に完全に飲まれてしまう可能性があるだろう。

 ゆえに、消滅してしまう可能性がある。

 だが、柚月は、聖印とは別に、特殊な力をその身に宿しているようだ。

 その力を光焔に、送り込み、光焔がその力を光と共に発動すれば、九十九達は、救えるらしい。


――けど、力を送る事は、体に負荷がかかる。本当は、させたくなかったのだけれど……。


――いい、覚悟の上だ。


 だが、黄泉の乙女は、ためらっているようだ。

 それは、柚月に負担をかけてしまう事を恐れているためだ。

 だが、九十九達を救う方法は、それしかないのだろう。

 ゆえに、彼女は、柚月に告げたのだ。

 柚月も、心情や状況を把握しているため、覚悟を決めている。

 命がけで、九十九達を助けると誓って。


――わかった。私の力で君の力を光焔に送り込もう。君は、目を閉じ、集中すればいい。私と力の波長を合わせれば、必ず、やれる。心配はいらないよ。


 黄泉の乙女は、説明を続ける。

 柚月と黄泉の乙女が、力の波長を合わせる事により、光焔に力を送り込めるらしい。

 黄泉の乙女は、柚月ならやれると信じているようで言い切る。

 まるで、彼の背中を押すかのように。


――わかった。頼んでいいか?


――もちろんだよ。


 柚月は、黄泉の乙女に託し、手を前に出す。

 光焔を救うために。


「柚月?何を?」


 朧の治療に取り掛かっていた綾姫は、目を見開いて、困惑する。

 柚月は、何をしようとしているのか、理解できないからだ。

 いや、朧のように無茶をするのではないかと不安に駆られてしまう。

 止めに行きたいが、今は、朧の治療に取り掛かっているため、柚月の様子をうかがう事しかできなかった。


――行くぞ!


 柚月が、目を閉じ、集中し始める。 

 すると、柚月の体から、光が放たれた。

 黄泉の乙女が、柚月の力と同調し始めたのだろう。

 光は、次第に大きくなり始めた。


「柚月から光が!?」


「聖印能力なの?」


「いや、あれは、違う……。まるで……神の力のようだ……」


 綾姫と瑠璃は、柚月が、聖印能力を発動したのではないかと推測する。

 だが、高清は、聖印ではないと見抜いていたようだ。

 まるで、神の力を発動しているようだ。

 その光は、まっすぐに伸び始め、光焔へと届いた。


――力を感じる。懐かしいような、違うような……。


 光焔は、自分へと力が送られてきたのを感じ取った。

 だが、彼は、その力に対して、複雑な感情を抱いているようだ。

 懐かしくも思えるし、そうではないと思える。

 一体、誰が送っているのか。

 光焔は、視線をゆっくりと変えると柚月が、光焔に力を送っているのが、見えた。


――柚月!?柚月が、わらわに力を?


 光焔は、柚月が自分に力を送ってくれていることに気付いた。

 光は、輝きを増している。

 光焔の力と同化しているのだろう。


――これなら、できる!九十九達を助けられる気がするのだ!!


 なぜ、自分の力と柚月の力が、同化しているのかは、不明だ。 

 なぜ、柚月が、聖印ではなく、別の力をその身に宿しているのかも。

 だが、これだけは、わかる。

 今なら、九十九達を助けられると。

 力は、前を見据え、力を込めた。


「やるのだああああああっ!!!」


 光焔は、心の底から、叫ぶ。

 九十九達を助ける為に。

 そのまばゆい光は、九十九達を包みこみ、ついに、九十九達は、意識を失い倒れた。

 九十九達の破壊衝動を抑える事に成功したようだ。


「やった。やったのだ……」


「ああ」


 柚月も、光焔を肩で息をしている。

 それほど、力を使い、体力を削ったのだろう。

 だが、結果は、得られた。

 ならば、成功したと言っても過言ではないだろう。


「柚月、ありがとうなのだ!」


 光焔は、笑みを浮かべ、お礼を言う。

 だが、その時だ。

 柚月は、意識がぼやけ、倒れそうになったのは。


「柚月!?」

 

 柚月が、倒れそうになるのを目にした綾姫達は、驚愕する。

 柚月は、意識を手放しかけるが、意識を手放すまいと、力を振り絞り、片膝をつき、うずくまっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る