第七十九話 神刀と神懸り
「いかにも。名は、
静居は語る。
自身が手にしている刀こそ、神刀であるというだ。
神刀は、神から作られし刀。
千里のように、龍神王の力を宿している為、神刀になれた妖は、いないため、珍しいと言っても、過言ではない。
柚月が持つ草薙の剣も、光の神が、作ったという説がある。
そして、静居が持つ深淵も。
静居は、神刀の技を発動したというのだ。
技の名は、
一瞬にして、傷を癒す技だ。
「その力……まさか、あの地獄にあった神刀か!?」
「その通りだ。貴様のおかげで、これを取り戻した。ご苦労だったな、千里よ」
「ちっ!」
千里は、ある事に気付く。
深淵は、かつて、地獄に封印されていたあの神刀である事に。
それを、自分が、手にし、静居の元へ渡してしまったのだ。
静居は、笑みを浮かべ、千里に告げる。
彼のおかげで、神刀を取り戻せたと。
千里は、舌打ちをし、こぶしを握りしめた。
自分の非道な行いが、柚月達を苦しめる結果となってしまった事を後悔しながら。
「さて、そろそろ、教えてやろうか。私の聖印能力を」
静居は、柚月達に告げる。
聖印能力を発動しようとしているようだ。
だが、発動してはならないと察知した柚月達は、静居の元へ向かっていく。
聖印能力の発動を止めるために。
柚月は、異能・光刀を発動し、一瞬にして静居の元へたどり着こうとした。
「来い。夜深」
『ええ、仰せのままに』
静居は、柚月が到達する目前で、聖印能力を発動してしまう。
すると、柚月は、吹き飛ばされ、体勢を整えて、立ち上がる。
しかし、間に合わなかった。
静居は、聖印能力を発動してしまったのだ。
息を飲む柚月達。
彼らは、まだ、知らない。
皇城家の聖印能力が、どのようなものなのかを。
すると、静居は、夜深を憑依させた。
妖ではなく、神である彼女を。
すると、静居は、見る見るうちに姿を変化させた。
「な、なんだ……」
「何が起こって」
柚月達は、愕然としている。
なぜなら、静居の姿は、異質だったからだ。
漆黒の長い髪に、漆黒の瞳。
漆黒の衣服を身に纏っている。
まるで、黄泉の神のように。
そして、発せられる力は、神の力だ。
静居は、本当に、神になったとでもいうのであろうか。
「これが、私の、皇城家の聖印能力だ!」
静居は、柚月達に明かす。
この姿こそが、皇城家の聖印能力の力なのだと。
「う、嘘だろ……」
「神を憑依させた?」
「そうだ。これが、皇城家の聖印能力・神懸りだ。妖共の憑依と一緒にするなよ?」
柚月も朧も、呆然と立ち尽くしている。
静居は、聖印能力・
静居の言う通り、皇城家の聖印能力・神懸りは、朧が発動する憑依とは、比べ物にならないほどの力だ。
なにせ、神を宿らせているのだ。
いくら、力があると言えど可能なわけがない。
だが、静居は、その神懸りを発動させた。
ゆえに、彼の力は、驚異的と言えよう。
「あ、ありえねぇ……」
「まずいぞ……」
九十九も、千里も、たじろいでしまう。
夜深を神懸りさせた静居を目の前にして、立っていられるのが、やっとなのだ。
だが、柚月と朧は、あきらめていない。
あきらめられないのだ。
柘榴達も、戦いを繰り広げている。
自分達が、逃げるわけにはいかない。
体を震わせながらも、柚月は、異能・光刀を発動し、朧は、千里を神刀に変え、九十九を憑依させた。
しかし、静居は、一瞬にして、朧の前に立つ。
朧は、驚愕し、反応しようとするが、静居が、襲い掛かった。
「まずは、一人目」
静居は、朧に襲い掛かる。
だが、朧は、とっさに憑依化を解除させた。
九十九を守るために。
九十九は、朧に押しだされ、体勢を整えて、地面に着地する。
静居は、衝撃波を放った。
「があああっ!」
「朧!」
衝撃波の直撃を受けた朧は、吹き飛ばされ、地面にたたきつけられる。
九十九は、朧の元へと駆け付けた。
朧は、荒い息を繰り返し、きつく目を閉じていた。
「何で、俺を……」
九十九は、愕然とする。
朧は、自分を守ったのだ。
九十九は、全身を震わせていた。
恐怖ではなく、怒りで。
「この野郎!」
「待て、九十九……」
九十九は、感情に任せて九尾の炎を発動する。
朧が、手を震わせて、制止しようとしたが、間に合わなかった。
その炎は、静居を焼き殺そうするが、静居は、その炎を吸い取ってしまった。
それは、静居が、夜深を神懸りさせることで可能となった技・夜深の恐怖だ。
相手の技を吸収し、自分の力に変えてしまう恐ろしい技である。
衝撃を受け、驚愕する九十九。
静居は、その隙を逃さず、九尾の炎を九十九に向けて発動した。
「ぐあああああっ!!!」
九十九は、とっさに、朧を守るために、前に出て九尾の炎を発動する。
だが、その九尾の炎は、静居が、発動した九尾の炎にかき消され、九十九は、焼き尽くされた。
全身に重度のやけどを負い、九十九は、地面にたたきつけられ、気を失った。
「九十九!」
「さて、次は……」
九十九が、倒れ、静居が、襲い掛かったのは、千里だ。
それも、一瞬のうちに、彼の前に姿を現す。
光刀を身に纏った柚月でさえも、反応できないほどに。
まさに、神のごとき行為であった。
「やめろ!!」
柚月は、光速移動をし始め、千里を守るとする。
だが、彼が、到達する前に、静居は、一瞬のうちに、何度も千里を切り刻んだ。
技の名は、夜深の怒り。
無の力で光速移動し、相手を何度も斬りつける技であった。
「がはっ!!!」
「千里……」
体中を切り刻まれた千里は、血を吐き、倒れ、意識を失う。
一瞬のうちに、静居は、九十九と千里を倒したのだ。
恐ろしい力だ。
柚月は、愕然とし、体を震わせていた。
朧は、ようやく、動けるようになるが、重傷を負ったも同然だ。
立ち上がるが、体がふらついてしまう。
それほどの力をその身に受けてしまったのだ。
柚月は、朧を守るように、光速移動し、朧の前に立った。
「さて、これで、邪魔者はいなくなった」
「なんだと?」
「私は、お前達、二人をこの手で滅ぼしてやりたいのだ。絶望するがいい」
静居は、柚月達の前に立つ。
まるで、柚月達を殺そうとしているようだ。
殺気は、微塵も感じない。
だが、わかる。
静居の力が、押し寄せてくるのが。
柚月と朧は、構える。
たとえ、力の差が歴然であっても、静居に、抗おうとしているのだ。
「まだ、抗うか。よかろう。お前達は、魂ごと、刻んでやろう。私と夜深の力を!」
静居は、刀を振り下ろす。
だが、柚月は、草薙の剣で、刀を受け止めた。
静居は、柚月を斬りつけようと、力を込める。
柚月も、必死に食らいつくように、力を込め、静居の刃を防ごうとしていた。
「兄さん!」
「朧!九十九達を連れて逃げろ!」
「駄目だ、そんな事できるわけないだろ!」
柚月は、朧に九十九と千里を連れて逃げろと説得する。
一人で戦うつもりだ。
実際、朧は、重傷を負っているも同然。
その身で、静居と対峙するのは、無謀だ。
ゆえに、柚月は、朧を逃げさせよとしたのだ。
だが、朧が、納得するはずがなかった。
その時であった。
「無駄だ!!」
静居は、無の力を発動してしまう。
柚月も、朧も、その無の力に飲みこまれてしまった。
その技は、夜深の悲しみ。
無の力で、相手の魂を攻撃する技だ。
「あああああああああっ!!!」
無の力に飲みこまれた二人は、絶叫を上げ、地面にたたきつけられ、意識を失ってしまう。
肉体だけでなく、魂までも、傷つけられてしまった。
「終わったな」
静居は、不敵な笑みを浮かべる。
夜深も同様に。
彼らは、勝利したと確信を得たのであろう。
意識を失った柚月達を眺め、静かに、笑い始めていた。
柘榴達も、千草、村正と死闘を繰り広げていた。
だが、千草の力は、圧倒的であり、柘榴以外の仲間が、次々と倒れ、気を失ってしまった。
柘榴に憑依していた真登でさえも。
柘榴は、傷を負い、呼吸を繰り返す。
全身傷だらけであり、息をするのも精一杯であった。
千草は、とげとげしく、まがまがしい妖刀を手にし、柘榴を見下ろしていた。
「がはっ……」
ついに、柘榴は、耐え切れなくなり、血を吐いて倒れてしまう。
柚月達だけでなく、柘榴達までもが、敗北した瞬間であった。
――ふふ、あはははっ!!
突然、妖刀から笑い声が聞こえる。
それも、村正の声が。
すると、妖刀が光り始め、見る見るうちに、村正に戻っていった。
なんと、彼は、妖刀・村正に変化していたのだ。
千草の聖印能力により。
「ボク達の勝ちだね!千草」
「カッタ……カッタゾ!!」
村正は、意識を失った柘榴の元へ駆け寄り、嬉しそうに、千草に告げる。
千草も、喜びを分かち合うかのように、不気味な笑みを浮かべていた。
死掩達と死闘を繰り広げていた空巴達は、柚月達の意識が途切れた事をに気付いた。
『柚月達が……』
空巴達は、愕然としていた。
もはや、勝ち目はないと悟って。
空巴達も追い詰められていたのだ。
だが、勝利へ導くために、食らいついていたのだが、柚月達が、意識を失ったと気付き、絶望に陥っていた。
『なら、我らも、動くとしましょう』
静居が、勝利したと確信を得た死掩達は、術を発動し始める。
その術は、結晶となり、空巴達を覆い尽くした。
『なっ!』
『さらばですよ』
空巴達は、驚愕し、動揺してしまう。
この術は、空巴達を封印する術だったのだ。
この術から、逃れる術はない。
たとえ、神でさえも……。
『しまっ……』
空巴達は、抵抗しようとするが、一瞬のうちに、結晶に閉じ込められ、意識を失ってしまった。
そして、その結晶は、小さくなり、死掩達の手にわたってしまった。
『封印完了です』
空巴達も、完全に封印されてしまった。
ここで、撫子軍の敗北が決定した。
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