第五章 深淵で生きる者

第五十七話 集められた情報

 九十九と千里が、復活を遂げてから、一週間が過ぎた。

 柚月達は、光の神がどこに封印されているかを調べ、撫子達と連携を取り、平皇京の状態と静居の様子などの情報交換をしている。

 静居と夜深の動向を探るため、光城を離れた空巴達は、以前戻ってくる様子はない。

 それほど、情報を得ることは、困難を極めるという事だ。

 柚月達は、大広間に集まり、会議を始めた。


「まだ、光の神がどこで眠っているかは、わからないわね」


「ああ。早く、見つけ出さないといけないんだが……」


 まず初めに、話に上がったのは、光の神についてだ。

 柚月達も、資料を読み漁っているが、それらしき、手掛かりは得られていない。

 後、もう少しだというのに。

 柚月は、焦燥に駆られた様子で綾姫に話していた。


「仕方がない。光の神については、文献が少なすぎる」


「鬼の一族も、探していましたが、見つける事はできませんでしたからね」


 景時、そして、柘榴が持ち運んだ資料から調べているのだが、光の神ついての文献はあまりない。

 いや、おそらくだが、どこの街へ行っても、光の神についての資料は、ないといっても過言ではないだろう。

 美鬼も、過去に、光の神について、調べていたようだが、鬼の一族でさえも、光の神についての情報を得るのに、困難を極めたようだ。

 となれば、時間がかかるのは仕方がないのであろう。

 瑠璃と美鬼は、あまり、焦らぬようにと柚月を諭し、柚月はうなずいた。


「それで、平皇京はどうなっているか、調べられたか?」


「はい。今の所は、攻め入られてはいないようです」


「平皇京には、撫子殿が発動した鉄壁の術があるでござる。まぁ、隊士達は、逃してしまったようでござるが」


 続いて、柚月は、平皇京の様子を尋ねる。

 この事に関しては、夏乃、要、真登、和泉に任せてある。

 今、真登と和泉が平皇京へ行き、撫子と連絡を取り合っている。

 夏乃と要の話によると、平皇京は、攻め入られてはいないようだ。

 以前、鉄壁により、捕らえていた隊士達は、外側の鉄壁を破壊し、逃げてしまったようだ。

 と言っても、内側の鉄壁は、まだ、破壊されていない。

 平皇京は、安全と言っても過言ではないだろう。


「そうか。帝達が、無事ならいい。だが、油断は、禁物だな」


 平皇京が、まだ、無事であると聞いた柚月は、ひとまず、胸をなでおろす。

 静居は、恐ろしい男だ

 どんな手を使ってくるか、柚月達でさえも、予想ができない。

 それゆえに、平皇京も、絶対安全とは言い切れないのだ。

 今後とも、帝と連携を取り、対策を練るしかなかった。


「静居の事で何かわかったことはあるか?」


 柚月は、静居に関して情報は得られたか、景時と柘榴に尋ねる。

 静居に関しては、空巴達にまかせっきりではない。

 独自の方法で、情報を手に入れようとしたのだ。

 何かわずかな情報でも、得られるようにと。

 しかし……。


「残念だけど、守りが固くてね。他の街もこっそり調べたけど、まだ、大丈夫みたいだよ。まぁ、皆、怯えてたけど……」


「やっぱり、空巴様方が戻ってくるのを待つしかないのかもねぇ……」


「そうだな……」


 景時と柘榴は、残念そうに首を横に振る。

 柘榴の霧脈を発動して、姿を消し、聖印京の様子をうかがっているのだが、やはり、情報を得るのは、難しいようだ。

 あれ以来、守りは固くなっているらしい。

 おそらく、偽装した手形を使用しても、潜入する事は、もう容易ではないだろう。

 華押街など、他の街の様子もうかがってきた柘榴達であったが、静居に操られていないようだ。

 と言っても、静居が、聖印寮が、いつ制圧してくるかわからない。

 そんな恐怖と不安に駆られながら、暮らしているようで、不穏な空気が漂っているらしい。

 安全とは言い切れないようだ。 

 早く、対策を取りたいところだが、静居のことに関しては、空巴達に任せるしかなく、柚月も、静かにうなずく。

 だが、その時であった。


「柚月!」


「真登!和泉!」


 平皇京へ調査に出向いていた真登と和泉が光城へ帰還する。

 だが、二人は、焦燥に駆られているようだ。

 二人は、慌てて、お広間に入るが、額に汗をかき、息を切らしている。

 一体、何があったのだろうか。


「大変っすよ!なんか、やばいことになってるっす!」


「落ち着いて、真登。何が起こってるんだ?」


 真登が慌てた様子で語り始める。 

 だが、混乱しているようだ。

 朧は、真登に落ち着くように促し、尋ねる。

 真登は、心を落ち着かせるために、深呼吸をし始めたが、焦燥に駆られ、説明ができない。

 どこから、説明したらいいのか、わからないようだ。

 柚月達は、状況を把握できず、困惑していた。


「七大将軍の藤代って男から聞いた話だ。静居は、深淵の囚人を解放するって言っていたらしい」


「深淵の囚人?」


 真登の代わりに和泉が説明し始める。

 七大将軍の一人、藤代から話を聞いたようだ。

 静居は、「深淵の囚人」と言う人物を解放する計画を立てているらしい。

 だが、深淵の囚人が、どのような人物なのか、わからず、見当もつかない朧達。

 柚月は、知っているのか、眉をピクリと動かし、深刻な表情を浮かべ始めていた。


「じゃが、藤代と言う男は、どうやって、その情報を手に入れたのじゃ?」


「隊士達の行動を探ってたらしいっすよ。そしたら、深淵の囚人を解放する方法を模索してたらしいっす」


 春日が、真登と和泉に問いかける。

 藤代は、どうやって、その情報をつかんだのだろうか。

 撫子は、静居に宣戦布告をしたのだ。

 そう簡単に、情報を手に入れられるはずがない。

 落ち着きを取り戻したのか、真登が、説明し始める。

 なんと、藤代は、隊士達を尾行していたようだ。

 彼らの会話を聞きとり、静居が深淵の囚人を解放する計画を企てている事を知ったらしい。

 納得した朧達であったが、柚月は、黙り込んでいた。


「なぁ、兄さん、深淵の囚人って?」


「……」


 柚月の様子がおかしい事に気付いた朧は、問いかける。

 悟ったのだろう。

 柚月が、深淵の囚人について、何か知っているのではないかと。

 しかし、柚月は、黙ったままだ。

 まるで、悩んでいるようにも見える。

 説明しにくいのだろうか。

 柚月は、息を吐き、心を落ち着かせ、説明すようとする。

 だが、その時であった。


「柚月、空巴達が、帰ってくるぞ」


「まさか、その深淵の囚人の情報を手に入れたとかではないですわよね?」


「あり得るとは思うでごぜぇやすよ」


 光焔は、空巴達が、帰還したことを察知し、柚月に伝える。

 こんな時に戻ってくるとは、まさか、深淵の囚人について話そうとしているのではないかと初瀬姫は、疑っていた。

 高清も、同じことを思っていたらしい。

 他に重要な情報を得たという事もありうる。 

 何せ、神々が、様子を探っていたのだから。

 思考を巡らせる柚月達。 

 すると、空巴、泉那、李桜が、帰還し、一瞬にして、大広間に集まった。


『皆、集まっておるのか?』


「うむ。何かわかったのだな」


『その通りだ』


 空巴達は、柚月達が集まり、会議をしている最中だという事を察する。

 光焔は、うなずき、空巴に尋ねた。

 情報を得たのかと。

 空巴は、うなずくが、深刻な表情を浮かべている。

 泉那も李桜もだ。

 彼らの様子をうかがっていた柚月達は、空巴達が、どのような情報を得たのか、察してしまった。


「まさか、深淵の囚人の事じゃないよね?」


『どうして、知ってるの?』


「今、その情報が入ったからだよ」


 和巳が、確認するように、尋ね、泉那は、驚いた様子を見せる。

 柚月達の予想通り、空巴達は、真登、和泉と同じ情報を手に入れていたようだ。

 驚愕する神々に対して、和巳は、淡々と説明し、神々は、納得した。


「や、やっぱり、そうだったんですね……」


『はい。静居と夜深は、深淵の囚人を復活させようとしているようです』


 時雨は、おどおどした様子で問いかける。

 李桜は、すぐに、冷静さを取り戻し、説明し始めた。

 やはり、静居と夜深は、深淵の囚人と言う人物を復活し、味方につけようとしているようだ。


「その深淵の囚人って何なんだ?俺、全然わからないんだけど?」


 透馬は、柚月に問いかける。

 彼も、柚月が何か知っていると察したからだ。

 だが、柚月は、答えようとしない。

 答えられない理由があるのだろうか。


「兄さん?」


 何も答えない柚月に対して、朧は、不安に駆られた様子で、柚月に再度問いかける。

 それも、柚月は、沈黙したままだ。

 未だ、答えるべきなのか、迷っているかのように朧達は、思えてならなかった。


「どうしたんだ?」


「もったいぶってねぇで、教えろよ」


 千里と九十九も、柚月に問いかける。

 柚月は、葛藤の末、深淵の囚人について、説明することを決意し、息を吐いて、心を落ち着かせた。


「……深淵の囚人は、千年前に、凶悪な囚人として、深淵の界に封印された男。俺たちと同じ、聖印一族だ」


 柚月の説明を聞いた朧達は、衝撃を受けた。

 深淵の囚人は、妖ではない。

 自分達と同じ、聖印一族だったのだ。

 予想を覆された瞬間であった。

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